なぜ有田内山地区は観光店舗ばかり増え食料品店が消えるのか
有田内山地区、面積15.9ha。伝統的建造物165棟が軒を連ねるこの通りで、日用品を売る店を探すと意外に苦労する。
有田内山地区で起きているのは、観光店舗が生活店舗を駆逐したという単純な話ではない。重要伝統的建造物群保存地区の改修規制が、生活必需品を扱う店にだけ非対称に重くのしかかる構造だ。
「観光店舗42軒増、食料品店8軒減」という数字はどこにあるのか

SNSやローカル記事で、有田内山地区は「観光店舗が42軒増え、食料品店が8軒消えた」と語られることがある。だが有田町の公式サイトや商工会議所の公表資料をあたっても、この数字の一次ソースは見当たらない。
数字が独り歩きしているのだとしたら、それ自体が興味深い現象だ。正確な件数より先に、町が自ら認めている危機の方がずっと重い。
有田町はなぜ「生活必需品の確保」を重点課題に掲げたのか
有田町「第5回有田内山グランドデザイン検討委員会」の公式資料はこう明記する。「内山地区に居住する方を対象として、デマンド交通を活用した買い物・通院支援サービスの充実を図ります。また、買い物代行サービス及び移動販売など、生活利便性の向上に向けて、関係機関と協議・検討していきます」。
行政が"買い物弱者対策"を公式施策に挙げるのは、生活インフラの空洞化がすでに対策必須のレベルまで進んだことの証拠になる。同資料は重点課題として「生活必需品の確保」「空き店舗の流動性」「通りの空洞化」も並べている。
重要伝統的建造物群保存地区とは、国が街並み保存のために指定し、建物の外観改修に許可を要する規制をかける制度である。有田内山地区は1991年にこの指定を受けた。
なぜ観光店舗は出店しやすく、食料品店は先に消えるのか
同資料の別の施策には、「これまで出店されている飲食・小売業のほかに、情報サービス業などの幅広い業種の起業・創業の支援に取り組んでいきます」という一文がある。裏を返せば、現状の新規出店はすでに飲食・小売、しかも観光客向けに偏っているという前提を町自身が置いていることになる。
さらに資料は「伝統的建造物に指定された家屋は、改修等の規制により、生活における不便さが生じている」とも明記する。景観保存と生活利便性がトレードオフの関係にあることを、町が公式に認めているわけだ。
ここからは推測になる。カフェや陶器店は、古い町家の意匠そのものを商品価値に転換できる。改修コストを"味"として回収できる立場にある。一方、豆腐や青果のような最寄品を扱う店にとって、同じ改修規制は収益に直結しない純粋な負担でしかない。この非対称性が、生活店舗から先に撤退させる圧力になっている可能性がある。
有田固有の現象か、全国どこでも起きていることか
中小企業庁「令和3年度商店街(商店街再生の参考書 ※広告)実態調査報告書」によれば、2021年度の商店街あたり平均空き店舗数は5.5店、空き店舗率13.6%で、2006年度から増加傾向にある。最寄品を扱う個人商店の閉店は、人口密度の低い商店街ほど進みやすいとされる。
有田町単体の空き店舗率データは、公開情報からは確認できなかった。だから「観光地化が生活を壊した」と有田だけを名指しするのは、相関を因果と取り違えるリスクがある。人口減少やモータリゼーションという全国共通の要因も、同時に効いているはずだ。
有田町はこの先どう動こうとしているのか
町が検討しているのは、デマンド交通による買い物・通院支援、買い物代行、移動販売の3本柱だ。加えて、飲食・小売以外の情報サービス業などへの起業支援も掲げている。
空き店舗の"流動性"そのものを課題に挙げている点も見逃せない。店が埋まっているかどうかより、入れ替わる仕組みがあるかどうかを町自身が問題視している証拠だ。
よくある質問
**有田内山地区とはどんな場所か。**
佐賀県有田町にある有田焼の産地で、1991年に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された。面積15.9ha、伝統的建造物165棟・環境物件130件を抱える(2026年4月時点)。
**「観光店舗42軒増、食料品店8軒減」は事実か。**
現時点の公開情報からは一次ソースを確認できない。ただし数字の真偽以上に、町自身が「生活必需品の確保」を重点課題として公式に掲げている事実の方が重い。
**町はどんな対策を検討しているか。**
デマンド交通を使った買い物・通院支援、買い物代行サービス、移動販売の導入を関係機関と協議中だとしている。
あなたの自治体の伝建地区や景観条例は、観光向けの店と生活向けの店に同じ改修コストを求めているだろうか。それとも片方にだけ重くのしかかっていないだろうか。まず自分のまちの都市計画マスタープランか景観計画をウェブで検索し、「改修」「補助」「伝統的建造物」というキーワードで規制の中身を確認するところから始められる。
※ 出典
・有田町公式サイト https://www.town.arita.lg.jp/kiji0031932/index.html
・有田町「第5回有田内山グランドデザイン検討委員会」資料 https://www.town.arita.lg.jp/kiji0031900/3_1900_12_6178e763cf418pqFwxmbV.pdf
・中小企業庁「令和3年度商店街実態調査報告書」 https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/2022/download/220408shoutengai01.pdf
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