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7年間好きだった人と離れ、ようやく分かったこと。ー『対岸の彼女』を読んで

最近、久しぶりに本を読んだ。

角田光代さんの『対岸の彼女』。

一言でいえば、女性同士の友情を描いた小説だ。

けれど読み進めるうちに、それは友情だけではなく、恋愛や家族、人と人とのあらゆる関係についての物語になっていく。

読み終わって数日経った今も、私はまだ本の中から帰ってこられていない。


この夏は、暑すぎる。

休日は外へ出る気力もなく、エアコンの効いた部屋で映画を観たり、本を読んだりして過ごす日が増えた。

せっかくなら、今の自分だから読める本を読みたい。

そう思って、この一冊を手に取った。

理由は単純だ。

私は少し前、七年間好きだった人に別れを告げた。

涙が止まらない時期は、もう過ぎた。

でも、心のどこかに静かな余白だけが残っている。

その余白を埋めるでもなく、無理に忘れさせるでもなく。

ただ隣に座っていてくれるような本が読みたかった。

そして読み終えた感想は、一つだった。

「なんてもんを読ませてくれるんだ。」


『対岸の彼女』で一番有名なのは、この言葉だ。

「ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」

もちろん、この一節も胸に刺さった。

でも私の中に最後まで残り続けたのは、少し違うところだった。

この物語は、「対岸」にいる人たちの話だ。

学生時代は何もかも共有できていた二人が、大人になるにつれて少しずつ違う人生を歩き始める。

結婚している人。

仕事をしている人。

子どもがいる人。

同じ時間を生きていたはずなのに、気づけば人生は別々の岸へ流れていく。

手は振れる。

でも、簡単には渡れない。

その「渡れそうで渡れない距離」が、とても苦しかった。


"対岸"という言葉を読んでいて、私は映画『あの子は貴族』を思い出した。

あの作品もまた、「対岸」を描いた物語だ。

今の日本には階級制度なんて存在しないと言われる。

でも実際には、育った家庭、学歴、住む街、経済状況、交友関係――そんな目には見えないものが、人をゆるやかに分けている。

同じ東京で暮らしていても、一生交わらない人生がある。

気づけば私たちは、自分と似た景色の中だけで生きている。

だから、違う岸にいる人を理解することは、とても難しい。

『対岸の彼女』も、『あの子は貴族』も、その見えない川を描いている作品なのだと思う。


読んでいて、ふと思った。

私はずっと、「女性同士の友情は永遠だ」と思っていた。

恋人は別れたら他人になる。

でも友達は違う、と。

だけど現実はそんなに綺麗じゃない。

中学や高校で毎日何時間も一緒にいた友人。

今、何をしているか分からない人の方が多い。

誰も悪くない。

ただ、お互いの人生が少しずつ対岸へ流れていっただけだった。

歳を重ねるほど、その川幅は広がっていく。

だから私はいつの頃からか、人と深く関わることが無意味に思えていた。

どうせ、いつか離れてしまう。

そんなふうに思っていた。


そんな私に、この本は静かに問いかける。

「なぜ私たちは歳を重ねるのか。生活に逃げ込んでドアを閉めるためじゃない。また出会うためだ。出会うことを選ぶためだ。選んだ場所に自分の足で歩いていくためだ。」

ページをめくる手が止まった。

私は彼のことを思い出した。

正確には、「失ったもの」ではなく、「彼が置いていったもの」を数え始めていた。

仕事で褒められることが嬉しくなった。

興味がなかったものを好きになった。

たとえば、コーラ。

昔の私は、「身体に悪いから」とほとんど飲まなかった。

でも彼が好きだった影響で、今ではたまに飲む。

スーパーでコーラを見るたび思い出すわけじゃない。

でも気づけば、彼がいなくなった今も、その習慣だけは私の中に残っていた。

そんな小さな変化が、たくさんある。


谷川俊太郎さんは、こんな言葉を書いている。

「ほんとうに出会った者に別れはこない」

昔は、綺麗な言葉だなと思っていた。

でも今なら少し分かる。

人は去る。

関係は終わる。

会えなくなる。

それでも、その人と出会ったことで世界の見え方は変わっている。

その変化だけは、誰にも奪えない。

だから私は最近、こんなことを思うようになった。

別れは、人を失うことじゃない。

世界の見え方が、ひとつ増えることなんだ。

これからも私は、たまにコーラを飲むだろう。

仕事で誰かに褒められたら、心のどこかで彼を思い出すかもしれない。

そしてまた誰かと出会う。

笑って、傷ついて、それでも少しずつ世界を広げながら生きていく。

『対岸の彼女』は、別れを忘れさせてくれる本ではなかった。

別れを、自分の一部として抱えながら生きていく方法を教えてくれる本だった。

この夏、このタイミングでこの一冊に出会えて、本当によかった。

もふおみ


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