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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  1話「何か物足りない」(2)


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第四章の登場人物



1話 「何か物足りない」(2)



「というわけで、まだ迷ってる…」

 開口一番、リカルドはそう告げた。午後、宿の食堂を借りて、ゴナン以外の皆が集まっている。

「決め手に欠けるの? それなら、帝国ルートでいいのではないかしら。一番、順当なんでしょ?」

長い金髪を一つにくくった、濃い碧眼を持つすらりとした美女、エレーネ。リカルドの巨大鳥に関する論文を頼りに旅をしてきた彼女が、リカルドにそう提案する。

しかし、リカルドはうーん、と悩んでいる様子だ。

「……ルチカが…」

「ルチカ?」

「……空を飛んでいた」

「えっ?」

突拍子もない報告に、ナイフが思わず声をあげる。

「何? あの子、魔法でも使えるの? 変わった子だとは思っていたけど…」

「違うよ。僕はよく見えなかったけど、ゴナンがしっかり見ていた。翼のようなものを機械で操作して、空を飛んで巨大鳥を追いかけていたらしい」

「…また、機械……」

ミリアが呟く。深緑色の瞳を物憂げに曇らせた。その背後に立つディルムッドは、少し憮然とした表情で吐き出す。ミリアの正体がなるべくばれないよう、ディルムッド自身も元騎士の品格を少しでも薄くするため、顎髭を伸ばしてワイルドさを演出しようとしているが、なかなか隠しきれていない。

「…そんな技術を持っているのなら、なぜ、国に差し出さないのだ。空が飛べる者がいれば、城の守りや国防面でもできることがかなり増える……」

「まあ、そのような考え方はだめよ、ディル」

ディルムッドの言葉を凛とした声で諫めるミリア。ディルムッドは2m近い岩のような体をビッと伸ばし、気をつけの姿勢になる。

「ルチカは王城に出入りこそしていたのでしょうけど、軍属でも王城で働く者でもない、ごく普通の一般市民よ。こちらが請うて提供を願い出ることはあっても、国がそれを取り上げる権利はないわ」

「……は…。失礼しました」

姿勢を正して謝罪するディルムッド。どうにも職業病的な反応だ。ミリアは言葉を続ける。




「……まあ、でも、それは平時に限った話ではあるけれども」

「……」

リカルドはまじまじとミリアを見る。自身は女王にはならないと口にしつつも、やはりその言動は、きちんと次期女王のものなのだ。

「……それはともかく、ルチカが巨大鳥と同じくらいの高度で空を飛べるということは、気流の存在を知識だけでなく『体で知っている』ということだ。つまり、彼が言っていた『気流に沿って巨大鳥が飛んでいる』という予測の信憑性がより高まったように感じる」

「……」

リカルドは腕を組み、地図を見ながら少し考えた。そして…。

「……よし、ウキの街に行くか…。クラウスマン教授を頼ろう」

「この前言っていた、王都でお世話になったっていう気象学の先生?」

ナイフの質問にリカルドが頷く。

「うん。やっぱり、気流に関する知識が欲しい。もしかしたら鳥は、帝国の方に行っているかもしれないけど…」

「ルチカがその機械の翼で追いついている可能性もあるわよ。それに、帝国で卵を狙ってる奴等の手が届くかも」

エレーネの指摘に、いつもの微笑みを返すリカルド。

「うん、そうだね…。まあ、それは……」

そう答えて、リカルドは天井を見上げる。

「……誰の手も届かないよう、ただ祈るしかないな…」

「しかし、ゴナンはどうするのだ? また、熱が出ているのだろう? 治るのを待って出立するか?」

「うん。ゴナンは自分を置いていけ、なんて言ってたけどね」

「しかし、それは……」

ディルムッドが反論しようとするが、リカルドは慌ててそれを制する。

「ああ、ディル。僕がそんなことをするわけないじゃないか。僕とゴナンだけ後から追いかける、というのも考えたけど、教授を訪ねるのなら僕がいる必要があるから…」

「では、やはり、治るのを待つか?」

「…いや、ゴナンの体調にもよるけど……、運んでしまおう」

そう口にして、リカルドの瞳がなぜか楽しそうに煌めいた。そのリカルドの様子に、何かまた呆れるようなことが起きそうな予感がして、ナイフが少しため息をつく。




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