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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  11話「やはり」(6)


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11話 「やはり」(6)


 20分程が経っただろうか。

 その間、ただボーッとしているのももったいないので、リカルドは鳥の挙動を観察していた。見た目だけの印象だと、やはり生物として「鳥」に分類される気がする。顔の大きさに対してくちばしが大きく横広いから、は虫類に見えるようだ。龍のようだと言われるのも、あの顔つきと首の長さ故かもしれない。そのくちばしで水を飲み、時に羽繕いをし、そしてたまに少女の方を見る。

(あの子は巨大鳥の『飼い主』なのかな…?)

 少女は、鳥が水を飲み終わるのを待っているような様子だ。鳥が主導で動いているのだろうか。リカルドは、鳥が背負っている鞍も気になる。馬などの鞍と比べても、少し複雑な造りをしている。

(いくら気流に乗るといっても、飛び上がるときなんかは羽ばたくからとても揺れるだろう。あの鞍の仕組みは、それを軽減させるもののように見えるな…。どちらかと言えば、機械に近いような…)

 と、巨大鳥が動いた。飛び立つのか?とリカルドは身構えたが、少女は動かない。巨大鳥は体を水の方に伸ばして、くちばしを水面に突っ込む。

(…水の後は、食事か…。あの様子だと、虫か何かを探しているのかな…?)

 と、やがてシュッとくちばしを動かし、そして何かを咥えた。魚を捕らえたようで、そのままパクリと飲み込んでしまった。

(…巨大鳥は、肉食…?)

 あの大きさだ、ほかの動物や、人間が食べられてしまう恐れはないのだろうか? どのような食事をとっていたのか、後でミリアに聞いてみよう、とリカルドはさらに観察を続けた。

*  *  *

 その時…。

 はっと少女が頭上を見上げた。そこには飛影が見える。鳥、いや、あれは…。

(ルチカだ…)

 三角形の帆のような翼で、何かを探すように蛇行しながら飛んでいる。あんなに自在に飛べるのか…、と感心げに見上げたリカルドだったが、少女が慌てて立ち上がったことに気付いた。

(しまった、行ってしまう…)

 リカルドは慌てて木の陰から飛び出し、少女に声をかける。

「ねえ、君。ちょっと待って、話をしたいんだ」

「!」

 少女がハッとしてリカルドを見た。先ほどまでの穏やかな雰囲気とは違う、警戒の気を全身から発してくる。そしてそのリカルドの声かけに、ゴナンも目を覚ました。

「…あれ…? どうしたの?」

「ゴナン! 鳥、そこに!」

「えっ!」

 ゴナンは慌てて身を起こし、少女と鳥を見る。少女は慌てて鞍に飛び乗ろうとしていた。ゴナンは立ち上がり、そして巨大鳥と少女に叫ぶ。

「…なんで、逃げるんだよ! 村を、あんな目に遭わせて…! なんで、あんなこと、するんだよ…!」

「!」

 ゴナンが発した予想外の言葉に、リカルドも驚いた。少女もすこし意外な表情でゴナンを見る。ゴナンはにらみ付けるように巨大鳥と少女を見ていた。

「…お前達のせいで、…村は乾いて、ミィは飢えて、死んで…。村の皆も、死んだ。お前達のせいで!」

「ゴナン、落ち着いて」

 珍しく激情をさらけ出すゴナン。体を怒りで震わせるゴナンの肩をなだめるように抑えて、リカルドは穏やかに少女に話しかける。

「ねえ、君。あの空を飛ぶ彼から逃げたいのなら、今飛び立つと逆に見つかってしまうよ。少し待ってはどうかな? その間、僕の相手をしてよ。何も無理矢理奪おうとはしないよ。僕らは、話がしたいだけなんだ」

「……」

 リカルドの言葉を聞き、少女はじっと考える。そしてリカルドの助言通り、その場にしばしとどまる素振りを見せた。やはり、言葉は通じている。




(…話ができそうだ…!)

 リカルドは一歩、前に進んだ。

「…ねえ、君たちの故郷はコビナ衆国のようだね。どの部族なのか知りたいな。僕も衆国には旅したことがあってね…。ポー族の族地では、族長さんのお家に招かれてお酒も飲んだんだよ」

「……」

 リカルドはもう一歩、踏み出した。

「…とても大きな鳥だね。この国では見たことがないよ。君たちの故郷には、同じような鳥が何羽も生息しているんだろうか? どんな地域に住んでいるのかな? 僕は自然学を修める学者なんだ。どうして、鳥がこんなに大きくなるのか、その生育環境に、とても興味がある」

「……」

 少女は何も言葉を発しない。これだけの時間、同じ場所にいるが、いまだ彼女の肉声は聞けていない。

「…その鳥はオス?メス? …卵は、産むのかな…?」

 リカルドの瞳の奥が鈍く光った。ゴナンは、少し怖気を感じてリカルドの背中を見つめる。少女は少し、睨むような目つきになった。

と…。

「……!」

 突然、リカルドの体がぐらりと揺れ、どさりと倒れた。

「えっ? リカルド…!」

 駆け寄るゴナン。その瞬間に巨大鳥はバサリと羽ばたき、そして飛び上がった。少女は鞍の上から、2人を見ている様子だった。



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