連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 7話「鋭い男」(5)
7話「鋭い男」(5)
(……巨大鳥! ……ゴナン! 見つけた……!)
リカルドは巨大鳥らしき姿を目で追いながら、必死に手綱を操作する。すぐに村を出て盆地の平野部に出た。広大な草原の中に、いくつか木々が生える小さな森があるような見通しの良い地形だ。
鳥はどこかを目指して真っすぐ飛んでいたが、やがてふわりと小さな森の一つへと降りていく。やはり普通の鳥よりもはるかに大きい。巨大鳥だ。
リカルドは森の樹の一つに馬をつけると、徒歩で森の中を進んだ。小さな森で、すぐに泉があるのが見える。そしてその縁には……。
「……!」
リカルドは思わず泉に駆け寄った。そこに居たのは、巨大鳥。しかし、一緒にいる人間はゴナンではなかった。
「……コチ、さん…?」
「……!」
声をかけてきたリカルドを見て、コチは驚く。それもそうだろう、剣で心臓を貫かれていたはずの人間が、元気に駆けてきて自分の名前を呼んでいるのだから。
「……コチさん、なんで君が乗っているんだ? 君だけしかいないようだけど…。ゴナンは、ゴナンはどこに……?」
「……」
しかしコチは答えない。そしてリカルドをじっと睨み付ける。ゴナンへの態度と違い、コチはリカルドに対しては全身で警戒感を露わにする。そしてすぐに胸元から笛を取り出し、巨大鳥に飛び乗った。
「あっ……、待って! 今は卵のことなんか訊かないから、せめて、せめてゴナンの居場所を……!」
「……」
コチは笛を吹く直前、その挙動を止めてリカルドに目を留めた。そして何かを言おうとしたが、一瞬口ごもり、「……あのときは、護ってくれて、ありがとう……」と小さく礼を述べる。
そして笛を吹くと、それに答えるかのように、「キィィィ!」と鳴き、巨大鳥は大きな旋風を残して空へと飛び立った。あとには、呆然と立ち尽くすリカルドが残されるのみだった。
* * *
馬でまた追おうとしたが、それ以降、鳥の姿を捉えられず、フースーの村に戻ってきたリカルド。もう夕方になっている。引き馬でとぼとぼと歩いていると、1人の男性が声をかけてきた。
「お、戻ってきたな? 一体どうしたっていうんだ?」
「……失礼…。ちょっと急用があったもので……」
先ほどの捜索隊の一員だった男性のようだ。距離を置くように冷たく答えるリカルド。男はそんな態度を意に介する様子もなく、リカルドが引く馬の顔をなでる。
「人間様のご都合もいいけどな。たまにはお馬様も労ってやりなよ」
「……」
乗り物や機械やモノへの愛着は強いのに、生き物や人間など命あるものへの関心は薄いリカルド。男性はそんな彼の特性を知ってか知らずか、よしよしと馬をなでてリカルドの代わりに労っている。
「うちの宿は、馬小屋のキレイさは村一番だぜ。飼い葉もいいのを揃えているんだけどなあ」
そう、ニヤリとする男性。どうやら、リカルドに宿屋の営業をかけているようだ。そういうやり取りは嫌いではない。リカルドはふふ、と微笑みを浮かべる。
「…そういうことなら、お世話になろうかな。肝心の人間様の寝床はどうなんだろう?」
「まあ、そこは……、人並みだな。感動も落胆もしないと思うぜ」
そう笑って男性はリカルドから手綱を預かり、自身の宿屋へと案内した。
* * *
男性はそうは言っていたものの、料理も美味しく、なかなか快適な宿であった。リカルドはここを拠点にして巨大鳥探しを行おうと決める。といっても、やはり朝は朝霧が立ちこめて周りが何も見えなくなるので出発できず、朝食後に時間を持て余し村を散策するリカルド。
霧の中をフラフラと歩いていると、村の中心付近に、人の賑わいがある。近づくと、何かとても大きく、背の高い建物があるようだ。
「…ここは何ですか?」
リカルドは近くにいた女性に尋ねた。
「ここはね、名物の朝霧の海を上から眺められるように立てた展望台なの。ここを目当てに村を訪れたのではないの?」
「いえ…。でも、霧が名物だとは聞いていましたが……」
「だったら、一度は見た方がいいわよ、ほら、上って」
「あ……、入場料は…?」
「え? そんなの取らないわよ。さあ、どうぞ!」
なんとも商売っ気のないことだ。リカルドは女性に押しやられて建物の中へと進む。レンガ造りのその建物は、塔のように高く高く伸びている。中にらせん状の階段が作られており、そこを上っていくリカルド。なかなかの高さだ。これだけの高さの塔を作れる技術力がすごいと感じながら、息を切らし上っていった。
やがて、塔の頂上に着く。カップルか夫婦らしき先客がおり、村人が観光ガイドとして説明をしているようだ。展望できるように作られたワンフロアから外を眺めると、広い広い雲海が広がっているのが見えた。
(…ゴナンに見せてあげたいな…。こういうの、喜びそうだな。そしてこの霧の海の仕組みがどうなっているのかとか、訊いてくるんだろうな……)
実はすでに、巨大鳥の上から空の雲を眼下に眺める経験をしているゴナンだが、もちろんリカルドはそんなことは知らない。

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