連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 11話「やはり」(7)
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11話 「やはり」(7)
「リカルド、リカルド…!」
ゴナンがリカルドに声を掛ける。発作が起きてしまったのだろうか? しかし、リカルドは「う…」と声を上げると、すぐに体を起こした。
「リカルド、大丈夫?」
「ああ…、大丈夫だよ。例の毒矢を食らってしまったようだ。もう1人、どこかに潜んでいたのかなあ。まったく気付かなかった」
そう言ってリカルドは右頬に手を遣り、そこに刺さっていた吹き矢を抜いた。
「毒矢…」
「ゴナンが狙われなくて良かったよ。これは丸1日くらい手足が動かなくなってしまうものらしいから」
そう言いながら、吹き矢をじっと観察するリカルド。
「でも、リカルドは…」
「だからほら、僕は大丈夫なんだよ。もう、なんともない。流石に食らった直後はちょっと動けなくなっちゃったけどね。本当に強い毒なんだな、これは…」
「……」
ゴナンは不思議そうにリカルドを見る。確かにいつも「大丈夫」と聞いてはいたが、本当に大丈夫な場面を見るのは初めてだったからだ。リカルドは少し眉を下げた。
「…ね。僕のことを心配する必要はないってことが、よく分かっただろう?」
「…うん…」
リカルドはふう、と胡座をかいて、空を見上げた。
「しかし、なんだか話ができそうだったのにな…。卵の話をした途端、だったね」
「うん…」
「ちょっと欲を出し過ぎちゃったかな」
そう、リカルドは反省する。あの最後の一言で、自分たちは「敵認定」されてしまったかもしれない。せっかく耳を傾ける素振りを見せてくれたのに、次遭遇したときも同じように対応してくれるだろうか…。巨大鳥、というより、卵を狙う者を徹底して許さない構えのようだ。
「…ゴナン、ミィちゃんの夢を見てた?」
リカルドは話題を変えた。横にしゃがみ込んでいるゴナンに優しく問う。
「…うん…。2人でお腹いっぱい、マルルの実を頬張る夢」
「そっか…。ゴナン、寝ぼけて、あの鳥の女の子に『ミィ』って声かけてたから…。あの子は寝ているゴナンのことを、ずっと見ていたんだよ」
「えっ?」
そう聞き、ゴナンは少し憮然とした顔になる。よりにもよって妹と見間違えるなんて…、と自分に対して頭にきている様子だ。
(……ゴナンにとっては、巨大鳥は憎い存在なんだな…)
ゴナンのそんな感情に、リカルドは全然気がついていなかった。本当にあの干ばつが巨大鳥のせいかは分からない。でも、それが本当だったら卵の伝承だって本当ということになるかもしれない。リカルドですらその部分はまだ、半信半疑なのだ。
リカルドはふう、と息をつき、ゴナンに優しい目線を送る。
「ゴナン。幸せな夢だったんだね」
「…うん…」
「起こしちゃって、悪かったなあ…」
「大丈夫…。忘れないから…」
(…でもゴナン、巨大鳥のことは忘れたっていいんだ。憎々しく思う必要もない。この街に住むって、そう決めたのなら…)
* * *
その後、ゴナンとリカルドは周辺を馬で周回してみたが、巨大鳥の姿は地面でも空でも見つけられなかった。夕方が近くなり集合場所に集まった際に、一同に今日の出来事を伝える。
「…そういうわけで狼煙を上げられなかったんだけど、結構な時間、観察ができたよ。気がついたことをまとめて、改めてみんなと共有するね」
そう微笑むリカルドに、ミリアが心配そうに尋ねる。
「でも、リカルド、毒の吹き矢を受けたって…」
「あ、ああ…」
「大丈夫なのか?」
ディルムッドも尋ねる。ナイフが「強い毒」と言っていたズビダの毒だ。リカルドがこんなにピンピンしているのは、不自然である。
「その…、前も言ったように効きにくい体質で、あと、このハイネックの服の上から食らったから、針が深くは刺さらなかった、みたいかな」
「そう…?」
本当は毒矢は頬に受けたのだが、涼しい顔でごまかすリカルド。ミリアは心配げな顔だ。ミリアとディルムッドにとって、「毒」はあまりにも身近な危険なのだ。

「さあ、まだ明るいうちに帰ろうか。お腹が空いたな。今日は例の宿屋の食堂でごはんでもいいね。なかなか美味しいんだ」
「最初はあんなに揉めたのに、もうすっかり常連さんね」
「まあ…、男同士、拳を交えて親交を深めるものじゃないか。そんな感じかな?」
ナイフにそう答えたリカルドは、ふとゴナンの表情が気になった。エドワードとのことをどう考えているのかも結局、聞けていない。ゴナンはリカルドのその言葉を受けて、少しだけ目を伏せて考え事をしているようだった。
* * *
一行は馬4頭でウキの街へと戻ってきた。クラウスマン邸には戻らず、街中心部の方へと向かう。駐馬場へ馬を止め、宿屋を目指して歩いていると、マーケットの方が騒がしいことに気付いた。
「…! エレーネ、ミリア様を頼む。ちょっと見てくる」
ディルムッドの耳には、複数人が抜剣する音が届いた。剣の柄に手をやりながら、騒ぎの方へと向かっていく。
「…僕らも見に行ってみよう…。人数が要りそうだ…」
「ミリアとエレーネはここにいて」
リカルドとナイフも騒ぎの方へ向かう。ゴナンもその後ろを着いていった。
マーケットでは、ディルムッドが騒ぎの主達と対峙している。
「…え、また、帝国人たち?」
リカルドが驚く。ディルムッドの前で剣を手に構えているのは、4人の男たち。ストネやツマルタで卵を探していた男達と雰囲気がよく似ている。彼らの周りの店は荒らされて、什器などが壊されているようだ。いったい何が…。
「…『フローラ』に飲みに来てた奴も2人いるわね。しつこい…」
「でも、なんで、この街に…」
リカルドとナイフがディルムッドの横に並び立つ。ディルムッドは苦々しく呟いた。
「…やはり、ゲオルクが奴らを招いたのか…。我らがここにいることを知らせたのではないだろうか…」
「……!」
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