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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  3話「子ども達」(1)


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第四章の登場人物



3話 「子ども達」(1)


 翌朝。

早く起き、庭を借りて自身の鍛錬をしていたナイフ。ディルムッドが付いてくれているからといって怠るわけにはいかないし、何より「彫像のような美しい体」を維持するためにも必要なことだ。もう、昔ほどは若くもないため、日々の継続が重要で、ストネの街でも毎朝の習慣だった。ディルムッドの姿もなかったので、やはりどこぞかで鍛錬に励んでいるのだろう。ことごとく自分に甘えない人物だ。

「さて、ゴナンの体調はどうかしら…」

汗を拭きつつも自室に戻る前に、様子を見るためにゴナンとリカルドの部屋を訪れるナイフ。が、その様子を見て、また呆れ顔になった。

「…リカルド…、あなたねえ……」

リカルドをはたくように起こすナイフ。客室にはベッドが2つあるのに、リカルドはゴナンと同じベッドに寝ている。というよりも、ゴナンが寝ているところにリカルドが潜り込んでいる感じだ。そして例によって、ゴナンの腕をギュッと握っている。




「…あ、ナイフちゃん、おはよう。早いね」

「リカルド…。ゴナンは体調が悪いのよ。一人でゆっくり寝せてあげなさいよ…」

もちろんベッドはキングサイズなどではないため、大柄なリカルドは身を縮こませるように寝ていた。リカルド自身も相当に寝苦しそうだが…。

 リカルドはゴナンを起こさないように、そおっとベッドから出る。

「うん、でも、だって、ゴナンが寝ている間にいなくなったらと思うと…。それにもし体調が急変したら…」

「……」

冷めた目でリカルドを見るナイフ。ゴナンへの執着が日に日に強くなっているような気がするが…。

「あ、ナイフちゃん。おはよう」

と、ゴナンが目を覚ました。

「ゴナン、寝苦しかったのではない?」

「え? 大丈夫だよ?」

「そう…?」

相変わらず、ゴナンは気にしていない様子だ。キョトンとしてそう答えると、ゆっくり体を起こす。ナイフはその表情を見てホッとした。

「ゴナン。咳が治まっているみたいね。顔色も良く見えるわ」

「…あ、うん……。息もあんまり苦しくない……」

ナイフはゴナンの両頬を包むように手を当ててみる。まだ熱はあるが高熱と言うほどではなくなってきている。

「昨日、マリアーナさんが出してくれた薬が合ったのかもね。あとは、カーユを食べられたからかなあ?」

リカルドもホッとした様子で、ナイフと交代でゴナンの額に手を当てる。しかし、薬のおかげだとしても対症療法に過ぎない。こうも頻繁に高熱を出すのは、やはり普通ではないように思える。なんとか原因が分からないものだろうか?

(…いや、もしかしたら……)

リカルドの脳裏には、ゴナンのこの体質について一つの推測が浮かんでいた。そうであれば、ゴナンをこの街に、教授夫妻に預けるというのも選択肢の一つになる。きっとこの夫妻は快く引き受けてくれる。そういう人達だ。

(それにこの街は、ゴナンを託すのに、とても良い条件が揃っている)

ゴナンのためを思うなら、恐らくベストな選択。しかしゴナンと離れたくないという思いが、それを口にすることを阻害する。

「リカルド? なんか、顔がコワい…」

「え?」

 ベッドの上でゴナンが心配そうにリカルドを見ている。リカルドは心の中の声を押しつぶし、フッと微笑んでゴナンの頭を撫でた。

「さあ、まだ熱が完全に引いたわけではなさそうだから、もう少し寝ているといいよ」

「もう大丈夫だよ」

「ダメだよ、こういうのは治りかけが危ないんだから」

もう起きて活動したそうなゴナンを、リカルドは優しくベッドへと寝かせた。

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 朝食後、ジョージの書斎にリカルドとナイフ、エレーネが集まっている。
ゴナンはまだ個室で寝ており、そしてミリアは二日酔いになっていた。グラス1杯とはいえ、やはり度数の高いフラン酒はなかなかに効いたようだ。「自分は難しい話は分からないので」と、ディルムッドが頭痛で寝込んでいるミリアの傍についている。

 ゆったり広い書斎には、何列も本棚が並び、書籍や書類が溢れんばかりに詰まっている。そして庭側には大きな窓。庭の木々の緑から木漏れ日が差し込み、なんとも居心地の良い空間だ。そこでリカルドは改めて、ジョージに依頼する。

「先生、ご存じの通り僕は巨大鳥を追っているんですが、とあるきっかけで、これまで巨大鳥が飛んだルートを知ることができたんです」

「ん? 巨大鳥というのは、実在するのか? おとぎ話じゃねえんだな?」

ジョージはまず、そのことに驚く。リカルドは深く頷いた。

「ええ、僕も旅の仲間達も皆、一度は目撃していますし、ストネの街やそのずっと北にある村では、住人も多く目撃しています。それで、水道が壊れたり、干ばつが起こったりと、『不幸になる』というのも起こっていて…」

「ふうん…?」

腕を組んでリカルドを見上げるジョージ。

「…あの超優秀なシーランス博士が、なぜだか荒唐無稽なおとぎ話にとりつかれていると大学では話題だったんだがな。論文も誰にも相手にされていなかったのに、大逆転だな」

「はは…」

リカルドの困った表情に、エレーネもくすっと笑う。

「それで、そのルートを元に、今後、鳥がどこに現れるかを予測しようと思っているんですが…」

そう言って、ミリアが飛んだルートを記した地図を広げる。そして、巨大鳥が水場を巡っているらしいこと、その中である水脈だけを巡っていると予測したことを伝える。

「ただ、同じ地図を見て『気流に沿って飛んでいる』と僕と全く違う分析をした人がいるんです。そしてその人は、その、空を飛ぶ術を持っていて、実際に気流を体感しているようで、信憑性が高そうでした。それで、先生に気流のことを聞ければと思って…」

「空を飛んでいる?」

ジョージは驚き、尋ねる。

「飛んでいる、とはどのレベルだ? 空に浮かんでいるのか?」

「いえ…。僕ははっきりとは見えなかったんですが、ゴナンがとても目が良くて、機械を操って巨大鳥を追いかけて飛んでいるのを見たと」

「追いかけて…。ということは、自在に空を舞うことができるということか…。うらやましいもんだな。私の研究にその技術を借りたいものだ。お前さんの知り合いなのか?」

「あ…。多少、見知った中ではありますが、敵対している関係で…」

リカルドはルチカをそう説明する。敵対していると言うより、なぜかこちらを敵視している、というのが正しいが…。

「そうか、残念だな…。ぜひお近づきになりたいところだ」

「それで、先生が気流についてご存じないかと思って、ヒントを得たくてこちらを訪ねたんです」

「気流ね…」

ジョージはそう口にすると立ち上がり、本棚へと向かって何冊かの本を流し読みした。そして2冊ほどをデスクに持ってくる。




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