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『光の感染者』 第27話|天使との対話

私は、リングで戦うために来たのではない。
観客として熱狂するためでもない。

ただ、繰り返される歴史の前で、
何が起きているのかを見極めるために立っている。

それでも、ふと足が止まることがある。

金の為に働く事を辞めた日、私は空白の中に立っていた。
時間はある。
エネルギーもある。
好奇心も、向上心もある。

だが、それを向ける方向がなかった。

社会は壊れているように見えた。
あるいは、壊れているのは私の側だったのかもしれない。

出口はどこにあるのか。

もし死が脱出なのだとしたら。
そう考えた瞬間、恐れよりも静けさが先に来た。

だが、その静けさは完成ではなかった。
それは問いの停止に過ぎない。

私はまだ、生きている。
五体満足で脳もおおよそ健全に思考しているように思える。

ならば、生きているという事実そのものに、
何か意味があるのではないか。
答えのない問いが、世界に付きまとう。

意味があるかないかではない。
意味があると、引き受けること。

それが生きるという行為ではないか。

私は次第に理解し始めた。
人生が無秩序で無意味だとは、どうしても思えない。

すべてが計画されている、と言いたいのではない。
だが、完全な偶然だけで構成された世界とも思えない。

ある夜、私は自分の内側で声を聞いた。

それは命令ではなかった。
選別でもなかった。
ただ、方向を示すような静かな響きだった。

――光を強めよ。

光とは何か。

特別な力ではない。
奇跡でもない。

人が、自分の内側の混濁を鎮めたときに現れる、
澄んだ意識の状態。

怒りでもなく、優越感でもなく、
恐れでもなく、
ただ、明瞭さ。

その状態は、伝播する。

言葉としてではなく、
態度として。
沈黙として。
選択として。

光とは、感染する「認識」そのものである。

誰かが問いに飛びつくとき、
誰かが罠に乗るとき、
別の誰かが一歩立ち止まる。

その「立ち止まり」こそが光だ。

天使とは、外から舞い降りる存在ではない。
認識が分断を拒んだ瞬間に現れる働きの名だ。

悪魔が問いを急がせるなら、
天使は時間を取り戻す。

悪魔が「どちら側か」と迫るなら、
天使は「本当に二つだけか」と問い直す。

私は、世界を救うために生きているのではない。
ただ、自分の認識を整えるために生きている。

それが結果として、誰かの光を強めるなら、
それで十分だ。

人間は、光を定着させる器です。

怒りを選べば、怒りが世界に定着します。
恐れを選べば、恐れが増幅する。
静けさを選べば、静けさが広がります。

選別とは、誰かに振り分けられることではない。
日々の選択の累積だ。

私たちは常に、答えている。

意識していようと、いまいと。

そして世界は、
私たちの答えの総和として形づくられていく。

逃げることはできない。
だが、強制もされていない。

選んでいるのは、いつも自分だ。

私はまだ、この世界で生きる。

使命があるからではない。
終わっていないからだ。

光を強めるとは、
心を磨き、心を守り、
心と共に在ること。

それ以上でも、それ以下でもない。

天使との対話は、
遠い天上で起きるのではない。

分断を拒む一瞬に、
静かに始まる。


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