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【読書】人が最も残酷になるのは~『亡霊の烏』(阿部智里)~

「八咫烏シリーズ」の最新作です。最新作と言っても、約1年前に出たものですが。

↑kindle版


関所や役所の近くに造られた、大宅座(おおやけざ)と呼ばれる大舞台だ。
大宅座では、今日あったことや、中央からのお触れなどを、公楽(こうがく)と呼ばれる演者が歌や踊りと合わせ、芝居の形で分かりやすく伝えてくれる。
昔は、中央からのお触れは立札で知らされるだけであったので、文字が読めない者は不便な思いをしたという。それを、中央で一番偉い博陸侯さまが可哀想に思って、大宅座という仕組みを作ったのだ。たくさんの人にお触れが伝わるし、貧しい楽師や舞人もお役所が公楽として雇ってあげられるようになったので、大宅座はみんなが幸せになれる素晴らしい仕組みなのだと、葵の父は教えてくれた。

p.19

博陸侯こと雪斎(かつての雪哉)、なかなか良い制度を思いつきましたね。自分にとって都合がいい情報を流すプロパガンダではあるとしても。


気になるのは、相変わらず貴種であるはずの宮烏たちの言葉遣いに品が無いこと。身内同士の会話の砕けた部分だけではなく、一応丁寧な言葉遣いをしている部分でも、そこはかとない品の無さを感じます。まぁもはや、「貴族があまり品のよくない口調で話す世界なんだな」と、諦めていますが。


どうしてこいつらは「他の者のためにお前達は犠牲にならざるを得なかったのだ」と言えば、こちらが「それなら仕方がない」と納得してくれるなどと思えるのだろう。それを言って許されるのは犠牲になった側であって、間違っても犠牲を強いる側ではないはずだ。

pp.51-52

本当にそうですね。沖縄戦や、米軍基地を抱える今の沖縄などにも通じることです。もちろん沖縄だけではありませんが。


「お腹が減っている時と夜中に小難しいことを考えて、ろくな結論になるわけがないだろ」

p.65

「死んじまったら、呪い殺す以外に復讐の手立てはないけどねぇ、図太い奴に呪いなんか効きゃしないよ。それで死ぬなら悪い奴はみんなとっくの昔におっ死んでんだよ」

p.66

忍の言葉は真実ですね。ちなみに忍も宮烏とは思えない言葉遣いですが、そもそも平民出身ですし、キャラクターがキャラクターなので、気になりません。私が嫌なのは、生粋の宮烏であるはずの人々の言葉遣いに、ちょこちょこ庶民のような言葉遣いが混ざることです。


ちなみに読みながら、何だか違和感を覚えていました。どうも1冊くらい抜けている気がするのです。でも一応は順番通りに読んでいるはずですし、前の巻を復習してから読むことはしていないので、そのせいかもしれないし、そもそも「八咫烏シリーズ」は、前の巻から年数が空いた後のことを唐突に書くのは得意技だし……と考えても、拭いきれない違和感。

3分の2まで読んだ時点で、遅ればせながら調べたら、本当に前巻の『望月の烏』を読んでいないことに気づき、唖然としました。ある意味、1冊抜けていても、何とか読み進められる構成になっていることがすごいです。例え違和感は感じたとしても(^-^;

というわけで、この後は『望月の烏』を読んでから書きます。


はい、ここからは『望月の烏』読了後です。そして結局、『亡霊の烏』も最初からすべて読みなおしました。


読みなおした上で思うのは、やはり雪斎は山内の真の再生のために、自分が悪者になっているのではないかなということ。それにしては民に与えている被害が尋常ではないし、雪斎に期待をかけすぎかもしれませんが、


公平であろうと徒手で組み合ったところで、相手に刃物を出されれば死ぬしかない。だから、こちらも同じように刃物を出さないといけないのだと、絶望と共に思い知らされるのだ。
「挙句、それをさせたのはあちらなのだから、自分は悪くないとまで思う。人が最も残酷になるのは、自分こそが被害者なのだと思い込んだ時ですよ」

p.248

溜息が出ますが、真実ですよね。ガザ地区の現状を見ても、イスラエル側・ハマス側双方に当てはまります。一番の被害を受けているのは、パレスティナの一般住民ですが。


「長束さまは、女も、平民も、全部自分達の都合の良い道具として扱う貴族中心の山内を変えたいとおっしゃった。博陸侯をはじめ、貴族を中心とした今の体制、それを肯定するような宗家の在り方にも問題があると思っている、と」

p.254

ちょっと、おっと思いました。山内を「そういう世界」として作っているとはいえ、あまりに女性の描き方が古めかしく、そこが好きになれなかったのですが、山内を変えようとする人たちが登場したわけです。


「暴力によって現状を変えようとする行為は、最も忌むべきです」

p.316

これは本当に真実。マハトマ=ガンジーが繰り返し非暴力を説いたのは、いくら主張に正当性があっても、わずかでも暴力を使った途端に、それが失われてしまうからでした。でも非暴力を貫くことの、いかに難しいことか……。


本当は一度、既刊すべてを読みなおせば、理解が深まるのだと思います。なかなかその時間も取れませんが。

続きが、そして物語の結末が楽しみです。


↑単行本



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