連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 1話「何か物足りない」(3)
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1話 「何か物足りない」(3)
明日1日を準備にあて、2日後にウキの街へと出立することになった。日も傾き始めた夕方、リカルドは拠点に戻り、寝室で横になるゴナンに報告する。
「決まったよ。明後日、出発する」
「そう…。俺も治ったら追いかけるから、次の街の場所と行き方だけ教えて……。いや、明後日までに治せれば…。ゴホッ、ゴホッ…」
「だから、君を置いていくことなんてないって言っただろう」
リカルドはそう笑って、ベッド脇のイスに座って、体を起こしたゴナンの頭を撫でる。
「幌馬車で行くんだ。君はその中で寝ていていいから」
「幌馬車を借りるの?」
「いや、買う」
「……?」
ただゴナンと荷物を運ぶだけなら、馬車か荷馬車を借りるだけでもよいのだが、中で寝るゴナンがしっかり療養できるよう、リカルドは中の快適性にも恐ろしくこだわった。足を伸ばして横になれる広さに加え、地面の衝撃を吸収するバネの仕掛けが車輪周りに入った幌馬車の荷台が、この街に運良く売ってあった。もちろん、ツマルタ職人の特製だ。本来は衝撃に弱い陶器や美術品などの貴重品や、繊細な機械などを運ぶためのものらしいが…。
「完全に衝撃がなくなるわけではないけど、普通の荷台に比べるとかなり快適なようだよ。貴族が乗る馬車と同じくらいの性能らしいから」
「…俺のためにそんなの買うの、もったいないよ…。馬でリカルドの後ろに乗せてもらえればいいから……」
「いいんだよ、ゴナン。ウキの街までは街道がきちんと整っているんだけど、代わりに少し距離があるんだ。馬車があれば皆の荷物も運べるし、必要なものだから」
「でも……」
「それに、もう買っちゃったし」
「……えっ? ……ゴホッ、ゴホッ……」
実は、宿から戻る前に工房街へ立ち寄り、車体屋に現物があることを確認するや否や、即決購入し決裁も済ませて来ているリカルド。ゴナンは流石に少し呆れる。
「……リカルド…。ちょっと節約した方がいいんじゃない? ……ゴホッ」
「大丈夫。ちゃんと少し値切ったから」
そうは言いつつも、タイキの寝袋とは比べものにならないほど高価なものであったのだが、リカルドはそれは口にしない。代わりに、ワクワクして続ける。
「中に敷く寝具も、なるべく振動を吸収できるものがないかタイキさんに相談しているんだ。できれば、テーブルや小型の氷室もつけられると寝泊まりもできるし何なら暮らせそうだね。最近は荷台に車中泊しながら旅する人も増えているそうだよ。確かにテントよりも値は張るけど、いちいち張ったり片付けたりする手間が必要がないから、悪路さえ選ばなければ手軽だもんなあ」
「…へえ……」
「明日一日掛けてカスタムするから。楽しみだなあ。馬車の縁を少し高く設けて棚も自作すると、もっと便利になるかな。ああ、そうだ。ゴナンが寝る台を小上がりで作れば、その下に収納スペースを設けられる…」
「……」
ゴナンはまた、なんとも言えない表情でリカルドを見ている。しかし、まあ、リカルドが元気で楽しそうなのはよいことなのかもしれない。

「……ゴホッ…。俺、馬車で運ばれてばっかりだ……」
「普通は旅する人は乗合馬車なんかを使うものだし。そんなものだよ。ただ、荷馬車で攫われていくのはだけは、もう勘弁して欲しいけどね、ふふっ」
「…でも、リカルドは、歩いて旅をしたがるよね……」
咳き込みながらも、ゴナンはリカルドに尋ねる。あんな遠くにある北の村にも、徒歩旅で来ていた。
「ああ、そうだね…。僕の旅は研究も兼ねているから、しっかり歩きながら自然環境を見ておきたいというのもあるけど…」
「……うん…、ゴホッ……」
「…あの、例のユーの呪いの発作がね、いつ起こるか分からないから。馬上で発作が起きて落馬しちゃって、そのまま借りていた馬が荷物ごと逃げていった、みたいなこともあったんだよね。それもあって…」
「……」
「まあ、普段は予兆があったり、『あ、来そうだな』って思っても来なかったりもあるから、大丈夫だよ。危なそうだったら、ちゃんと知らせるから」
ゴナンは心配げにリカルドを見上げる。その視線に気付き、リカルドはゴナンを安心させるように微笑んだ。
「…ほら、人の心配より自分だよ。ゆっくり寝て早く治れば、幌馬車は他の人が乗ったり、荷物をたくさん運んだりもできるから、ね」
「うん…」
ゴナンは素直に頷いて、また体をベッドへ横たえて咳き込みながらも目を閉じ、眠ろうとする。リカルドはその様子を見ながら、そういえばゴナンが攫われた日以来、発作もその予兆すらないことにも気がついた。
(……意外に、あれは僕の心身の状態が影響するんだろうか……?)
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