2026年3月の音楽月報(青木裕, Dolphin Hyperspace, James Blake, Muse etc...)



青木裕 / Gryphon/Burning Tree

downyのギタリスト、青木裕氏のソロ作品。

雑誌をはじめとする音楽メディアの宣伝文句は基本的に薄目で読んで真に受けませんが、この作品が発表された際のプレスリリース「これはギターインスト最終形態である」は全く誇張にならない強度を持つ作品だと9年経っても思います。
ゲストの2人、ex.DEAD ENDのMORRIEのボーカルとLUNA SEAのSUGIZOのバイオリン以外すべての音がギターによって構成される異形のインストアルバム(一曲だけDIR EN GREYの薫氏がギターで参加)。
一般的なギタリストのソロ作品とは明らかに様相の違う、霧がかった樹海の景色が脳裏に浮かぶ劇伴的な曲が並びます。

教会の鐘のような音はリングモジュレータを使ったんだろうな、バスドラム代わりのビートはギターのボディを叩いた音を加工したのかな、吹き荒れる怨嗟の声のようなSEはリバースディレイとリバーブをかけたギターをもとに作ったのかな…といった具合に、録音風景に思いを馳せながら聴くことも今は楽しんで出来ますが
初めて聴いた時はこれ完成させるまでにどんだけ長い時間かけて録音と加工を繰り返したの…とその製作期間の長さと作り手執念に恐怖すら抱いたことを覚えています。

何の前情報もなく一聴した人なら、時折すさまじく主張の強いギターが顔を覗かせるエレクトロニカか映画音楽か?と思わせる音像は、エフェクターを駆使しギターから非ギター的な音色を出力するなんてレベルを明らかに超越していて。
ドラムだろうがシンセだろうがノイズだろうが、DTM上で様々な音色を音源を呼び出せる現代において、ギターという楽器の可能性をここまで引き出した作品を私は他に知りません。

ギターという楽器が持つあらゆる可能性のひとつの到達点、極北に聳え立つ作品。きっとこれからの人生で同じような作品には二度と出会えないのだと思います。

一曲だけお気に入りを選ぶとするなら最初に貼ったこれ。作中を通して暗い雰囲気の曲が続きますが、この曲は音色こそ体温を感じさせない冷ややかさに満ちているものの、メロディは教会音楽めいた暖かさを帯びていて、そのギャップが好き。

最後に氏の独奏を貼っておきます。
動画の5分前後でアップになる表情。こんな眼をしてギターを弾く人を私は知らない。この8年間繰り返し見てきたけど、これからも何度も折に触れて見返すのでしょう。


Long Arm / Wait for a Wonder!

森の中を思わせる鳥のさえずりや雨音に聞こえる環境音と逆再生されたシンセやストリングス。どこか埃を被ったような仄暗さが心地よい。ビートはヒップホップ的なノリを感じる所もツボで、この時期になると聴き返したくなるエレクトロニカ。


Dolphin Hyperspace feat.Louis Cole / The Life of a Bee

去年好きになったサックス×エレキベースのエレクトロジャズユニットの新曲。 新曲ってだけで当然聴くのですがそこに皆大好きLouis Coleパイセンがドラムで参加してるのだからもう私大喜び。

ジャズ畑の人たちではありますがユニットとしてはゲームのサントラ的な音楽性もウリの一つ。この曲もボス戦で流れていそうな緊迫感と疾走感が良かったのですが、
私がこの人たちのことが好きな大きな理由の一つは「ジャズにありがちなソロ回しの時間が短く、かつソロはあくまで曲の構成に一つとして組み込まれているから」なんだなーと気づきました。

私のリスニング力が追いついていないだけですが、ジャズの所謂ソロ回しみたいな文化にまだ魅力を感じれていなくて。この人たち然り、ジャズとほかのジャンルをクロスオーバーさせた音楽性が今のストライクゾーンに入ってくるようです。

話を戻して5月発売の新譜、1/3くらいLouis Cole参加しているじゃないですか、やったー。
サマソニの屋内ステージとかめっちゃ合うと思うのでいつか来日してくださいね。


The Tony Williams Lifetime / Veshkar,  
Herbie Hancock / You've Got It Bad Girl

先述したLouis Coleはここ数年で最大の出会いで、今まで馴染み切れなかったジャズを好きになれるのかも、もっと色々聴いてみようとなったキッカケのミュージシャンでした。
ただ結局この数年、彼が主催するKNOWERまわりのメンツの音楽を優先的に聴くようになって、Louis自身のルーツをあまり掘れていなかったんですよね。という訳で今更ですが、超人ドラマーの彼を形作った偉大なドラマーの2人、Tony WilliamsとJack DeJohnetteを聴くことに。

Dolphin Hyperspaceの項でも書いた通り、曲中で一つのテーマを繰り返し演奏しながらソロを回しすクラシックなジャズは勉強中の身。この2枚を新しい入り口としてのんびり体に馴染ませていこうかと思います。
あといま知ったのですが、Tonyの後任としてJackがMiles Devisのバンドに入ったという縁があるのですね。「まだ聴くには早いだろう」と距離を置いていたジャズの巨人にいよいよ挑む時が来たのかもしれません。

参考にさせて頂いた記事はこちら。
ファンクシッテルー氏の記事はLouisを知った4年前にめちゃお世話になりました。その節はありがとうございます。


James Blake / Make Something Up,  Rest Of Your Life

あまりに良いアルバムだったから掟破りの2曲選出しちゃうもんね。
先月の月報でも書いた通り傑作の予感がしてたJames Blakeの新譜『Trying Times』、期待を軽々と超えてくる素晴らしい作品でした。

先行曲の時点で今作は歌モノも多く収録されるのだろうなと予想はしていましたが、歪んだギターを掻き鳴らす『Make Something Up』なんかは最早インディーロックと言っていい音像で、歌モノという括りの中でもそこまでオーソドックスかつ力強い方向に舵を切るんだ!と驚きました。
アルバム前半は歌が主役のポップソングが並びつつ、中盤から後半にかけては前作から引き続きとなるフロア向けの曲が同列に並んでいることからも、
今作は広範なジャンルでJamesが作れる音楽を出し惜しみせずに製作されているのが伝わってきますね。
アルバム後半ではアルペジエイターが煌めくダンスチューン『Rest of Your』が一番好き。

着実にキャリアを積み重ねてきたアーティストには、外生的なトピックに依存せずとも名作を安定的に生み出せる、「静かなる最盛期」とでも呼ぶべき時期があると感じます。思い浮かぶのはGRAPEVINEやスピッツ、あるいはWilcoにThe Nationalといった面々。
ジャンルは違えど、彼らが体現してきたその境地にJames Blakeも間違いなく突入したのだなと確信しました。このレベルの作品をこれからも自然体でリリースしてくれるのかと思うと、期待が止まりません。


Racing Mount Pleasant / Do You Think I'm Pretty

年始に出会って好きになったRacing Mount Pleasantの1stアルバム。
昨年の2ndアルバムを何周もして身体に染み込んでようやくこの人たちの情報を調べ始めましたが、この1stを発表した時はKingfisherというバンド名だったのですね。通りでジャケットにバンド名見当たらないなーって思っていたわ。

全体的な印象としてはいい意味で処女作らしいと言いますか。フォーク、インディーポップ、ポストロックといった2ndにも受け継がれている要素の他にも、打ち込みビートやボイスサンプルのループといったエレクトロニカ的意匠を積極的に盛り込んだり、神聖なアレンジの曲に突如ファズギターを突っ込んで極端なギアチェンジをしてみたりと、今のバンドがやれることは全部詰め込んでやろう!という気概が感じられてとても良かったです。

後これは2ndにも通ずる要素ですが、一枚を通しての駆け引き、アルバム全体のバランス感覚がとても優れている人たちだなーと。
複雑な展開をしたり長尺な曲の前後にはインタールード的な物や短尺の曲を挟むことで、シングル的な曲の存在感が薄れず、アルバムで通して聴いてもその曲の印象が残り続けるというか。

ベストトラックはラストを飾るこの曲。楽器隊の豊かさに耳が寄りがちなバンドですが、この曲は「あなた」に向けた懺悔の歌詞、終局に向けて熱を帯びるボーカル…情けない方の「エモ」の魅力に満ちていて、それはそれで好きだなぁと。

ROSALÍA/ Berghain(Remix)

ちょっとこれは凄すぎやしませんか。
歌詞のテーマである「支配」や「神への救い」とは一見距離があるようにも思えますが、タイトルの「Berghain(ベルグハイン)」がドイツの伝説的なテクノクラブを指していること、
リミックスを手がけたConrad Taylorはドイツ系アメリカ人、そして史上最年少で市議会議員に当選した異色の経歴を持つDJだということ。

こういう背景があるからリミックスでフロア仕様のダンスチューンに変貌させたんだな〜なんて呑気に納得しかけましたが、そんな理屈や前情報をスルーして本能を直接殴りつけてくるようなサウンド。最高すぎるでしょうが。

Brit Awardのパフォーマンスでも原曲にない硬質なテクノビートをアウトロにブチ込んで狂騒を生んでいて、今回のリミックスもそれに準ずるものになっています。

原曲より僅かにBPMを下げて優雅なバイオリンの調べで幕を明けたかと思えば、それを打ち砕くように1.5倍速で刻まれる硬質なビートと聖歌隊のリフレインが雪崩込んでくる急転直下っぷりがたまらない。
そしてブレイクで炸裂するシンセの音色の鋭さたるや、もう楽器ではなくガンダムのメガ粒子砲が脳裏に浮かぶような歪み方で、もう理屈抜きの高揚感でぶっ飛べます。

あと個人的にYves Tumorのボーカルの扱い方はこっちのバージョンの方が好きです。「私を愛してくれるまでめちゃくちゃにしてやる」という怨み節がアウトロに残る原曲はホラー調で後味が悪くもあったので(フックになる部分ということは承知の上ですが)。
オペラ調で神聖さを纏った歌を歌うロザリアの裏でYvesの邪悪な声が並走するこのアレンジの方が私は好きです。


BOOM BOOM SATELLITES / DRAIN

Berghain(Remix)のビートの低音感、硬質さといった聴感が最高に好みだったので、個人的な最高のバスドラの音の一つを聴き返したくなって。ブレイク明けに鳴る四つ打ちのローが本当に荒々しくてブッ飛べますね。最高。

St. Vincent / Los Ageless(Live)

今回もイケ散らかしているアニー・クラーク先生の近影をお収めください。

大したプロモーションもなくポンとリリースされたからか、周りでこれ言及している人が全然いなくて勝手に心配しています。
Louis Cole, Jacob Collier, Snarky Puppyと粛々たる面子と共演してきた指揮者Jules  Buckleyと我らが女王St. Vincentのオーケストラアルバム。

彼女の代表曲の一つであるこの曲。ニューウェーブ由来の軽薄かつエレクトロなビートにファズで潰れたザラつく弦楽器隊が乗る奇妙なダンスポップという趣の原曲とは別に、
ピアノとボーカルのふたつまで音色を削ることで、Cメロ(I'm a monster~の部分)以降の歌の情念を際立たせるアレンジが見事なバージョンもありますが、今回のオーケストラアレンジは後者をビルドアップした印象。

前述のCメロまでは前に出過ぎず、オーケストラアレンジの巧みさは勿論のこと、アニー・クラークの美しい歌が根幹に据えた名アレンジ。
過激なギターの音作りやアルバム毎のコンセプチュアルなアートワークをはじめとする自己演出の上手さが彼女の魅力ではありますが、まず歌が美しいんですよね。時にエモーショナルに、時に機械のように無機質になる歌い方の引き出しの多さがとても好き。


Muse / Be With You

宇宙一好きなバンドはMuseです。もう恐らくその順位は一生変わらない。昨年は遂に日本を飛び出してオランダまで観に行っちゃったんだから!

で、新譜決定です。わーい。
前回のシングルUnravellingから丁度一年でアルバムと良いペース。でもこの人たちは極端にリリース空いたり滞ったりしたことないか。ありがたい。

発表と同時に先行リリースされたこの曲、昨年末にインスタで触りの部分は公開されていたんですよね。
荘厳なパイプオルガンから2ndのMegalomaniaを連想したり、次は思いっきりクラシックな方向に行くのか!?と予想していましたが
蓋を空けたら途中からダンサンブルなビートは入ってくるわ、終いには過剰なオクターブファズがかかったギターが音割れすら厭わぬ爆音で斬り掛かってくるしで爆笑しました。全っ然イントロでパイプオルガン使う必要性がない!最高だな!!

シンフォニックな雰囲気やラストでギターが炸裂する構成から過去の大名曲Take A Bowをモロに連想しましたが、この曲も普通に大好き。
前作Will Of The Peopleでも同じことを思いましたが、近年のMuseはこれまでの試行錯誤で得た地力を素直に出力するだけで高いクオリティの作品を出せる安定期に入ったなーと。
Unravelling, Be With Youと方向性の違う2曲がシングルカットされたことで、今回の作品の方向性はいい意味で読めなくなってきましたが楽しみです。そして絶対今回はアルバムツアーで来日してくれよな…!!

先月の月報はこちら


いいなと思ったら応援しよう!