【連作掌編】『バイバイ』 第三話 既読とレストラン
◀ 前の話し
第三話「既読とレストラン」 作:MMPP.K
スマホを開くと、既読がついていた。
それだけで終わっているメッセージがいくつかある。
返信はまだない。
特に急ぎの用事ではない。
だから送ったこと自体を少し忘れていた。
それでも、ふとした瞬間に思い出す。
「忙しいんやろな」
そう思うことで終わらせる。
終わらせることには慣れている。
昼休み、もう一度スマホを見る。
やっぱり返事はない。
通知は静かなまま。
「まあいいか」
声には出さない。
出さなくても、そう思うだけで一度は落ち着く。
その日の夜、返事が来た。
『ごめん、今日ずっとバタバタしてた』
短い文章だった。
それだけで、少しだけ空気が変わる。
怒っていたわけではないのに、怒っていなかったことが分かると、少しだけ安心する。
『大丈夫』とだけ返した。
数日後。
「ご飯行く?」
と向こうから来た。
その日は少しだけ、いつもより早く待ち合わせ場所に着いた。
駅前のベンチに座る。
人の流れをぼんやり見る。
遠くから手を振るのが見えた。
いつも通りの顔だった。
「待った?」
「ちょっとだけ」
そのまま歩き出す。
どこに行くかは決まっていない。
「どこ行く?」
「どうしよか」
結局、少しだけいいレストランに入ることになった。
一人では入らないような店だった。
店内は静かだった。
照明が少しだけ柔らかい。
会話の声も自然と小さくなる。
料理が運ばれてくる。
特別な料理ではないのに、少しだけ丁寧に見える。
「ここ、いいね」
「うん、落ち着く」
しばらく、特に大きな話はしない。
食べて、飲んで、それだけ。
でも、沈黙が気まずくない。
むしろ、何かを埋めているような沈黙だった。
「また来たいね」
自分がそう言うと、相手は少しだけ笑って答えた。
「うん」
その「うん」は、いつもと同じだった。
でも、少しだけ遅かった気もした。
帰り道。
駅まで並んで歩く。
「今日はちゃんと話せた気がする」
どちらからともなく、そんな話になる。
「そう?」
「うん、ちゃんと」
その言葉に意味があったのかは分からない。
でも、その時はそう思った。
駅に着く。
いつもの別れ道。
「じゃあね」
「うん、また」
手を振る。
振り返される。
それだけのはずだった。
でも、ホームに降りてから、少しだけスマホを見た。
何も来ていない。
そのことに、特に意味はないはずだった。
© 2026 MMPP Publishing
Home / Works / Creators / Lab /「note」/ Label / Legal / Contact
