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「全国の企業が対象です」と言った瞬間、顧客が見えなくなっていませんか?

前回の記事では、

「ターゲットを絞ると、市場が小さくなる」

という考え方について書きました。

ターゲットを絞ることは、将来の市場を捨てることではない。

「誰に売らないか」ではなく、「誰から始めるか」を決めることなのではないか。

そんな話でした。

では、その「誰から始めるか」を決めないと、何が起きるのでしょうか。

新規事業の企画を見ていると、こんな言葉に出会うことがあります。

「全国の企業が対象です」

一見すると、可能性の大きな事業に見えます。

でも、この言葉を聞くと少し違うことを考えるようになりました。

もしかすると、

市場が広いのではなく、まだ顧客が見えていないだけなのではないか。


「誰でも使える」は、魅力的に聞こえる

新しいサービスについて話していると、

「この機能は製造業でも使えます」

「物流でもニーズがあります」

「小売にも展開できます」

と、対象がどんどん広がっていくことがあります。

実際、その通りなのだと思います。

業務効率化。

情報共有。

AI活用。

人手不足への対応。

こうした課題は、一つの業界だけに存在するものではありません。

だから、

「業界を限定する必要はない」

という話になります。

それも間違いではありません。

ただ、ここで一つ気になることがあります。

「使える」と「欲しい」は、同じなのでしょうか。


同じ機能でも、欲しい理由は違う

例えば、AIで書類を検索できるサービスがあったとします。

ある会社は、

「ベテランしか知らない情報を若手でも探せるようにしたい」

と思っている。

別の会社は、

「問い合わせ対応の時間を減らしたい」

と思っている。

また別の会社は、

「大量の過去資料から必要な情報を探す時間を減らしたい」

と思っている。

使う機能は同じかもしれません。

でも、買う理由は違います。

「使える」と「欲しい」は違う

そして、この「買う理由」が違うと、

刺さる説明も、

必要な機能も、

導入を判断する人も、

予算の取り方も変わってきます。

「AIで社内文書を検索できます」

なら、確かに多くの企業に説明できます。

でも、

多くの企業に説明できることと、誰かが強く欲しがることは別です。

ここを混同すると、

「誰でも使えるサービス」が、

「誰も今すぐ買う理由がないサービス」

になってしまうことがあります。


100社のリストを作る前に、10社を選べるか

そこで、一つ試してみたい問いがあります。

「全国の企業が対象です」

という新規事業があったら、

こう聞いてみます。

「では、最初に営業する10社を選ぶとしたら、どこですか?」

意外と難しい問いです。

市場規模は計算できる。

対象企業数も出せる。

業界の成長率も調べられる。

それなのに、

最初の10社を選べない。

もしそうだとしたら、

問題は営業リストがないことではないのかもしれません。

どんな企業が、どんな状況で、なぜこのサービスを必要とするのか。

そこが、まだ見えていない可能性があります。

100万社の市場を語れるのに、

最初の10社が浮かばない。

少し不思議な状態です。

「100万社の市場」と「最初の10社」の対比

ターゲットの広さは、可能性の広さとは限らない

「全国の企業が対象です」

「業界を問いません」

「企業規模を問いません」

こうした言葉は、事業の可能性を広げているように見えます。

でも、反対から見ることもできます。

誰が最も困っているのか分からない。

誰が最も高く評価してくれるのか分からない。

誰が最初に買ってくれそうなのか分からない。

だから、誰も対象外にできない。

つまり、

ターゲットが広いことは、可能性の大きさではなく、顧客理解の解像度を表していることがある。

そんな見方もできるのではないでしょうか。


「対象企業は何社か」より、気になること

新規事業では、市場規模を聞かれます。

「何社が対象なのか」

「何億円の市場なのか」

もちろん重要です。

ただ、その数字を見る前に、

もう一つ聞いてみてもいいのかもしれません。

「その中で、一番困っているのは誰ですか?」

この問いに答えようとすると、

業界だけでは足りなくなります。

企業規模だけでも足りません。

どんな業務をしているのか。

どんな問題が起きているのか。

どれくらい頻繁に起きるのか。

今はどうやって解決しているのか。

なぜ、それでは困るのか。

「全国の企業」という大きな塊だった市場に、少しずつ顧客の顔が見えてきます。

もしかすると、

ターゲットを絞るとは、顧客を減らしていく作業ではなく、顧客が見えるところまで近づいていく作業なのかもしれません。

「全国の企業が対象です」

その言葉が出てきたとき。

市場が大きいと喜ぶ前に、

一度だけ聞いてみてもいいと思います。

「その中で、最初に欲しがるのは誰だろう?」

その答えが見えてきたとき、

初めて「市場」が「顧客」に変わり始めるのではないでしょうか。

では、その「最初に欲しがる人」は、どう考えればいいのでしょうか。

単純に企業数の多いところを選べばいいのでしょうか。

私は、必ずしもそうではないと思っています。

次回は、

市場の「大きさ」ではなく「顧客密度」を見る

という考え方について書いてみたいと思います。


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