【文学フリマ挑戦】#6 「文学フリマに出る」と言った瞬間、家族の空気が変わった | MMPP Publishing
本を見せたあと、ちょっとだけいい空気になった。
「ほんまに本やね」
「読めるやん」

そんな声があり、テーブルの上には、まだ少しだけ余韻が残っている。
いまなら、いけるかもしれない。そう思ってしまったのが、間違いだったのかもしれない。
「文学フリマに出る」
自分でも、思っていたより早く口から出た。
一拍、間があった。
「……そっちに行ったんだ?」
妻のひと言で、空気の種類が変わる。
ブログやってアフィリエイトやってるのは、まあ家族も知っていた。
「またなんかやってるな」くらいの、感じである。
夜にパソコンに向かっていても、「はいはい」くらいの扱いで、特に深く突っ込まれることもない。
収益がどうとか、アクセスがどうとか、そういう話もしていなかったし、家族としても「趣味の延長」くらいの認識だったのだと思う。
だから、今回の話も、正直その延長線で受け取られると思っていた。
でも、どうやら違ったらしい。
「そっちに行ったんだ?」
その一言には、「なんで急に?」が詰まっていた。
子どもたちはというと、
「え?なにそれ?」
「フリマって、あのフリマ?」
「本売るん?」と、興味はあるが、全体像はまったく掴めていない様子だ。
いや、ちょっと待ってほしい、自分の中ではちゃんと地続きなのだ。
ブログを書いて、文章を書く習慣がついて、短い話を書き始めて、気がつけば形にしたくなって、本にしてみた。
そして、その本を持って外に出てみたくなった――ただ、それだけの話である。
順番に進んできたつもりなのだが、どうやらその途中経過は、ほとんど共有されていなかったらしい。
「え、え、え?」
そんな空気の中で、私はようやく気づいた。これは説明がいるやつや、と。
「いや、あのな。フリーマーケットみたいなもんやけど、本限定のイベントがあってな……」
できるだけ噛み砕いて説明してみる。
とはいえ、私もたいして知っているわけではないのだが……。
「で、何売るん?」
「自分の本?」
「何冊あるん?」
「儲かるん?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。
「今はこの手元の一冊……いや、まあ、他にもいろいろあるし、これからやけど……」
この時点で、すでにちょっと分が悪い。
「で、いくらかかるん?」
来た。核心である。
「えーと……出展料が……」
ここは正直にいくしかない。ごまかして後でバレる方が、ダメージが大きい。
金額を伝えると、一瞬だけ静かになるテーブル。
その間が、やたら長く感じる。
(あ、これ、あかんやつかもしれん)
内心ヒヤッとしながらも、私は続ける。
「でもな、これ、ただの出店やなくてな。自分の本を直接手に取ってもらえる場やねん」
「へえ……」
反応は、薄い。
薄いが、完全に否定でもない。微妙なラインである。
ここで私は、少しだけ言葉を選ぶ。
「その……今まで書いてきたやつを、ちゃんと形にしたいねん」
自分でも少し照れくさい言い方だと思うし、たぶんここは誤魔化したらあかんところです。
「形?」
「うん。本として出して、人に見てもらうっていうか」
すると、子どもの一人がぽつりと聞く。
「売れたらどうなんの?」
素晴らしく良い質問である。
そして、いちばん答えに困るやつでもある。
「……うれしい」
正直すぎる回答に、自分でちょっと笑ってしまう。
すると、子どもたちもつられて笑う。
妻はというと、その様子を見ながら、少しだけ表情を緩めた。
「まあ、楽しそうではあるよね」
その一言で、場の空気が少しだけ軽くなる。
もちろん、全面的に賛成というわけではない。
費用のこともあるし、休日の使い方としてどうなのか、という現実的な問題もある。
でも、完全に反対されているわけでもない。
そのグレーゾーンが、今の自分にはありがたかった。
「楽しそうになんかやってたみたいやし、一回やってみたらええんちゃう」
最終的に、そんな言葉で会議は締めくくられた。
背中を強く押されたわけではない。しかし、止められもしなかった。
それで、十分だ。
むしろこのくらいの温度感の方がいい。
自分の挑戦は、自分で責任を持って進めるべきものだからだ。
テーブルの上には、例の一冊が置かれている。
まだ「作品」というには頼りない、でも確かに自分が作った本。
これを持って、あの場所に立つ。
そう考えると、やっぱり、少しだけ怖くて、でもそれ以上にワクワクしている自分がいる。
――ただ、このときの私は、まだいろいろと決まっていないことだらけだった。
サークルのことも、レーベルの形も、名前の扱いも、あとになっていろいろ整えていくことになるのだが、それはもう少し先の話である。
さて、こうしてなんとか家族会議を乗り越えたわけだが、次に待っているのは、もっと現実的な問題たちである。
そもそも、MMPPって何やねん?
レーベル名、それでほんまにいけるんか?
そして、本は何冊用意するつもりなのか?
考えれば考えるほど、知らないことしかない。ツッコミどころ満載な状態である。
それでも、もう後戻りはしない。
――たぶん。
※ 話の中で出てきた本は、実在するものです。
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