はじまりの音 ──僕が「モノづくり」と出会った日
なにかを作りたい。
そんな気持ちが自分の中に生まれたのはいつだったろう。
思い返すと、そのはじまりはずっと昔──小学生のころ。
職員室の掃除当番。
机のうえのひとつの黒い機械──
黒い機械との出会い
職員室の掃除当番だった日。
ほうきを持って歩いていた僕は、先生の机のうえでそれを見つけた。
先生の机のうえに、へんなものがあった。
黒くてずっしり重たそうな機械。
上のほうには小さな四角がびっしり並んでいて、それがまるで虫の足みたいに、きれいに並んでこっちを向いている。
ひとつひとつ、角度がちょっとずつ違っていて、今にもうごきそうに見える。
光があたると、黒いところがぬらっと光る。
近くで見ると、油のにおいがして、なんだかあたたかいような、冷たいような、へんな感じがした。
奥のほうには、細い金属の棒がたくさんのびていて、それがみんな、どこかを向いてじっとしている。
歯にも見える。
どこかの国の虫とか、生きてるロボットの切れはしとか、そんな感じがした。
何をするものなのか、まったくわからない。
ただ、目が離せなかった。

触りたい。
でも触ったら怒られる。
「おーい、帰るぞ~」
同級生の声で我に返った。
気づけば、僕の手とほうきは止まったまま。
職員室には、僕とその黒い機械だけが取り残されていた。
動く姿を見た日
それからしばらくして、また職員室の掃除当番が回ってきた。
掃除なんかそっちのけで、僕は一目散にあの機械へ向かう。
女の先生がその黒い機械の前に座っていた。
ガチャガチャガチャ、チーン。
そのたびに白い紙が、少しずつ伸びていく。
ガチャガチャガチャ、チーン。
黒い触手たちが次々に動いて、何かを生み出している。
音が止まるたび、静けさが濃くなった。
僕は息をひそめて、その動きを追っていた。
何が起きているのかも、なぜ紙が伸びてくるのかも、先生が何をしてるのかも、ぜんぜんわからない。
でも、その不思議さがたまらなく面白かった。
気づけば、また掃除の時間が終わっていた。
「作る人になりなさい」
「なあに? そんなところで」
女の先生が、やわらかく笑いながら振り向いた。
気になる?と聞かれて、僕はうなずいた。
「これは何? なにをしてるの?」
先生は少しだけ考えてから言った。
「タイプライター。お手紙を書いてるの」
かぶせるように、僕は言った。
「触ってみたい」
先生はやさしい笑顔のまま、首を小さく横にふって、僕の人生を決定づける一言を発した。
「だあめ。大きくなったら――作る人になりなさい」
心の奥で音がした
僕の中のどこかに、その言葉ががちゃっと音を立ててはまり込んだ。
何かが動き出した気がした。
作る人。
その響きが胸の奥でずっと鳴っていた。
それが何を指すのかも、どうすればいいのかも、ぜんぜんわからない。
でも、心の中にふくらむものがあった。
あたたかくて、形のない、何かをつくる前の光みたいなもの。
放課後の光が廊下を照らしていた。
僕はまだ掃除道具を持ったまま、胸の中の音を聞いていた。
