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AIに、経営者の仕事が奪われる

「AIで仕事が無くなる」という話は、どこででも聞く話だ。

・事務職が消える
・ドライバーが消える
・デザイナーが消える

こういった文脈で語られることが多い。

しかし、実際に経営者の私が使い込んでみて、思うことがある。

――― 最初に食われるのは、経営者の仕事

今回はこの辺りのことについて書き綴っていく。


経営者の仕事を、ハックする

そもそも、経営者は一日、何をやっているのか?

・数字を読む
・判断する
・決裁する
・文章を書く
・人を評価する
・戦略を考える
・情報を集める

並べてみて、気づくことがある。

――― 全部、情報処理だ。

物理的に何かを動かしている項目が、一つも無い。
運んでもいないし、直してもいない。
作ってもいない。
頭の中と、画面の中だけで完結している。

一方、現場の仕事はどうか?

・重い物を持つ
・狭い場所に潜る
・人と向き合って、手を動かす
・壊れた機械の音を聞く

――― 現場には、体が要るが、経営には、要らない

体が要らない仕事から順番に置き換わっていくのだとしたら、順番としては、経営者がかなり前の方に並んでいることになる。

AIの、判断力

ここからが、本題だ。

私は実際に、自分の判断とAIの判断を、何度も突き合わせてみた。

・値付け
・契約書のチェック
・外注先の選定
・事業計画の穴探し
・人事の相談。

結論から言うと、悪くない。
場面によっては、私より上だ。

特に差が出たのは、抜け漏れのチェックだった。
人間は、自分が見たい部分しか見ない。
都合の悪い条項を、無意識に飛ばす。
AIは、見逃してくれない。

そして、もう一つ、決定的に違う点がある。

――― AIには、機嫌が無い

・寝不足の日でも、判断の質が落ちない
・嫌いな相手の案件でも、辛く採点しない
・前の会議で怒られた影響が、次の判断に漏れない
・過去の自分の決定を、意地で守ろうとしない

最後の項目が、特に大きいと思っている。
人間の経営判断を歪める最大の要因は、情報不足ではない。
「引っ込みがつかない」だ。

前の記事で、勘というのは過去の事例の照合だという話を書いた。
もしそうなら、照合はまさに機械が得意とする領域だ。

――― 経営判断の多くは、過去の類似例の検索

認めたくないが、そういうことなのだと思う。

経営者が残る、理由

では、経営者は要らなくなるのか?

そうではない、と思っている。
ただし、残る理由は「判断力」ではない。

――― 判断は渡せる。しかし、後悔は渡せない

AIは、間違えた時に、何も失わない。

財産も、信用も、家族も、取引先からの評価も持っていない。
連帯保証の書類にサインできる主体でもない。
銀行は、AIに金を貸さない。

経営とは、結局のところ、結果を引き受ける人間が要る仕組みになっている。

・社員の生活が懸かっている
・取引先の入金予定が懸かっている
・失敗したら、自分の家が担保に入っている

この「懸かっている」という状態は、AIには持てない。
持てない以上、代わりに引き受けることもできない。

以前、「最終責任」について記事を書いたが、あそこで書いたことは、AIの時代になっても一文字も変わらないと思っている。
むしろ、より純粋な形で残る。

判断業、責任業

ここで、残念な話をする。
判断がAIに寄っていくと、経営者の仕事の構成比が変わる。

判断の量は、減る。
責任の量は、変わらない。
むしろ増える。

つまり、こうなる。

――― 面白い部分だけが、持っていかれる

正直なところ、経営の楽しさの多くは、判断にあった。

情報を集めて、考えて、決める。
当たった時の快感。
あれが経営者を続けさせてきた燃料の一つだったのは、間違いない。

一方、責任は面白くない。

・値上げを、取引先に伝えに行く
・辞めると言い出した社員と、向き合う
・断ると決めた話を、断りに行く
・間違いがあれば、謝りに行く

これは、何度やっても面白くならない。

残る仕事が、この方向に寄っていく。
楽しい部分が減り、しんどい部分が残る。
これが、これから起きることだと私は見ている。

危ない、経営者

整理すると、立場が危うくなるのは、こういう人だ。

――― 判断だけで食っていた人

現場から離れ、報告を受け、経験と情報だけで采配していた層。
大企業で言えば中間管理職、中小企業で言えば「番頭」と呼ばれる人たちも、ここに入る。

逆に、強いのはこの三つを持っている人だと思う。

一つ目。
体を持っていること。

現場に立てる。
物を触れる。
顧客の前に座れる。
この部分は、当面、置き換わらない。

二つ目。
責任を取れる資本があること。

信用、資産、事業の実体。
ここが無いと、そもそも引き受ける対象が無い。

三つ目。
問いを立てられること。

これが、おそらく一番重要だ。

AIは、驚くほど良い答えを出す。
しかし、問いは立てない。
「何を解くべきか?」を決めるのは、今のところ完全に人間の仕事として残っている。

・そもそも、この事業は続けるべきなのか?
・誰に売るべきなのか?
・何を、やらないと決めるのか?

こういう問いを、AIは自分から発しない。
聞かれたことに答えるだけだ。

――― 答えの価値が下がると、問いの価値が上がる

小さい会社への、朗報

ここまで暗い話を書いたが、私は、この変化を悲観していない。
むしろ、零細企業と個人事業主にとっては、歴史的な追い風だと思っている。

理由は単純だ。

これまで、大企業が持っていた最大の武器の一つは、頭数だった。

・調べる人がいる
・分析する人がいる
・資料をつくる人がいる
・法務を見る人がいる
・相談できる相手がいる

一人社長には、これらが無かった。
だから、判断の質で構造的に負けていた。
気合いや根性の問題ではなく、単純に、投入できる頭脳の量が違った。

それが、月に数千円で埋まりつつある。

――― 今まで、金でしか買えなかったのは、頭の良さだった

そして、意思決定の速さで言えば、小さい会社の方が圧倒的に有利だ。
稟議も、根回しも、部門間調整も無い。

良い答えが誰にでも手に入る時代に、最後にものを言うのは、決めて動く速さになる。
これは、小さい方が強い。

私の場合

去年から、自分の仕事のうち、どこまでAIに渡せるかを試している。

渡せたものは、思ったより多かった。
契約書の一次チェック、資料づくり、数字の分析、文章の下書き、事業計画の検証。
ここは、ほぼ全部渡した。

正直に言うと、少し怖くなった。

自分が二十年かけて身につけたと思っていたものの何割かは、そこまで希少なものではなかったということだ。

一方、渡せなかったものもある。

・伝えに行くこと
・頭を下げること
・決めること
・断ること

見ての通り、全部、気が重い仕事だ。

*****

結局のところ、経営者に残るのは、AIが引き受けられない仕事だ。
そして、割に合わない、しんどい仕事。

しかし、そこを引き受ける人間がいるから、会社は回っている。
これは、二十年前も、今も、変わっていない。

だから、私は、頭を下げることを、極めたい。


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