新規事業の選び方|なぜ飲食で、なぜかき氷だったのか
前回、マーケティングの会社が自腹でかき氷屋を始めた話を書きました。そのなかで「かき氷は素人でも品質を管理できる業態だ」と書いて、そのあとに小さく「舐めていた」と付け足しました。
※全然伸びなかったのでここからは備忘録と自己満の世界…
今回はその話です。ただ、その前に順番があります。そもそもなぜ飲食で、そのなかでなぜかき氷だったのか。 決めるときに実際に使った軸を全部出して、最後に、その軸のどこを見誤ってオープンが1ヶ月ずれたのかを書きます。
この記事で書くこと
新規事業を考えるときの5つの観点と、スタートアップの場合にそれがどう変わるか
飲食の業態を比べるために使った6つの軸と、実際の評価
その評価で見誤った1項目と、足すべきだった7つ目の軸
新規事業の業種や業態をこれから決める方に向けて書いています。前半は考え方、後半は評価の中身です。後半だけ持ち帰ってもらっても構いません。
新規事業を考えるとき、最初に何を見るのか
見るのは5つです。市場性、収益性、競合性、実現性、トレンド。
ここは教科書どおりで、僕の独自性は何もありません。
市場性:市場があるか。それを必要とする人はいるか
収益性:事業として成り立つか(PL)。ビジネスモデルの登場人物全員にメリットを提供できているか(機能価値・情緒価値が、ちゃんと金になるか)
競合性:競合はどれくらいいるか。既存の手段や競合が満たせていないニーズは何か。競合の強みと、自分の勝ち筋はどこか
実現性:自社の既存アセットで作れるか。他社の協力を含めてもいい
トレンド:情勢はどうか。制作はどうか。流行りはどうか
ひとつだけ注意を書いておきます。市場性を「既存市場の規模」で測ると、イノベーションの可能性とニッチを見逃します。 市場規模が出るのは、すでに誰かがやっている領域だからです。スタートアップがそこだけを見るのは、本来あるまじきことだと思っています。
ここまでは、調べれば出てくる話です。問題はこの次にあります。
資本もノウハウもない会社が、勝てる業界はどこか
僕らは資本もノウハウもありません。だから、大手資本と真正面からぶつかる領域を選んだ時点で負けます。5つの観点のうち、実現性と市場の見極めだけが極端に重くなる、というのがスタートアップの補正です。
(この「弱者の戦い方」自体は長くなるので、別の回で書きます)
そのうえで、僕が飲食を選んだ理由は3つあります。
1つ目。飲食は、選択肢が多い世界です。
これは普通なら弱点として語られます。競合が多く、大手もいる。ただ、選択肢が多いということは、お客さんが毎回どれかを選び直しているということでもあります。大手がいても、選ばれる可能性を1%でも上げる手段があれば勝てる。逆に、選択肢が少ない業界では、その1%を作る余地そのものがありません。
では、その1%を作る手段は何か。僕はマーケティングだと思っています。うちの強みがここにあるから、という理由も正直あります。
マーケティングの定義はいろいろありますが、僕は「人の選択を変える力」だと思っています。
選択肢が多い業界は、人の選択を変える力が一番効く業界です。だから飲食を見ました。
2つ目。AIの時代に、なくならないものを考えました。
AIは世の中を大きく変えました。これからもっと豊かになっていくはずで、いつかベーシックインカムのような話も来るかもしれません(大学時代にその論文を読んだのを、いま思い出しました)。
そう考えたときに、なくならないものは何か。僕は衣食住だと思いました。 だから飲食はやりたかった。ついでに書いておくと、不動産と教育もいつかやりたいと思っています。
きっかけをくれたのは、前回書いたとおりクライアントの「やってみないとわかりませんよね」です。ある意味では感謝しています。やるきっかけをくれたので。
3つ目。情報の受け取り方が変わったから、飲食で必要なマーケティングも変わったと考えました。
情報社会と呼ばれて久しいですが、その情報量が膨大です。本当か嘘かも分からないものが日々出てくる。そしてSNSの普及で、それが際限なく入ってくる。
以前、稲田豊史さんの『映画を早送りで観る人たち』を読みました。まさにそれだと思います。情報が膨大だから、流し見される。 つまり、従来型の広告では勝てません。
同時に、憧れ、自己承認、個性の重みが増していて、価値観も多様化しています。そして情報は、第三者が語ったものより一次情報や発信元そのものが重視されるようになりました。
この3つを踏まえて、僕はこう整理しました。
情勢:AIが進んでも、衣食住は残る。飲食は生き残る
飲食で効くマーケティング:認知獲得だけでは足りない。「認知 × 好意的に理解されること」+「体験価値」で、口コミとファン化を作る形に変わっている
弱者の勝ち目:選択肢が多い飲食なら、戦略的に戦えば弱小スタートアップでも勝ち目がある
これが、業界を飲食に決めた理由です。
では、飲食のどの業態にするか
業態を決める段では、5観点のうち「収益性」「市場性」「実現性」の3つが効きます。それを測れる形に翻訳したのが、次の6軸です。
収益性 → ①原価率(単価とコストのベース)、④単価
市場性 → ③季節性と人気(求める人がいるか)、⑥立地(来やすいか)
実現性 → ②制作の難易度(味・作りやすさ・仕組み)、⑤SNSとの相性
そして、重視した順番はこうでした。
1. 原価率——最初に置いたのは、ここが後から動かないからです。業態を選んだ時点で原価率の上限はほぼ決まります。人員配置や集客はあとから直せますが、原価構造は業態を変えないと直りません。
2. 制作・オペレーションの難易度——見ていたのは「作るのが難しいか」ではなく、「作る人が変わっても味が変わらないか」です。素人が始める前提なので、自分の腕に依存する業態は最初から候補外でした。
3. 季節性——有利にも不利にも働きます。夏に始めるならかき氷は当然有利ですが、裏を返せば売れない期間が長い。ここは「読みやすさ」で見ていました。
4. 単価——原価率と一緒に見る軸です。単価が低い業態は、原価率が同じでも人件費の比率で潰れます。
5. SNSとの相性・見た目——本業がマーケティングなので、自分の武器が効く軸です。ただし5番目に置きました。
6. 立地——最下位です。そもそも「物件を借りずに間借りできる場所」という制約から始まっていました。
自分の武器が一番効く軸を、優先順位の上に置いてはいけない。そこを上に置くと、勝てる事業ではなく、やりたい事業を選ぶことになります。
実際の評価
当時比べたのは4つです。居酒屋、一般的なレストラン、タピオカ・フルーツジュース、かき氷。正直に書いておくと、当時この評価を紙に書いていたわけではありません。 頭の中でやっていた比較を、同じ軸でいま整理し直したものです。点数のふりをした精度を出しても意味がないので、◎○△×で書きます。

落とした理由を、業態ごとに一言で。
居酒屋・レストラン:メニューが増えるほど品質が落ちる。プロではない自分が全品に自信を持てるとは思えなかった。加えて、シェフの採用が前提になる=人を雇う義務が先に発生する
タピオカ・フルーツジュース:逆の問題。原価率も再現性も悪くないが、自分が作っても他店と味の差が出ない
かき氷:構成がシンプルで、差が出る箇所を特定できる。かつ、その差を自分で握れる
この評価で一番大事なのは、②を a と b に割ったところです。
タピオカは a が◎で b が△でした。誰が作っても同じものが出せるが、その「同じもの」に自分が誇りを持てるかは別問題です。ここを1つの軸で見ていると、タピオカが選ばれます。
誰でも同じ味を出せる業態は、参入しやすい業態です。参入しやすい業態は、差がつかない業態です。
かき氷で差が出るのは、氷の削り方、シロップの調合、盛り付け、組み合わせの4つでした。氷はあくまで水なので、味を決めるのはシロップと組み合わせ、食感を決めるのは削り方と盛り付けです。
※ ただし氷の作り方で口触りなども変わるので侮るなかれではあります…

この評価で、僕は何を見誤ったのか
「品質を管理できる」を「すぐに管理できる」と読み違えました。結果、5月1日に予定していたオープンが、6月5日のグランドオープンまでずれました。
約1ヶ月です。

延期を決めたのは僕です。誰かに指摘されたわけではありません。関係者全員に謝りました。オープンを楽しみに集まってくれていたアルバイトの子たちにも、頭を下げました。 判断としては正しかったと今も思っていますが、これは僕の見積もりが甘かったことの結果です。
変数が4つしかない、という判断自体は、いま振り返っても間違っていません。間違っていたのは、変数が少ないことと、その変数を早く詰められることを同じだと思っていた点です。
その1ヶ月でやっていたのは、こういうことでした。
競合になる店を食べ歩きました。正確な数は覚えていませんが、1週間で10店舗まわった日があります。普通に太りましたし、きつかったです
料理研究家の方に監修に入っていただき、試作を繰り返しました。最初にいただいたメニュー表のとおりに自分で作ったものは、見た目も含めて「出せない」と判断しました
社員や知人に食べてもらって、感想を聞きました。最初はみんな遠慮して言いませんでしたが、そのあとは結構言ってくれました
シロップは、購入できる既製品を使う提案もありました。試したうえで、自分たちで作ったほうが美味しいと判断して、作る側に振りました
自分が美味しいと思ったメニューが人気にならないこともありました。バーの間借りなので、お酒を使ったメニューは雰囲気が出ると思っていたのですが、まったく人気が出ませんでした
変数は4つしかない。でも、その4つを「出せる」水準まで持っていくのに1ヶ月かかりました。
素人が始めるなら、経験の不足を量で埋める以外の方法はない。それがこの1ヶ月で得た結論です。
評価に足すべきだった、7つ目の軸
足すべきだったのは「立ち上げ期に、自分が実際に張れる時間」です。6つの軸はすべて事業の側の性質を測る軸で、自分の側のリソースを測る軸が1つもありませんでした。
これがなぜ効くかというと、業態ごとに必要な「自分の時間」の量が違うからです。
タピオカのように再現性が高い業態は、立ち上げに自分の時間をあまり使わなくても成立します
かき氷のように「差が出る箇所を自分で握る」業態は、その箇所が固まるまで自分の時間を使い続ける必要があります
つまり、再現性が低い業態を選ぶという判断は、自分の時間を差し出すという判断とセットです。 僕はこのセットを分けて考えていて、片方だけを選んでいました。
実際にどうなったかを書きます。既存のマーケティング事業と合わせて、週100時間以上稼働していました。 平日は朝と夜をかき氷に使い、昼は通常業務。土日はフルで店です。
これを「頑張った話」として書きたいわけではありません。逆です。 この時間が必要になることを先に見積もれていれば、選ぶ業態が変わったかもしれないし、少なくとも人の入れ方や延期の判断が変わっていたはずです。
⑦立ち上げ期に、自分が週にどれだけ時間を張れるか。張れないなら、再現性が高い(=自分が握らなくてよい)業態を選ぶ。
本業を持ちながら新規事業をやる人には、この軸が一番効くと思います。
やってはいけない業種選定 5つ
僕が実際にやった、あるいはやりかけたものです。
1. 市場性を「既存市場の規模」だけで測る
規模の数字が出るのは、すでに誰かがやっている領域だからです。ニッチと、まだ誰も測っていない需要が全部こぼれます。
2. 品質を「自分が作れるか」だけで判断する
「自分が作れる」と「他人が同じものを出せる」は別の軸です。2つに割らないと、店を人に任せた瞬間に品質が落ちます。
3. 競合を数字だけで調べて、食べ(現場)に行かない
市場規模や店舗数は調べれば出ます。出ないのは、盛り方と量と食感です。差が出る箇所がそこなら、行かないと分かりません。また実態を見るのは必ず必要です。
4. 季節性を、繁忙期の売上だけで評価する
季節性が強い業態は、繁忙期に「さばけるか」で評価すべきです。売れる量ではなく、処理できる量が上限になります。
5. 自分の武器が効く軸を、優先順位の1番に置く
うちの場合はSNSとの相性でした。ここを1番に置くと、勝てる業態ではなく、自分が語れる業態を選びます。
まとめ
新規事業の観点は市場性・収益性・競合性・実現性・トレンドの5つ。ただし資本もノウハウもない側は、実現性と市場の見極めが極端に重くなる
飲食を選んだのは、①選択肢が多い=人の選択を変える余地がある ②AIが進んでも衣食住は残る ③情報が流し見される時代のマーケは「認知×好意的な理解+体験価値」に変わった、の3点から
業態選定の6軸は 原価率 → 制作・オペレーション難易度 → 季節性 → 単価 → SNS相性 → 立地。5観点をこの形に翻訳した
最重要は「味の再現性」と「品質に自分が自信を持てるか」を別の軸として割ること。1つにすると、参入しやすく差がつかない業態が選ばれる
見誤ったのは「品質を管理できる」を「すぐ管理できる」と読んだこと。オープンは約1ヶ月遅れ、延期は自分で決めて全員に謝った
足すべきだった7つ目の軸は「立ち上げ期に自分が張れる時間」。結果として週100時間以上稼働することになった
よくある質問
Q. 新規事業の業種は、何を基準に選べばいいですか?
まず市場性・収益性・競合性・実現性・トレンドの5観点で業界を絞り、そのあと業態を具体的な軸に落とします。うちの場合の軸は、原価率・制作の難易度・季節性・単価・SNS相性・立地の6つでした。加えて「立ち上げ期に自分が張れる時間」を入れることを勧めます。事業側の性質だけを測る軸では、自分側のリソース不足を見落とします。
Q. 資本もノウハウもない会社は、どの業界を選ぶべきですか?
大手と真正面からぶつからない領域です。うちが飲食を選んだのは、選択肢が多い業界だからです。選択肢が多いということは、お客さんが毎回選び直しているということで、選ばれる可能性を1%でも上げる余地があります。選択肢が少ない業界には、その余地自体がありません。
Q. 未経験の業態を選ぶとき、一番見るべき軸はどれですか?
「作る人が変わっても同じ品質が出るか」です。未経験の場合、自分の腕に依存する業態は立ち上げも採用も両方が難しくなります。ただしこの軸だけを見ると、誰でも同じものを作れる=差がつかない業態に寄るので、「品質に自分が誇りを持てるか」と2軸で見てください。
Q. 開業が遅れたのはなぜですか?
味の調整が終わらなかったからです。5月1日にオープンする予定でしたが、GW明けのプレオープン、5月末のテスト営業を経て、グランドオープンは6月5日になりました。変数が4つしかないことと、その4つを早く詰められることを同じだと思っていたのが原因です。延期は自分で判断し、関係者とアルバイトの子たちに謝罪しました。
Q. 本業がある状態でも新規事業はできますか?
業態の選び方次第です。再現性が高く自分が現場を握らなくてよい業態なら成立しやすく、差が出る箇所を自分で握る業態なら、その箇所が固まるまで自分の時間が必要になります。うちの場合は、既存事業と合わせて週100時間以上稼働することになりました。先に見積もっておくべき数字です。
注記
◎○△×は、当時の判断を同じ軸でいま整理し直したものです。当時この評価表を作成していたわけではありません
数字はすべて2026年時点、B3単店舗ベースの実績です
原価率・客単価・初期投資の総額は公開していません(業務委託費・物件情報の許諾が取れていないため)
次回は「かき氷屋の集客に使ったのは30万円。効いた順に全部書きます」です。今回書いた「認知 × 好意的な理解 + 体験価値」を、実際に何にいくら使って作ったのかという話になります。
新規事業のこと、飲食のこと、いま頼んでいる代理店のことでもかまいません。「これ、どう思いますか」くらいの温度でご相談ください。
もっと世の中の話をしたい、という方は、普通に飲みに行きましょう。
そのほうが早いことも多いので。

