見出し画像

【第54講】9月なのに「7」!? ローマ建国の「七つの丘」と「北斗七星」

こんにちは!ただの医学生です。

前回までは、古代エジプトの異端の王アクエンアテンやツタンカーメンの記録抹殺という、ミステリー満載の歴史に脱線していましたね。
古代エジプトにどっぷり浸かりましたが、今回からはいよいよ時計の針を古代ローマに戻します!

今回からはカレンダー最大の謎である「数字の月」シリーズの開幕です。

【9月】の基本データ

9月は英語で
September
ですね。

私たちが日常的に使っている英語の月名。
1月〜6月まではローマ神話の神様、7月(July)と8月(August)は絶対的な権力を持ったローマの英雄(カエサルとアウグストゥス)の名前でした。

では、9月(September)の語源は何でしょうか?

実は第14講で触れています。

Coccinella septempunctata:ナナホシテントウムシ
Kudoa septempunctata:ナナホシクドア

これらを一緒に紹介しましたね!

ラテン語の Septem(セプテム)

意味はズバリ
「7」
です。

小学生のころ、9月をSeptemberと暗記させられますが、実はseptemberは「第7の月」という意味なんです。

ここまでの講義を見てくださった方なら、理由はわかると思います。
初期のローマ暦は「春(現在の3月)」が1年のスタートだでしたね。
3月から数えると9月はピッタリ「7番目」の月になります。

その後、ローマ暦の改革によって1月始まりが定着する中で、名前だけがそのまま残されてしまったため、この壮大なズレが生じたわけです。

ローマ建国の原点と、空に輝く「7」

このラテン語の「Septem(7)」という数字、実は古代ローマ人にとって非常に重要で神聖な意味を持っていました。

ローマの初代王ロムルスが最初の城塞を築いたとされるのが「パラティヌスの丘」です。
ローマはこのパラティヌスを中心とする「七つの丘」によって構成される都市国家として発展しました。


ローマの地図です
(Renata3, via Wikimedia commons)

このローマの七つの丘をラテン語で Septem Montes Romaeと呼びます。

第6講で歴代皇帝たちがこぞって邸宅を構えたパラティヌスの丘が「Palace(宮殿)」の語源になったお話をしました。

そこで、今回はこのローマの七つの丘のうち、ローマの政治と宗教の中心地となった「カピトリーノの丘」について見ていきましょう。

カピトリーノの丘には最高神ユピテルの巨大な神殿が立っていました。
この「カピトリーノ」のcapitはラテン語で「頭」を意味するcaputに由来します。
第10講で触れた、「メデューサの頭」も caput medusaeでしたね!
また、イタリア語で「ボス」のことを Capo と呼びますが、これも同語源です。

Caput(頭)が作り出した身近な言葉たち

 ラテン語の「頭(Caput)」から生まれた言葉を芋づる式に見ていきましょう!

  • Cap(帽子):ツバが周りになく、頭の形にぴったり合わせた帽子だから「キャップ」。

  • Captain(キャプテン):集団の「頭」となるリーダーのこと。

  • Cabbage(キャベツ):形や大きさが、ちょうど人間の「頭」のようだから名付けられましたというものが有力です。個人的には、この語源説がありならカボチャやスイカでもいいんじゃないの?って思いますが…(笑)

  • Achieve(成し遂げる):ad(~へ) + caput(頭・頂点) + venio(来る) = 物事の頂点(頭)に行き着く、つまり「獲得する、成し遂げる」という意味になります!

Cattle(牛)と Capital(資本)の深い関係

さらに面白いのが、畜産用の牛を意味する Cattleです。
古来ヨーロッパにおいて、乳製品や肉をもたらす牛は重要なタンパク源であり、「財産」そのものでした。
放牧されている牛の富の大きさを測る際、牛の「頭(Caput)」の数を数えていたため、それがそのまま Cattle の語源になりました。

そして、この「牛の頭数=富の大きさ」という概念から、「富・元手」を意味する Capital(資本) という言葉が派生したのです。

また、capitalという単語には、「首都」「大文字」の意味もあります。

政治の「頭」である「首都」と、経済の根幹である「資本」が、どちらも Capital という同じ単語なのは、この「Caput(頭)」の歴史が絡んでいるからなんです。

入試英単語で受験生を悩ませる多義語ですが、このように語源から攻めてみると、核のイメージを抑えたうえでそこから派生する意味を納得しながら覚えられるのでオススメです!

ちなみに英語圏の牛の呼び分けのウンチクを少しご紹介します。
牝牛や乳牛は「cow
去勢された雄牛は「ox
そして去勢されていない雄牛は「bull」と呼びます。

イギリスの最高学府 Oxford(オックスフォード) はゲルマン系の語で「Ox(牛)+ ford(浅瀬、渡り場)」。

つまり、「牛の渡り場」という意味になります。

…以前これと同じような説明をしたことがありましたね。
第2講です。

この中では、ヨーロッパとアジアを隔てるトルコの「ボスポラス(Bosphorus)海峡」について、 ギリシャ語で bos(牛)+ poros(渡る場所)が由来だと話しました。

ギリシャ神話で牛の姿に変えられた美女イオが、ゼウスの妻の怒りから逃れるために海峡を泳いで渡ったという伝説に由来しましたね。

Bosphorusは神話と絡められて「牛の渡り場」となりましたが、Oxfordは実用的・地理的に牛が川を渡る浅瀬という描写に基づいて名づけられました。

神話か実際かの違いはあるものの、イギリスの「Oxford」とトルコの「Bosphorus」が、偶然の一致として「牛の渡り場」の意味を持っているの、面白くないですか?

さて、bullは我々の生活の周りにも多く登場します。
理系大学生の味方、エナドリの『Red Bull』の缶をよく見ると、ちゃんと2頭の赤い雄牛が描かれています。

NISAなどの投資信託の投資方法には「ブル型ファンド」「ベア型ファンド」があります。
「ブル型」とは、相場が上昇した時に利益が出るように運用する方法であり、「ベア型」とは相場が下落した時に利益が出るように運用する方法です。
「ブル」は当然bullで、角が上を向いていることから名づけられました。
ちなみに、「ベア」はbearで、手を上から下に振り下ろすことから下落をイメージしています。

Bulldogはイギリスで行われていた見世物において、牛と闘う犬として登場した犬です。
いまでは可愛いペットですが、かつては牛の鼻面に噛みつくことに特化して改良された犬でした。
語源は当然bull(雄牛)+dog(犬)になります。

可愛すぎます

ダーツのど真ん中を「ブル」と呼ぶのも bull’s eye(雄牛の目)のように見えたことが語源です。

「牛の目」に見えますか?


もっとも、医療者が「Bull's eye」と聞くと、別のものを思い浮かべるかもしれません。

Bull's eye signです。

腹部エコー画像の所見の一つにありましたね。
大腸がんなどからの転移性肝腫瘍などでよく見られる、中心部が高エコー(白)で辺縁が辺縁低エコー帯(黒いハロー)に縁取られた特徴的な画像所見です。

ダーツの的や雄牛の目玉にそっくりだから付けられた名前ですが、語源の繋がりを知っていると、病棟でエコーを見る時も少しテンションが上がります。

筋肉の中のcaput

「頭(Caput)」の語源とくれば、医学生としては解剖学の筋肉用語を外すわけにはいきません!
ボディービル界隈でも常識のように使われる単語です。

  • Biceps(二頭筋):bi(2つの) + ceps(caput=頭) = 上腕二頭筋などの「頭が2つある筋肉」。

  • Triceps(三頭筋):tri(3つの) + ceps(caput=頭) = 上腕三頭筋などの「頭が3つある筋肉」。

  • 大腿四頭筋(Quadriceps)も同じ要領です。

いわゆる「力こぶ」は上腕二頭筋の隆起です。

筋の起始部を「頭」と表現する解剖学のセンス、そのまま英単語に直結していて非常にスッキリします!

カピトリーノ美術館とルネサンスの巨匠

現代の政治経済のルーツとなったこのカピトリヌスの丘ですが、現在では一般公開され、世界最古の公立美術館と言われる「カピトリーノ美術館」となっています。

先ほど紹介した第6講をちゃんと読みこんだ方は気づいたかもしれません。
「カピトリーノ美術館」には『狼の乳を吸うロムルスとレムスの像』があります。そのレプリカが、まさに東京・日比谷公園にありましたね!
ほかにも、この美術館には五賢帝マルクス・アウレリウスの巨大な騎馬像など、古代ローマの傑作が所狭しと並んでいます。

カピトリーノの牝狼と呼ばれています。

そして、この美術館が建つ「カンピドリオ広場」の美しい幾何学模様の空間を設計したのが、なんとあのルネサンスの巨匠ミケランジェロなんです!
にしてもミケランジェロ、天才過ぎて引く手あまただったのでしょう。至る所に登場しますね。

なんでもデジタルで完結してしまうこのAI時代においても、彼のように何かしらの圧倒的な「手技」や「職人技」を持っている人はやはり強いのだと思います。
医療の世界でも確かな手技は一生の武器になりますし、私もミケランジェロ大先輩に学びたいと思っています(笑)。

あの強豪サッカークラブのシンボル!

ちなみにサッカー好きの方なら、この「狼の乳を飲む双子」の姿にピンとくるはずです。
イタリア・セリエAの強豪クラブ「ASローマ」のエンブレムをググって見てください。
そこに描かれているマークは、まさにこのカピトリーノの牝狼がモチーフなんです!
2000年以上前の建国神話が、現代のスポーツチームの誇りとして世界中の熱狂的なサポーターに愛され続けている。
ローマという街が持つ歴史の層の厚さには、本当に圧倒されますね。

空に輝く「7」

さらに、ローマ人が夜空を見上げたとき、北の空で最も目立つ星座「大熊座の7つの星(北斗七星)」。
これも、7を表す言葉を使って septentrion(セプテントリオン) と呼びました。
septem(7) + triones(農耕用の牛) =「7頭の牛」という意味で、北斗七星が牛に引かれた農耕車に見えたことに由来します。

スプーンみたいな配置ですね

この名残で、現代のフランス語やスペイン語などでも、septentrionalは「北の、北方の」という意味を表す公式な単語として使われています。
古代ローマの星の数え方が、現代の「方角」にまで生きているんですね!

いかがでしたでしょうか。
次回は、この「9月(September)」という名前をどうしても自分の名前に変えたかった皇帝たちの、エゴとプライドが激突する歴史ドラマに迫ります!
それでは、次回をお楽しみに!

いいなと思ったら応援しよう!

ただの医学生|語源で紐解く「受験×教養」 毎回の記事の励みになるので、よろしければ応援お願いします! いただいたチップは記事を書くための活動費に充てようと思っています!