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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  12話「心を放つ」(2)


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12話 「心を放つ」(2)


 「ゲオルク…! お前がこいつらを呼び寄せたのか…」

「…」

 しかし、ディルムッドの叫びに対して、ゲオルクはキョトンとした表情を見せた。そして、マーケットの惨状を見て、ディルムッドに対峙している男達とその足元に倒れている男を見て、腕に小さな斬り傷を負って座り込むゴナンを見る。

「……なんだ、これは? おい、お前らは帝国人だな、しかも軍属だろう? 何をやっているんだ」

 迫力ある声でそう問いかけるゲオルク。男達は一様に直立の体勢となる。

「…シュナイダー大佐…。なぜ、ここに…」

「私は大佐の任は降りている、今はただの旅人だが…。とはいえ、我が国の民の愚行を見過ごすことはできない。問いたいのはこちらの方だ。この有様は、何だ…!」

 ゲオルクは、動ける者に集まってくるよう指示した。すぐに集合する男共。

「…なんだ、おまえらは。戦のない世に行き場をなくし、野党や盗賊にでも身をやつしたのか?」

「…いえ…。我々はとある使命を帯び…」

「戦乱中ならまだしも、この平和な世で、隣国の素朴な街を荒らし回るような使命とは?」

「……!」

 ディルムッドとナイフは、少し驚き交じりにその様子を見守っている。やはり、彼らとゲオルクは無関係ではあるようだが…。リカルドはゴナンの方に駆け寄り、腕に追った傷の血止めを行う。

 ゲオルクはさらに迫った。

「どういう了見だ。ことと次第によっては、本国へ報告をしないとならない」

「…いえ…。あなたには関わりないことです…。密命により、詳細は語れません…。軍を離れられているのなら、なおさら」

「…密命と。相当に偉い方がくだされているのだろうな…」

「……」

 脅しのようなゲオルクの問答に、男達は何も答えない。そのままゲオルクはさらに、4人を詰問し続ける。

 リカルドはハンカチを切り裂いて、ゴナンの腕の傷を止血している。

「ああ、ゴナン…。無茶して飛び込むから…」

「大丈夫だよ。ちょっと刃が当たっただけだから」

「ゴナン…。私は大丈夫なのに…」

「そんなわけない…、です…。」

 エレーネが心配そうに声をかけるが、先ほどの勢いはどこへやら、またうつむきがちに小声で答えるゴナン。ミリアも跪いて、ゴナンの傷を見た。

「ゴナン…、ごめんなさい。わたくしのせいで…」

「何言ってるんだよ。お前のせいじゃないよ。あの男達のせいじゃないか、それか…」

 いつものミリアの「不運の星」を即座に否定して、しかしゴナンは、一度口ごもる。

「…それか、きっと、巨大鳥のせいだよ。あんなに近くで、鳥を見たから…」

 そう言ったとき、ゴナンは自分を遠くから見つめる目線に気付いた。見ると、エドワードが立っていた。戸惑った表情でゴナンの方を見ている。一連の騒ぎをずっと見ていたのだろうか?

 ゴナンと目が合うと、エドワードはすっと目を背けて、そしてどこかへと走り去っていった…。

*  *  *

「やあ、我が国の者が、迷惑をかけた」

ゲオルクはひとしきり連中と話した後、彼らをこの街から去らせた。

「本来ならばこの国で然るべき罰を受けさせねばならないのだろうが、ここは私に免じていただきたい。この街には二度と立ち寄らないよう、きつく命じた」

やはり、軍を離れていると言いながらもある程度の権威を保っている様子だ。ディルムッドはふう、とため息をついた。

「…とはいえ、ツマルタの街では奴等の仲間を拘束させていただいている。子どもを攫い傷つけ、殺人未遂も問われるような事件を犯したため、彼らをただで解放することはできないだろう」

「なんと…。いや、それで構わない。当然のことだ」

自身の国の者が犯した所業に少し驚いた風のゲオルクは、そのまま少し思案する。リカルドはゲオルクに尋ねた。

「彼らはあなたの部下だったのかな?」

「いや…。あの者たちは私の顔を知っていたようだが、覚えはない。話した感じ、帝国の田舎の方の駐屯軍の者達のようだった。私はずっと中央に所属していたので、直接の関わりはないな」

「田舎…」

 念のため、ミリアとエレーネは先に屋敷に帰らせている。マーケットの脇で座り込むゴナンの元にゲオルクは歩み寄った。リカルドによって、両腕などに受けた傷の大体の止血は済んでいる。

「傷を負っているな、大丈夫か?」

「…はい…。かすり傷です。大したことない、です…」

「ふふ、頼もしい少年だ。そうだな、急所への傷はきちんと避けている。上手に護れているようだな。まかりなりにも軍人を相手にして大したものだ。師匠の教えも良いのだろう」

ゴナンが負った傷を見ただけでそこまで見抜くゲオルク。ゴナンは褒められ、表情は変わらずも少しだけ嬉しそうな光を瞳に宿した。



「お詫びと言ってはなんだが、食事でも馳走しようと思うが、いかがかな?」

「僕らもこの宿の食堂で夕食を取ろうと思っていたんだ。ちょうど良かった、ありがたくいただこうかな? いいよね、ディル、ナイフちゃん、ゴナン」

「ああ。聞きたい話もあるしな」

「ええ、もちろんよ。たくさん食べるわよ」

そう言ってナイフはゴナンの方を見る。

「傷が痛む? ゴナンは屋敷に戻っておく?」

しかし、ゴナンは首を横に振った。なんとなく、ゲオルクともう少し話をしたい気持ちになっていた。

「リカルドが止血をしてくれたから、大丈夫」

「そう?」

そのゴナンの様子に、リカルドはまた少し、複雑そうな微笑みを浮かべた。




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