見出し画像

連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  11話「やはり」(5)


<< 前話  || 話一覧 ||  次話 >>

第四章の登場人物
第四章の地名・用語



11話 「やはり」(5)


 ゴナンとリカルドの持ち場内にある泉のほとり。一通り水場を巡回した後、例によってリカルドがピクニックセットを整え、2人はチェアに腰掛けて休憩をしていた。ゴナンがウトウトと頭を揺らしている。

「ゴナン? 眠そうだよ。昨日、夜中に起きちゃったせいかな。少しお昼寝したら?」

「ダメだよ。みんな鳥を探して回っているのに、俺だけ…」

「それぞれ、適当に休憩しているよ。ずっと動きっぱなしでも疲れるだけだからね。ほら、少しだけでも横になって眠ってしまった方が効率的だよ」

「…うん…」

 リカルドの説得にゴナンは素直に頷いた。リカルドは微笑んで、自分のマントを丸めてゴナンの枕にする。

「30分くらい経ったらちゃんと起こすから、さあ、眠って」

「うん、ごめん。ありがとう…」

 そう言って、横になると、間もなくスヤスヤと寝息を立て始めたゴナン。彼の健やかな寝顔を見ると、リカルドの心はほっと温かくなる。1時間くらいは起こさないつもりでいた。

(ふふ…。いくら見てても飽きないなあ…)

 ニコニコと見守っていると、リカルドまで眠くなってきた。流石にこの状況で2人してお昼寝はよくないので、目を覚ますために立ち上がり、周辺を少し散歩することにする。さあっと爽やかな風がリカルドをなでた。

(…ゴナンは、この街に住みたいって、心に決めたのかな…。あの吹っ切れた顔。きっとそうだ…)

 泉を囲む少しの木々の間を歩きながら、リカルドは考えにふけっていた。だとしたら、自分はゴナンの意志を尊重して、最良の環境を整えてあげるだけだ。

 クラウスマン夫妻に、ゴナンを養子に迎えてくれるかを相談してみよう。2人ともゴナンを気に入っているようだし、ずっと子どもを欲しがっていた夫婦だ、きっと受け入れてくれる。あんなに目を輝かせて本を読むゴナン、あんなにかわいいゴナン、受け入れないはずがない。

 しかし、その時のことを思うと、リカルドの胸は引き裂かれそうな心地になる。ゴナンがいるから『大丈夫』になったこの心、ゴナンがいなくなったら、また、どうやって冷やせばいいのだろう。

「…まあ、どうせすぐに死ぬ僕なんかの心がどうなろうと、関係ないか…」

 心穏やかだろうと、苦しんでいようと、終わる日は決まっている。そうだ、もうこだわらなければいい。苦しむだけ苦しめばいいんだ、自分は。それと引き換えにゴナンが幸せになるのだ。

「……?」

 と、ふわっと丸い風が吹いた気がした。リカルドはゴナンが寝ている方に目を向ける。と…。

(……!)

 そこには、巨大鳥の姿があった。ゴナンが寝ているすぐ横に、ちょうど降りてきたところのようだ。

(…来た…! 巨大鳥…)

 リカルドはごくりと息を飲んだ。もう何年も、あんなにも追い求めていた巨大鳥。その姿を見るのは幾度目かだが、それでもやはりリカルドは感動に近い感激で身を震わせる。

(…しまった…。狼煙はゴナンのところだ…)

 少女が巨大鳥の背にある鞍から降り、そして鳥は水を飲み始めた。ひとまず、あわてて声を掛けることはせず、息を潜めてじっと見守るリカルド。少女は、すぐそばでゴナンが寝ていることには気付いているようで、チラチラと様子を窺っている。一方のゴナンは、スヤスヤと変わらず爆睡中だ。

(…褐色の肌、エキゾチックな顔立ち、そしてあの服装…。やっぱり、コビナ衆国人の特徴を持っている…)

 リカルドは少女をじっと観察した。エレーネが言っていたとおり体格はミリアそっくりで、年頃も同じに見える。ただ、全身がバネのような雰囲気を感じる。キュッと締まった鍛え上げている体。身も軽そうだ。

 一方で鳥の方を見る。は虫類に似た厳つい顔。茶色の体毛と羽。そして見上げるほどの大きさ。こんな大きな生き物が空を飛ぶなんて、何度も目にしているはずなのに、信じられない。

(…さて、どうしよう…。投網も縄も剣も全て、ゴナンが寝ている場所に置いてある…。僕が声を掛けて、とどまってくれるだろうか。さすがに生身で少女に襲いかかり拘束するというのは、その後で落ち着いて話をするのに差し障りがあるかな…。いや、でも、まずは止まってもらう事が大事だから、実力行使で行くか…)

 少女は泉の水を飲み続ける鳥の様子を見守っていたが、所在なくなったのか、ウロウロとし始めた。そして、すぐ横に巨大鳥がいるとも知らずスヤスヤと眠り続けるゴナンを興味深げに見る。リカルドは動かず、しばし少女の様子を見守っていた。

「……」

 ゴナンは全く起きる気配はない。そのことを確認すると、少女はさらにしゃがみ込んで、ぐっとゴナンの顔を覗き込んでいる。警戒をしているのではない。完全に好奇心に満ちた表情だ。

(……。ゴナンに危険はないか? 大丈夫だろうか…)

 リカルドはどう動くべきか、決めかねていた。今、自分がわずかでも存在を示すと、途端にこの少女はバネのように巨大鳥の下へと戻り飛び立ってしまうような気がする。しかし、ゴナンの何かに興味を持っている今なら…。

 と…。

「…ん?」

 流石に人の気配を感じたのか、ゴナンが目を覚ました。少女はビクッと反応したが、すぐには逃げない。ゴナンの次の動きを待っている。

「…ミィ…。こっちにおいで。一緒にお昼寝しよう…」

 ゴナンは体を寝せたまま顔だけを向け、少女の姿をボンヤリ見て、亡き妹の名を口にした。寝ぼけている様子だ。

「……?」

「…お腹いっぱい食べられて、よかったな…。ほら、眠くなったろ…? 兄ちゃんも眠いよ…」

 ミィとご飯をたくさん食べる夢を見ていたのだろうか? 幸せな夢だ。夢うつつでこぼれるその優しい寝言に、リカルドの胸は痛くなる。そして少女は何か答えるでもなく、じっと見ているままだ。ゴナンはそのまま、少女の奥にいる巨大鳥の姿に気付くことなく、またスウスウと眠りに入っていった。

「……?」

 首を傾げた少女。そのまま、脇に置いたままになっているリカルドのチェアに座ってしまった。そして、巨大鳥が水を飲む様子を見ながら、時折ゴナンの方を興味深げに見る。

(……? ゴナンにはっきりと姿を見られたのに、逃げない…?)

 イスが2脚置いてあるから、ここにもう1人、誰かがいるであろうことは予想できそうだが、少女はあまり気にしていないようだ。それよりも、自分の座る椅子やテーブル、そしてそこに置いてあるお茶や茶菓子をジロジロと見ている。

(…困ったな…。どう動けば最善か、判断に困る…)

 鳥は水を飲み、少女は椅子に落ち着いてしまい、ゴナンは眠ったまま。リカルドは木の陰に隠れながら、この不思議な光景をすぐには壊したくないような気持ちになっていた。

 そのまま、奇妙に穏やかな時間が、しばし流れた…。





↓次の話↓



#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に


いいなと思ったら応援しよう!