連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 12話「心を放つ」(1)
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12話 「心を放つ」(1)
「私の目もいよいよ節穴かしらね。ゲオルクが関わっているのなら…」
ナイフは自嘲気味な笑みを浮かべた。その横でリカルドは、剣に手をそえたまま、男達に冷たい微笑みで話しかけた。
「おや、見知った顔もいるね。こんな田舎街に帝国軍人様が、何の用だろう」
「……! お前は、あの女装バーにいたやつだな…。あの店のオーナーもいるか。やはりここで間違っていなかった…」
「? 僕らを追ってここまで? どうやってだろう。君らの仲間は皆、ツマルタでお縄をくらっているはずだけど」
「全員、一斉に動くことは愚かなことさ。確実に使命をやり遂げるにはな」
男の一人が得意げにそう、口にする。「相変わらず、ちょっとつっつくといろいろ白状してくれるなあ…」と思いつつも、リカルドはそれを表には出さず、いつもの薄い微笑みを浮かべる。
「使命とは、あるかどうかも分からない卵を探し回って行く先々で暴れ回ること? それとも、何も知らないか弱い少女に言いがかりをつけて攫って命を奪おうとしたこと?」
そう煽るリカルドの言葉に、遠巻きに眺めていた街の人々は「暴れる…?」「女の子を攫ったって…?」とひそひそと話す。
「うちの店もそいつらにやられたんだ。女の子を探していると言われて、知らないと答えたら、暴れやがった…」
リカルドの脇にいるマーケットの店主が教えてくれた。ミリアをあの場にとどまらせて正解だったと、3人はホッとする。
「帝国人はもっと理知的な人種だと思っていたけどなあ…。ひどいものだ」
「なに…」
さらに煽るリカルドに、4人は剣を向ける。相変わらず堪え性のない連中だ。ゲオルクの洗練された雰囲気とは、まったく馴染まないが…。
ディルムッドがゆっくりと剣を抜いて、リカルドの前に立つ。
「稽古でもつけてやろうか? 4人がかりでも大したハンデになりそうにはないが…」
ぎろりと眼光を光らせるディルムッド。帝国男達は一瞬、たじろぐ。ナイフもその横で構える。リカルドは周りの人々に危ないから離れるよう、指示をしていた。
腕の覚えのある者だったら、構えただけでディルムッドやナイフとの力量の差を識り、迂闊に向かってこれないものだが、彼らはそうではないようだった。ディルムッドの言葉を受けて、がむしゃらにつっこんでくる。
(…己の力量も測れないのか…)
ディルムッドはナイフに下がるよう指示した。自分だけで十分だ。場所はマーケットのど真ん中、血が散ると良くないので、剣は受けるのみで攻撃は拳や蹴りで行う。それでも、相手が4人とは思えないほど、1人で次々に捌いていく。
そのとき…。
「ディル、あっち!」
ナイフの声に遠くを見ると、もう一人、帝国人風の男がいた。彼は密かに一人で動き、少女を探していたのだ。離れたところで様子を窺っていたミリアとエレーネの下へ駆けて行く姿が見える。
「…ち…!」
「言っただろう、皆で一斉に動くのは愚かだと」
そう得意気に言う男にディルムッドはいらつき、そのまま殴り倒す。ディルムッドがミリアの元に動こうとするも、他の3人が邪魔をしてくる。ナイフとリカルドは走り始めていたが、距離がある。
「ミ…、サリー! エレーネ、逃げろ!」
リカルドが叫んだ。2人はかけ出そうとするも、男はもう追いつきかけていた。エレーネはミリアを守り、レイピアを抜く。男は抜剣し、エレーネに斬りかかった。
「…!」
ガキン、と、鋼と鋼がぶつかり合う激しい音。しかし剣を受けたのはエレーネではなかった。ゴナンがエレーネの前に飛び込んできており、自らの剣で受けていたのだ。
ゴナンは目が良い。ディルムッド達が問答している陰で密かに動く不審な男に気づき、いち早く行動していた。
「ゴナン!」
「早く逃げて!」

ゴナンはエレーネにそう叫び、ぐっと剣を受ける。以前は手の添え方も分からず出血していたが、ディルムッドの指導によって、「護り方」を少しずつ身に付けつつあったゴナン。重いこの剣も、以前よりは振れるようになってきている。
逃げ出すミリアとエレーネを追おうと男が剣を離すが、ゴナンはその前に立ち塞がり、また男が振りかぶった剣を受ける。何度も打ち込んでくるが、受け、捌き、男を前に進ませない。しかし流石に大人相手、じきに力負けして何度か斬り傷が体に届いた。
「…っ」
「こら!その子に手を出すと許さないわよ…!」
と、ナイフが追いついてきた。男に飛びつき、瞬く間に締め落とす。そのまま、周囲を警戒した。
「…これで終わりかしら…」
「ナイフちゃん、あそこにもう一人…!」
ゴナンがまたその目で、もう一人の不審な男を見つける。キッとそちらに向かおうとするナイフとリカルド。ディルムッドは、しつこくまとわりついてくる3人の男達をまさに打ち据えようとしていた。
その時であった。
6人目の男の向こうから、騎馬で外から帰ってきたらしいゲオルクが現れた。マーケットの様子を見て、ゆっくり馬を下りる。
「…めんどくさいのが帰ってきたわね…。あの男は簡単にいかないわよ、リカルド。ディルならなんとかいけるとは思うけど…」
「あ、ああ…」
そのディルムッドも、ぎっとゲオルクを睨む。そして叫んだ。
「ゲオルク…! お前がこいつらを呼び寄せたのか…」
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