竹島水族館で過ごした夏休みの終わり。POPを見る私と、深海魚を見る息子
こんにちは、芽芽斗 守(めめと・まもる)です。
夏休み最後の思い出に、家族で深海魚の街で知られる愛知県蒲郡(がまごおり)市の竹島水族館へ行ってきました。
神戸から蒲郡までは車でだいたい3時間。
先日行った妻の実家がある広島までは4時間ほどかかったので、想像より近く感じました。
もちろん目的は深海魚です(笑)。
6歳の息子はここ最近ずっと深海魚にはまっていて、図鑑や動画をよく見ています。
その度にいろいろなエピソードを残していくので、私のnoteでも何度もネタにしています(笑)。
「せっかくなら夏休みの最後に本物を見てみようか」
そんな話になり、8月最後の週末に一泊で出かけました。
竹島水族館で展示されている深海生物の種類数は日本一だそうで、いまは200種類くらいが並んでいます。
開館から70年になる水族館です。
息子がふだん行っている神戸須磨シーワールドや大阪の海遊館とくらべると、新しさや大きさでは見劣りします。
でも、たくさんの深海魚を見たい息子には関係ありません(笑)。
息子にとっては設備の豪華さよりも種類の多さ。
間違いなく今求めている場所でした。

深海魚を飼うのに、水圧はいらないそうです
入館してすぐ、息子は水槽へ一目散に走っていきました(笑)。
私はその後ろをやれやれと歩いていましたが、少しすると別のものが気になり始めました。
水槽の横に貼ってある手書きのPOPです。

このPOPが、館内のあちこちにあります。
これがとても面白い。
たとえば「深海生物の飼い方は…?」というPOP。
水圧の欄には、こう書いてありました。
水圧はいりません。
意外じゃないですか。
深海魚を飼うとなると、ものすごい圧力を再現した特殊な水槽がいるのだと思っていました。
POPには、深海から引き上げられる途中の水圧の変化を奇跡的に乗り越えてきた生きものが水槽にいると書かれていました。
その一行で、私の思い込みはひっくり返りました。
また深海の生きものは、生きてきた水深によって適した水温が違うそうです。
目安は5℃から13℃くらい。
竹島水族館では、深海生物の水槽を年中13℃に保っているそうです。
そして横に、こう添えてありました。
夏は電気代ヤバイ。
急にお財布事情が出てきます(笑)。
施設の規模は大きくない。それでも、こうして飾らずに書かれると応援したくなります。

ほかにも見ていくと、いろいろ面白いことが書かれていました。
何を食べているのかわからない生き物も多いので「だいたいの勘で攻めます」。さらに「気合いが必要」と続き、最後は「愛情が大事です」で終わっていました。
深海魚の飼育方法を読んでいたはずなのに、いつのまにか部活の熱血顧問みたいな話になっています。
ふざけているようで、こういう説明のほうが頭に残るんですよね。
水圧はいらない。
水温は低い。
何を食べるかわからない魚もいる。
こうして記事を書いているいまも、すぐに思い出せます。
カサゴは、水族館に転職していました
ほかに「魚歴書」というPOPもありました。

履歴書ならぬ魚歴書(ぎょれきしょ)です(笑)。
まずはカサゴ。住所の欄はこうです。
身近な海の中、岩のそば、すき間、壁際
職歴まであります。
海にいたころは昼間は家でゴロゴロ。夜になると出歩いて、ご飯を食べたり遊んだりしていたとか。
そんな生活にも飽きてフラフラしていたところ、いい仕事があると聞いて水族館へ。そして現在。
ご飯はもらえるし、動かなくていいし、大満足です。
完全に転職成功ですね。
隣にはギマの魚歴書もありました。
こちらは三河湾の出身です。
自分は水族館に選ばれたものの、一緒に網にかかった友達はどうなったのか。
地元のスーパーに就職したそうです。
それは就職と言っていいのでしょうか(笑)。
ときどき挟んでくる、こういうブラックジョークも私にはツボです。
息子と魚を見に来たはずが、私は魚歴書を面接官のように熟読していました。
採用されてからも、どうやら大変です。
「上下関係がきびしいヤッコ社会」というPOPもありました。

新人のころは自分より小さい魚にも下に見られる。
大きくなれば立場も変わりますが、大きい相手には基本的に逆らわない。
同じ種類や模様の似た魚とは、よくケンカするそうです。会社員時代を思い出しそうになりましたが、そこは考えないことにします(笑)。
たとえば「縄張り意識があります」とだけ書かれていたら、私は何も考えず流し見して通り過ぎていたはずです。
「ヤッコ社会」と言われると足を止めて読んでしまう。
中身は同じ魚の生態なのに、不思議なものです。
これが言葉の持つ力なのでしょうね。
私は昔から、POPが好きでした
POPを追っていくうちに、次はなにが書かれているのかなとワクワクしてきます。この感じには覚えがありました。
ヴィレッジヴァンガードです。
「ヴィレヴァン」の愛称で親しまれ、「遊べる本屋」として知られるお店です。1号店は1986年に名古屋で開いたそうです。
私も学生時代、通学圏に店舗があったのでよく立ち寄っていました。
本も雑貨も目当てでしたが、いちばんの楽しみは店員さんが書いたPOPでした。本棚を見ているはずなのに、気づくと横に貼られた紙を読んでいる。
商品の説明に、その人の感想やツッコミが混ざっています。
ときには肝心の商品よりPOPのほうが目立つ。
でもそれを読むと、さっきまで興味のなかった本まで気になってくる。
「これ面白いですよ」ではなく「いやいや、このジャンルが好きなら読まないと人生損してますよ」くらいの距離感なんですよね。
ついPOPを読んで、そのまま買ってしまったことも一度や二度ではありません(笑)。
こうして思い返すと、手書きのPOPはあちこちにありますよね。
コンビニのレジ横の「店長イチオシ」。
スーパーの鮮魚売り場の「今日はこれ!」。
字も絵もばらばらで、書いた人の人柄までにじんでいます。
神戸で言えば、ヤマダストアーがそうです。
兵庫県太子町の小さなスーパーから始まり、いまは須磨や六甲アイランド、西宮にも店があります。
大手メーカーの商品をほとんど置かず、地元の生産者と組んで売っています。その売り場に並んでいるのが、毛筆の手書きPOPです。
毛筆というだけで、値段と産地しかない紙とは伝わってくる量がまるで違います。
誰がどんな気持ちで仕入れたのかまで書かれています。
竹島水族館を歩きながら、久しぶりにあの感じがよみがえりました。
深海調査船の正体は、扇風機でした
展示のつくり方にも驚かされました。

深海調査船がサーチライトを動かしながら生き物を探す様子を再現した水槽がありました。ライトがゆっくり左右に動いています。
大きな水族館ではないけれど、こういうところにはお金をかけているのかな。
そう思いながらPOPを見たら、答えが書いてありました。
「小型扇風機にライトをつけています」
なるほど(笑)。
POPには「お金がなくてもアイデアで展示を生み出す」とも書かれていました。
高価な装置を買うかわりに、すでにあるものを組み合わせる。
見せたい景色が先にあって、方法はあとから考える。
サントリーの創業者、鳥井信治郎さんの「やってみなはれ」が浮かびました。
こういう動き方、いいですよね。私は大好きです。
正しいことを置くだけでは、読んでもらえない
館内には、少しまじめな調子のPOPもありました。
海洋プラスチックについて書かれたものです。

海へ出たプラスチックを生き物が食べる。
細かく砕けたものまで体の中に取り込まれていく。
内容だけ見れば、学校の教科書に出てきてもおかしくありません。
これも手書きです。クジラやカメの絵が添えてあります。
難しい言葉を並べるかわりに、いつものPOPと同じ調子で語りかけてきます。
正しい情報を水槽の横に貼ることはできます。
でも読むかどうかは、その人次第です。
ひとつ、こんな実験があります。
二人一組で、片方が誰でも知っている曲のリズムを机で叩き、もう片方が曲名を当てます。
叩く人は半分くらい当たると予想しましたが、120曲のうち正解はたった3曲でした。
叩いている本人の頭の中では、曲がはっきり鳴っています。
だから伝わっている気がしてしまう。
でも聞いているほうに届いているのは、コツコツという音だけです。
1990年にアメリカで行われたもので、「知識の呪い」の例としてよく紹介されます。
自分にはわかっていることほど、相手にも伝わっていると思い込んでしまう。
水族館で働く人にとって、魚の暮らしぶりは毎日見ている当たり前のことです。
その当たり前を「縄張り意識があります」と正しく説明されても、息子に付き合って歩いているだけの私のような客は通り過ぎます。
「まあそうだよね」で終わりです。
だから魚歴書というかわいい名前をつけて、魚に履歴書を書かせてみる。
魚の世界を会社にする。
深海魚の飼育を「気合い」で説明する。
まずは足を止めて読んでもらう。
竹島水族館は、そこにかなり力を入れているように見えました。
この水族館の来場者数は、20年ほど前に年間12万人まで減ったそうです。そこから盛り返し、いまでは40万人を超える年もあります。
実際、私が訪れた日もかなり賑わっていました。
深海魚に力を入れたことなど、理由はいくつもあると思います。
少なくとも私は、POPが面白かった。
それだけでこうして竹島水族館を紹介する記事を書いていますから。
バックヤードで、「気合い」の意味がわかる
この日はバックヤードツアーにも参加しました。
土曜日だけの開催で、当日売店で申し込む先着15名です。
絶対に逃せないので、我が家はこの日は朝5時起きでした(笑)。そして無事、滑り込めました。
ちなみにツアーの最初に「館内はどんどん写真を撮ってSNSで紹介してください」とアナウンスがありました。
「いろんな人に自慢してください」とまで言われたので、お言葉に甘えてPOPの写真も今回の記事にたくさん使わせてもらっています(笑)。

普段は入れない場所に入ると、景色が一気に変わります。
息子は大きな水槽を上からのぞき込んでいました。
私はその横で、さっき読んだPOPを思い出していました。
「気合いが必要」
「愛情が大事です」
最初に読んだときは笑いました。
でもバックヤードを見ると、あながち冗談でもない気がしてきます。
旧館のバックヤードには、普段はお客さんに見せない水槽も並んでいました。

展示ができあがってからが本番です。
水を管理してエサを考えて、毎日調子を見る。
深海から来た生き物なら、わからないことのほうが多いはずです。
この毎日を全部書いても、たぶん読む人はほとんどいません。
だから数行のPOPにする。
あの数行は、毎日の積み重ねを削って残した言葉なのだと思いました。
私も、水槽の横に紙を貼っています
帰りの車で考えていました。
私はいま、noteに文章を書いています。
内容は水族館とまったく違います。
でも、やっていることは少し似ているのかもしれません。
自分が学んだこと。
考えたこと。
心が動いたこと。
それをそのまま書いても、ただの中年男性が書いたポエムです。
良くて日記。なかなか読んでもらえませんよね。
タイトルを考える。最初の一文を考える。
ためになりそうな自分の経験に置き換えてみる。
「伝えたいものを、伝わるかたちにする」
会社員のころは職種を何度も変えましたが、やっていたことの根っこは同じでした。
相手に届くように、見せ方や伝え方を考える仕事です。
昔ヴィレッジヴァンガードのPOPが好きだった理由も、いまなら少しわかる気がします。
私が惹かれていたのは、POPの向こうにいる書いた人だったのかもしれません。
私は今年の夏休み最後の思い出に、息子を深海魚に会わせに行きました。
息子は目をキラキラさせながら、何時間も夢中で水槽の中をのぞいていました。
私はその横で、学生時代を思い出しながら色鮮やかなPOPを読んでいました。
見ていたものは親子で違いましたが、たぶんどちらもかなり楽しんでいたと思います(笑)。
この記事を読んで興味を持ってくださった方は、ぜひ竹島水族館まで足を運んでみてください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
少しでも刺さるものがあったら、スキを押してもらえると励みになります。
