連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 9話「どちらが先か」(6)
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9話 「どちらが先か」(6)
しかし、ルチカは空気砲を一行に向けた。ナイフは思わず叫ぶ。
「ちょっと! 『撃たない』ってさっき言ったじゃない!」
「それはさっきの話! そんな回りくどい方法取ったって、そのすきに誰かに卵、取られちゃうよ。私は誰よりも先に、確実に、卵がほしいの!」
ぐっと引き金に指を遣るルチカ。先ほどからずっと空気砲を見ていたゴナンは何かに気付いて、皆に報告しようとするが、その前にディルムッドがルチカに叫ぶ。
「もう、その武器のカラクリは分かっている! 当たり所さえ気をつければ、私達なら大したダメージは受けない。無駄だぞ」
「……」
ディルムッドがそう威嚇しても、ルチカは空気砲を下ろさない。ゴナンは慌ててディルムッドの腕を引く。
「ね、ねえ、ディル。あのルチカが持っている機械、この前使っていたやつと、ちょっと違うような…。少し大きいし、形も…」
「え?」
と、ルチカがぐっと指に力を入れた。バンという音と同時に、一同は避ける動きをする。リカルドはゴナンを守るように立ち塞がった。
…が、空気の圧は誰にも飛んでこなかった。代わりにぱっと大きな網が頭上に広がり、4人の上にかぶさる。とたんに動けなくなる4人。
「わっ。なんだこの網。ちょっとベトベトする…!」
「ちょっと! あなた、空気砲だって言ってたじゃない!」
ナイフがバタバタと網から脱しようとしながらルチカに叫ぶ。ニヤリと笑顔を見せるルチカ。
「あれれー、うっかり間違って、鳥を拘束するために準備していた投網発射のほうの機械を持ってた~。似てるからややこしいなあ~。うっかり、うっかり」
「ーーー!!」

また、してやられた。ルチカはそのまま翼の機械を背負い直すと、脇のレバーを操作してブン、と翼を開いた。翼というようりも、三角形の凧のような形をしている。
「じゃあね。もう二度と追ってこないで。…って言っても無駄か。でも、諦めた方がいいよ。身の安全のためにも」
そう言い捨てて、ルチカはゴーグルをかけ直し、持ち手を持って翼を水平に傾けて駆け出した。同時に箱の脇にあるレバーを引くと、2つの円筒からブオオと空気が噴出し始める。ルチカは地面を蹴り、飛び上がった。そのまますうっと空中へと上がっていく。
「…うわあ…」
リカルドはベトベト網の中で目を輝かせ、頬を紅潮させてその様子を見ていた。
「すごいなあ…。ああやって助走を付けて、空気の推進力を使って、風に乗るように飛んで行くのか…。確かに扱いは難しそうだ。彼は風を操っているんだね。すごいね、ゴナン」
「うん…」
ゴナンも瞳を輝かせて、飛び去ったルチカのシルエットをうらやましそうに目で追っていた。その脇でナイフは憮然としている。
「すごーい、はいいけどね。またしてもやられたのが、どうにも不本意よ、私は。大体、何? この網。くっついてきて気持ち悪い」
「ごめん。ルチカが持ってた機械が、前のと違う感じなの、最初から気付いてたんだけど、早く言えばよかった…」
そう後悔するゴナンに、リカルドは網を避けながらもゴナンの頭をなでる。
「いや、気付いただけでもすごいよ。やっぱりゴナンは目がいいねえ。…だけどこの網、こんなにベトベトなのに、発射した後どうやって開くんだろうなあ。不思議だ」
網にも興味を持つリカルドは、ベトベトの網にまみれたまま何か考え込む様子のディルムッドに気付く。
「ディル?」
「…あ、ああ…。すまない。心を乱してしまい。アーロン殿下のこととなると、つい…」
「…まあ、君は普段が余りにも超人じみているから、そのくらい人間味がある方が、僕はホッとするけどね」
「…私もまだまだだな…。それにしても…」
そう言って、ディルムッドは網に手を触れる。
「…彼奴にヒントをもらったようで口惜しいが、確かに鳥や少女を拘束するには、縄よりも網の方が効果的かもしれない。街に戻ったら、大きな網が売っていないか探してみようか」
「確かにそうだね。この網を使えるといいけど、このベトベトがなあ…。あとは、狼煙を上げると周りの人にも存在を知られてしまうっていうデメリットもあるね。これは仕方が無いけど…」
ゴソゴソと網から出て、ようやく解放された4人。なんだかんだ言って、ルチカとは遭遇する度に何らかの有益な情報が得られている気がする。
「…さて…。思わぬ遭遇戦だったけど、ひとまず本来の目的に戻ろうか。巨大鳥がこの付近をうろついている可能性が高いからね」
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