赤字は物価高のせい? で、経営は何をしてたの?――「できない理由」を説明したところから、仕事は始まる
「売上が落ちたのは、景気が悪いからです」
「採用できないのは、人手不足だからです」
「利益が出ないのは、原材料費が上がったからです」
「この企画が進まないのは、他部署が動いてくれないからです」
もし、あなたが会議でこんな説明をしたら、たぶん次に聞かれると思います。
「それは分かった。で、あなたたちは何をしたの?」
今回の記事は、病院経営の話から始まります。
でも、病院で働いていない人にこそ、読んでほしい話です。
なぜならこれは、
「うまくいかない理由を説明すること」と、
「問題を解決すること」を混同していませんか?
という、ほとんどすべての仕事に関係する話だからです。
原因をきちんと説明できる。
資料もある。
数字もある。
理屈も間違っていない。
それなのに、なぜか仕事が前に進まない。
そんな会議や報告に心当たりがあるなら、今回の話は他人事ではありません。
自治体病院の84%が赤字
2026年8月19日、こんなニュースが出ました。
全国自治体病院協議会の調査によると、2025年度決算で、有効回答した494病院のうち84%が経常赤字だったそうです。
全体の経常収支は2180億円の赤字。
その要因として挙げられているのが、
物価高
人件費の高騰
材料費の上昇
入院患者の食材費の上昇
です。
そして協議会は、診療報酬の引き上げなど、国による財政支援の強化を求めました。
私は最初、このニュースを読んで、少し不思議な感覚になりました。
もちろん、
物価が上がっている。
人件費も上がっている。
病院経営が苦しくなっている。
そこは分かります。
しかも病院は、普通の企業のように、
「仕入れ値が上がったので、明日から商品を10%値上げします」
とは簡単にできません。
保険診療の価格は診療報酬という公定価格で決められているからです。
だから、病院側が国に制度変更や支援を求めること自体には、十分な理由があります。
それでも、一つだけ引っかかりました。
で、経営は何をしてたの?
ということです。

「原因の説明」と「経営の説明」は違う
ここで誤解してはいけないと思います。
私は、
「物価高は関係ない」
と言いたいわけではありません。
むしろ、かなり大きな要因でしょう。
ただ、
「赤字になった原因は物価高です」
という説明と、
「その環境に対して経営として何をしました」
という説明は、別のものです。
これは病院に限りません。
たとえば、小売店の店長が本部でこう報告したとします。
「今年売上が悪かったのは、物価高で消費者の財布のひもが固くなったからです」
たしかに、そうかもしれません。
でも、それだけで報告を終えたら、
「では、売場は変えましたか?」
「価格帯を見直しましたか?」
「品ぞろえを変えましたか?」
「来店客数と買上率を分析しましたか?」
「うまくいっている店舗と比較しましたか?」
と聞かれるでしょう。
それが経営だからです。
環境を説明することが、経営ではありません。
環境を理解したうえで、
「では、この条件の中で何をするか?」
を考えることが、経営です。
84%が赤字。では、残りは?
今回の数字でもう一つ気になったことがあります。
84%が経常赤字だった。
かなり深刻な数字です。
でも、裏返して考えてみます。
少なくとも、回答した病院すべてが経常赤字だったわけではありません。
では、
赤字ではなかった病院は、何が違ったのでしょうか?
ここを知りたくなります。
もちろん、単純比較はできません。
自治体病院には、
救急医療を担っている病院もあれば、
へき地医療を担っている病院もある。
高度医療を担うところもあれば、
地域事情も違う。
病床数も患者構成も診療科も違います。
「黒字だから優秀、赤字だから経営が悪い」
などという単純な話ではありません。
それでも、です。
同じように物価高を受け、
同じように人件費上昇を受け、
同じ診療報酬制度の中にいながら、
結果には違いが出ています。
だったら、
その違いを生んでいるものは何だろう?
と調べることには意味があるはずです。

「できない理由」を探す会議になっていませんか?
この話は、私たちの仕事にもそのまま当てはまります。
たとえば、
「若手が辞めるのは、最近の若者が我慢できないから」
「商品が売れないのは、市場が縮小しているから」
「採用できないのは、少子化だから」
「店舗の数字が悪いのは、立地が悪いから」
「研修しても社員が変わらないのは、本人たちにやる気がないから」
「在宅勤務では生産性が上がらないから」
こうした説明は、全部間違っているとは限りません。
問題は、そのあとです。
そこで思考を止めていないでしょうか。
外部要因には、一つ厄介な特徴があります。
説明として、とても強いのです。
自分たちでは変えられない。
しかも、本当に影響している。
だから、
「仕方がない」
という結論を作りやすい。
でも、自分で変えられないものを100回説明しても、問題は1ミリも解決しません。
仕事とは、「変えられるもの」を探すこと
私は、仕事の問題を考えるとき、
「自分たちで変えられるもの」と
「自分たちでは変えられないもの」を分ける
ことが、とても大切だと思っています。
たとえば、
物価は変えられない。
人口減少もすぐには変えられない。
法律も自社だけでは変えられない。
景気も変えられない。
競合他社の行動も変えられない。
では、そこで終わりでしょうか。
違います。
商品の組み方は変えられる。
仕事の手順は変えられる。
人の配置は変えられる。
会議のやり方は変えられる。
伝え方は変えられる。
優先順位は変えられる。
顧客への提供価値も考え直せる。
変えられないものを見つけることは「分析」。
変えられるものを見つけるところから「仕事」が始まる。
私はそう考えています。

原因を探す目的は、「責任逃れ」ではない
ここで、もう一つ大切なことがあります。
問題が起きたとき、原因を調べるのは当然です。
物価高が原因なら、物価高を示せばいい。
制度に問題があるなら、制度改善を求めればいい。
外部要因を指摘すること自体は、何も悪くありません。
ただし、
原因を探す目的は、
「自分たちが悪くないことを証明するため」ではないはずです。
本来は、
「次にどうするかを決めるため」
に原因を探すのではないでしょうか。
ところが組織では、ときどき目的が逆転します。
問題が起きる。
↓
原因を調べる。
↓
外部要因が見つかる。
↓
「われわれだけの責任ではありません」
↓
調査終了。
これでは、何も変わりません。
問題解決のための原因分析が、
責任を避けるための原因分析
になってしまっています。
「誰のせい?」より「何を変える?」
だから、何かうまくいかないとき、私はこの問いを持っていたいと思います。
「それは誰のせいですか?」
ではなく、
「では、自分たちは何を変えますか?」
病院が赤字になった。
物価高は確かに大きな原因でしょう。
人件費も上がっている。
制度上の制約もある。
国による支援が必要な場面もあるでしょう。
でも、それと同時に、
「その環境の中で、経営として何を変えてきたのか」
も知りたい。
この二つは、対立する話ではありません。
外部環境の改善を求める。
そして、自分たちの改善も続ける。
両方やる。
それが、本来の経営ではないでしょうか。
そしてこれは、経営者だけの話でもありません。
部長でも、
課長でも、
店長でも、
プロジェクトリーダーでも、
一人の担当者でも同じです。
「できない理由」を説明するだけなら、仕事はそこで止まります。
そのあとに、
「で、私は何をする?」
を置けるか。
そこに、仕事を前へ進める人と、説明だけで終わる人の違いが出るのだと思います。
今日、持ち帰りたい3つの問い
もし次の会議で、
「○○だから、できません」
という説明が出てきたら、責める必要はありません。
代わりに、この3つを聞いてみてください。
① それは「原因」ですか。それとも「結論」ですか?
② 同じ条件でも、うまくいっているところはありませんか?
③ 私たちが変えられるものは、何ですか?
この3つだけで、
「できない理由を探す会議」から、
「次に何をするかを決める会議」
へ変えられるかもしれません。
ニュースを「他人の話」で終わらせないために
病院の赤字。
企業の不祥事。
政治家の発言。
会社の人事制度。
働き方をめぐる炎上。
ニュースを見て、
「ひどいですね」
「大変ですね」
「そうなんですね」
で終われば、そのニュースは明日には忘れます。
でも、
「これ、自分の仕事に置き換えたらどうなる?」
と問い直すと、ニュースは仕事で使える材料に変わります。
このnoteでは、ニュースや身近な「なんか変だな」という出来事を拾って、
事実を並べるだけでは見えてこない「意味」と、
明日の仕事で使える「問い」
に変換しています。
フォローしていただくと、たとえば、
会議で「で、結局何を決めればいい?」を見抜く視点
上司や部下とのすれ違いを整理する問い
ニュースを企画・問題解決のヒントに変える考え方
「できない理由」で思考を止めないための見方
を、日々の具体的な出来事から持ち帰れます。
専門用語を覚えるためではありません。
仕事でモヤッとしたときに、「何を問い直せばいいか」が分かる。
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次に職場で「それは○○のせいです」と言われたとき、
見える景色が少し変わるかもしれません。
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