見出し画像

「全然怖いんですけど…」父に仕掛けられたトラップ|『怖い=楽しい人』と『怖い=怖い人』

「これ(動画)おもしろいよ」

父にスマホを差し出された私は、動画を再生した。


「ママが帰ってきた!」

金魚鉢を手にするヴィクトリア。
コートを羽織るリリィ。

(ぇナンデ…?)

そして静まり返った暗い廊下を、あり得ないほど傾いてる“ママ”が理解を越えたスピードでこちらへ…。


アンディ・ムスキエティ監督が2008年に発表したショートムービー【MAMA】

超がつくくらい本格的な『ホラー』


たった3分ほどの短い動画…でも、『おもしろい』より『怖い』しか勝たなかった。

“おもしろい”って言われたから、警戒心がまったくなかった。

「ここからおもしろくなるのかも」とか思い込んで、目を逸らすことなく動画を観きってしまった。

とんでもない罠


我が父の感性がよくわからない。
私とは対極にいる。

父は怖いのが「楽しい」。
私は怖いものは「怖い」。


まず私と父では、使っている言葉の『辞書』が違う。

父にとっての『おもしろい』

  • ゾクゾクして興奮すること(スリル)

  • 予想を裏切る演出の上手さ(驚き)

  • 非日常的な恐怖を味わえること(刺激)

これらが含まれている。

だから、父の言う“おもしろい”は「怖がらせ方の演出がめちゃくちゃ巧みで、ゾクゾクするクオリティの高さがあるよ」という意味だったわけだ。

驚きの言葉の足りなさ。


父はおそらく、無意識のうちに自分と作品のあいだに『ぶ厚い鉄板の壁』を立てている。

だからどんなに怪異が暴れ回ろうが、どんなに血が舞おうが平気なのである。

「自分は安全なリビングにいる」
「これは作品の演出であり、作り物」

そういう客観的な事実を保持できている
だからこそ『当事者』にならず、『鑑賞者』でいられる

「カメラワークすごいな」
「この音の入れ方、秀逸」

といったように、作り手の仕掛け(トリック)を楽しむ余裕がある。


対して私の壁はペラペラな『透明なフィルム』くらい薄い

だから画面の中で不吉な音が響けば、無意識のうちに『自分がその場にいる』と錯覚してしまう。

「自分の部屋にこれが出たらどうしよう」
「自分ならもう耐えられない」

というように、『当事者』として没入してしまう

作り手からすれば最高の反応かもしれない。
でも私にとってはたまったものではない。


父は作品が終わったとき、それと一緒に気持ちを切り替えることができる。

私はそうはいかない。

その作品がたったの数分で終わったとしても、網膜に焼き付いた恐い映像や不気味な音は、日常生活にまで侵入する

  • 一人でお風呂に入って髪を洗うとき
    (目を閉じるのが怖い)

  • 夜中にトイレに行くとき
    (家中の電気をつけないと移動できない)

  • ベッドに入って部屋の電気を消した瞬間
    (布団から足が出てると引っ張られそうな気がする)

こんなふうに、その直後だけでなくその日の夜…
下手をすると数日間にわたって『追加の恐怖コスト』を払い続けることに…。


父は演出や技術を楽しみ、安全な場所からスリルを味わうことができる。
私は作品の世界観をストレートに受け止めて怖がるのみ。

私は「こんな怖いのが、“楽しい”の?」と思うけど、父は「こんなにすごいのに、楽しめないの?」と思われている。

でも、どちらが正しいというものではない。

お互いの『脳のフィルター』がこんなに違うとわかれば、少しは理解できるかもしれない。


ただ、父にも“怖い”という感情はある。

“作り物だから”楽しめる。
そうやって『怖い』を『楽しむ』人。

作品が終わったあとも「“怖さ”の余韻を楽しむ」と言う。

たぶん私とは違って『後引く恐怖』じゃなく、『上質な深い後味』を楽しんでいる。

でも、実際にその世界に放り投げられるのは勘弁だし、心霊スポットに行くとか病院でなにか診断されるとか、現実の恐怖は「イヤだ」と言っていた。


私は怖がりだけど、『怖いもの見たさ』はある。

お化け屋敷など、自分の身体を使う恐怖体験は絶対にしようと思わないけど、ホラー作品を『観る』のは好き

ただ、両手で顔をおおって、わずかな指の隙間から覗かないと観れない。

でも好奇心が勝ちすぎて【バイオハザード8】を自力でやった。
(もちろんEASYという名のCasual)

べネヴィエント邸に行った瞬間、後悔した。


父はそういう人。
だから次からは、「おもしろいよ」ってスマホを差し出されたら、『どの』おもしろいなのかを確認する。


もしあなたがホラーは苦手なら、家族や友人の「これおもしろいよ」にはくれぐれも気をつけてほしい

その裏には、『恐怖のトラップ』があるかもしれません。

そしてもしあなたがホラー好きなら、ホラーが苦手な人に作品を紹介するときはいきなり見せるとかじゃなくて、「怖いよ」という注釈を添えてあげてください

それだけで救われる平和な心(と、平穏なお風呂タイム)が、世界にはたくさんあります。


▼「怖いのが楽しい」ように、『ホラーの定義』も人それぞれ

▼意味わかんないくらいコワイ【ベネヴィエント邸】



『他の記事も読んでみてもいいよ』と思ってくだされば、こちらの地図から気になる記事を探してみてくださいね。


いいなと思ったら応援しよう!

マツリカ|【変態怪異】 うっかりチップをいただけると大喜びです。