おすすめ本(18)『王朝序曲』平安時代の始まり始まり〜
学生時代の私は、「歴史」とは「暗記をする競技」だと思っておりました。でも、「暗記」って興味がないと難しいのですよねー。
だいたい「将軍」ってやつの名前は、三代目くらいまでしか覚えられません。
鎌倉は「源頼朝」「頼家」「実朝」の三人で頭がいっぱい。四代目は京都から呼んできた摂関家の坊ちゃんだし。
室町も「足利尊氏」「義詮」「義満」で頭いっぱい。
江戸も「徳川家康」「秀忠」「家光」で頭いっぱい。
室町も江戸も三代目(三つ目)に「みつ」が付いているところは覚えやすいけども、そのあとは、足利は名前に「義」ばっかり、徳川は「家」ばっかり付いていてごちゃごちゃになるのですよねー。
うーん。「家」に縛られ過ぎ。
って、なんの話ですか?
歴史の話です。
昨日、こんな記事を書きました。
昨日行われた「第5回ひだまり読書会」のテーマが「女性作家」でありまして、昨今の綺羅星のような大活躍を続ける女性作家を紹介するのは、他の参加者にお任せして、私は、既に故人となり、この先その著書がどんどん絶版の憂き目に遭いそうな作家さんの作品を紹介する所存だ、という記事です。
若い頃、いろんな女性作家の作品を読みました。田辺聖子さん、宮尾登美子さん、有吉佐和子さん、向田邦子さん、杉本苑子さんなどなど。
そして、今回、「ひだまり読書会」で私が紹介したのは、
永井路子『王朝序曲』(角川文庫→朝日時代小説文庫)
です。
永井路子さんは、歴史小説の作家です。
若い頃、近所の図書館に「永井路子全集」が、ドーンと入ったのですよ。ピッカピカの新刊でした。「図書館の本なのに、綺麗」というのに惹かれて、第1巻から借りて読み始めました。
17巻くらいまであって、1巻は「氷輪」という奈良時代を描いた作品。2巻も奈良時代やそれ以前を舞台にした短編集。以降、巻が進むにつれて時代も下っていく、という趣向でした。
で、源平合戦を描いた「波のかたみ」が入った7巻くらいまで読んだのですが、その後、引っ越したこともあって、次第にこの全集のことは忘れておりました。
ただ、7巻まで読んだ中で、特に面白かったのが第4巻に載っていた『王朝序曲』だったのをうっすら覚えていたのですよ。
その後、本屋で角川文庫の『王朝序曲』を見た時に、「あー、懐かし〜。買おうかな」と思ったのですが、一度読んだ本を買うよりも、読んだことのない本を買う方が、有効にお金を使うことになるのではないか、と悩みました。
で、「迷った時は、間を取る」というその時の私の方針に従い、上下巻の「上巻だけを買う」ことにしました。家で上巻を何度も読むようなら、その時には下巻も買おう、と。
で、さらに時は流れました。
ある時、家の本棚ですっかり黄ばんだまま、忘れかけられてもずっと耐え続けている『王朝序曲(上)』(角川文庫)を見つけました。
私は、「ずっと一人にして申し訳なかった。あなたの片割れである下巻を今度、この家に招待するね」と黄ばんだ本に謝り、下巻を買うことを本に約束しました。
しかーし。
その時には、『王朝序曲(上・下)』(角川文庫)は、絶版になっていたのですよ。
ごめんね、上巻。
と言いつつ、またまた時が流れました。
そしてー。
最近、デカ目の本屋で、なんと朝日時代小説文庫から『王朝序曲』が発売されているのを見つけました。
飛びついて買いました。
で、昨日の「ひだまり読書会」に持っていったのが、
裏に「本体480円」と書かれた角川文庫の『王朝序曲』(上)
裏に「本体900円」と書かれた朝日時代小説文庫の『王朝序曲』(下)
だったわけです。
さて、この本、桓武天皇・平城天皇・嵯峨天皇の時代の話で、「長岡遷都」「平安遷都」「薬子の変」などが描かれます。
たーくさんの人物が出てきますが、押さえておきたいのは、
藤原冬嗣・・・主人公。藤原北家の内麻呂と百済王永継の次男
藤原真夏・・・冬嗣の同母同父の兄。野心家。
良岑安世・・・真夏と冬嗣の異父弟。父は桓武天皇。
桓武天皇・・・めっちゃ頑張る帝。遷都もするし、大張り切り。
平城天皇・・・父の桓武に対抗心むき出し。熟女の薬子にくびったけ。
嵯峨天皇・・・政治に興味なし。学問と書道と女性が大好き。
藤原薬子・・・入内する娘に付き添ったら、帝に惚れられた美魔女。
この七人かと。
また、この本は、こういう人にお勧めしたいです。
1、歴史好きな人へ
永井路子の独自の歴史の解釈がたくさん出てきて、面白いです。
2、歴史知らん人へ
人間ドラマとして面白いです。
3、教科書でのみ歴史を知っている人へ
教科書の「項目」がドラマに変わります。
名前しか知らなかった人々が、イキイキ動き出します。
そういえば、私は「平安部」に入っているのでした。
↑「平安部」については、この記事をお読みください。
『王朝序曲』は、平安時代がいかにして始まったかを、語る本でもあります。
永井路子さんは、
本来の平安王朝は、桓武の平安京遷都ではなく、まさに810年というこの時期に初めて開幕するといっていい
とおっしゃっています。
なぜ、平安時代には(建前上とはいえ)長らく死刑がなかったのか、なぜ豪華絢爛な王朝文化が花開いたのか、もこの本を読めばわかります。
最後に、この本の中で最も心に残った文章を書きます。「薬子の変」の後で、藤原真夏が冬嗣に言った言葉です。
「そりゃ薬子どのは妖婦かもしれない。が、冬嗣、薬子どのがどうであろうと、安殿さまの恋は真実だ」
「・・・・・」
「じゃ聞くが、醜い女、悪い女のことは誰も恋してはいけないのかね」
「そ、そんなことは」
「そうだ、人間は、すぐれているから恋する、だめな奴は棄てる、というものじゃなかろう」
「安殿さま」というのは平城天皇のことです。「薬子の変」の後で、失脚し、隠遁する平城上皇の元を離れようとしない真夏の言葉だと思うと、この言葉は胸に沁みます。
いろんな意味で面白い本です。心に残る本です。オススメです。
