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『光の感染者』 第2話|壊れているのではなく、設計どおり

2026.1.07

人は習慣の産物である。
ゆえに、制度が人をつくる。

                       ――アリストテレス



 役所の窓口に並びながら、私はいつも、同じ問いを反芻している。

――この人たちは、いったい何を「生み出していない」のだろうか。

意地の悪い問いだという自覚はある。
「無能だ」と言ってしまえば、それで終わる話でもない。
だが現実として、そこでは何かが創造されている気配がない。

紙が動き、判が押され、
責任が丁寧に分散され、
そして一日が、無事に終わる。

それは確かに「仕事」なのだろう。
だが同時に、何も生まれていない。

その様子を眺めながら、私は自分の心が少し冷えていることに気づく。
けれど、その感情すら、すぐに消える。
現実のほうが、あまりにも無表情だからだ。


これほどまでに整備された環境の中でも、
人は完全な機械にはなれない。

彼らは仕事をしているようで、
どこかで自分の居場所を探している。

承認。
立場。
序列。

人間である以上、それを求めるのは自然なことだ。
だが、できることなら――
別の場所で探してほしい、と思ってしまう。

役場は、自己確認の場ではない。
そこに求められるのは、
感情ではなく、処理であり、理屈であり、結果である。


人間の**「非機械性」**は、
仕事においては、しばしばノイズになる。

正義感。
恐怖。
忖度。
保身。

それらは帳簿の隙間から染み出し、
金の流れや、判断の輪郭を、静かに歪めていく。

そう考えると、皮肉な話だが、
AIのほうがよほど役場向きなのではないかと思えてくる。

感情も、虚栄もなく、
ただ規則と最適解に従う存在。

少なくとも、
「人間だから」という理由で、制度を歪めることはない。


私は時々、
日本人も大人になった瞬間に分類されればいいのではないかと考える。

日本人A税率。
日本人B税率。

政府も、一つである必要はない。
二つか三つ作り、行政も競わせればいい。

警察も、役人も、政治も、
三社ほど並べて、
下手なところは、自然に淘汰されればいい。

競争も評価もなく、
失敗しても組織が守ってくれる場所ほど、
人は安心して堕落する。


税率に応じて、受けられるサービスが違う。
それで構わない。

私はただ、
こんな下手な金の使い方をされるくらいなら、
最初から取らないでほしいだけなのだ。

日本経済を守るとは、
税を集めることではない。

人と、金と、物が、
自然に行き交う場所を増やすことだ。

一極に集めれば、
必ず、腐る。


間違いを、
間違いだと認識できない組織は、音もなく壊れていく。

競争のある世界では、
誤ったものは消え、
より良いものだけが残る。

それは、現代社会において、
ごく当たり前の原理だ。

それを理解できないから、
国は、ゆっくりと滅んでいく。


私は時々、
日本の構造そのものが、
ひどく馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

誰が、
こんな回りくどく、
無責任な仕組みを作ったのだろう。

単に愚かだったのか。
それとも、人間の本性をよく知り、
搾取するために意図的に設計したのか。

考えれば考えるほど、
答えは一つに近づいていく。

おそらく、後者なのだろう。


人は、善意だけで巨大な制度を作らない。
ましてや、それを
何十年も温存し続けることなど、できるはずがない。

私はそう思いながら、
役所の蛍光灯の白い光を見上げている。

この国は、壊れているのではない。
最初から、こうなるように作られているのかもしれない。

そして今日もまた、
誰も責任を取らないまま、

静かに、
正しく、
何も変わらずに、

処理だけが、進んでいく。


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