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連載小説「オボステルラ」 第六章「彼方に見る」  1話「冬のシャールメールにて」(2)


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1話「冬のシャールメールにて」(2)


「そういえば、手紙を受け取りに行ってたんだよね? …ゴホッ、ゴホッ」

 ゴナンが枕に頭を沈めながら、リカルドに尋ねた。

「ああ、そうそう。僕宛とナイフちゃん宛にウキに届いたものを、先生達がこちらに転送してくれたみたいで。ゴナンにも先生からと、エドワードくんからの手紙があるよ」

「エドから? 読みたい…! ゲホッ、ゴホッ」

 聞いてゴナンはまた咳き込みながらも、手紙を受け取る。体を少し起こすだけでも咳とゼイゼイ息が出てしまうが、ゴナンはワクワクした表情で手紙を開いた。そしてじっと読みふける。その様子を微笑ましく眺めて、そしてリカルドは自身宛の手紙にも目を落とした。

 残念ながらアドルフからの返事はない。しかし、ローゼンフォードから手配した情報屋からの報告は届いていた。

(……フィッシャー家は、やはりこのシャールメールに居住している)

 ジョージの書斎にあった古い記録で見つけた、ゴナンの父親かもしれない名前、クリストフ・フィッシャー。その生家が確かにこの街にあるということが、その手紙では報告されていた。家の詳細情報も書かれている。アパルトマンから病院に着くまでに、もう何度も見返しているその報告内容に目を落とし、リカルドは少し険しい表情になる。

(……どうしようか……。このクリストフさんがゴナンのお父さんだと確定しているわけではない。アドルフさんからの返事を待って判断した方がいいけど、そうなるといつになるか分からないか…?)

 と、ゴナンが心配そうにリカルドを見ていた。

「リカルド?」

「あ、ああ、ゴメン。これは何でもないよ。先生達とエドくんの手紙はなんだって?」

「うん…。俺が無事で良かったってことと、その……」

「?」

 ゴナンが一瞬だけ口ごもる。

「先生達が、北の村まで旅をすることにしたって。異常気象を現地で見るために……」

「えっ?」

 驚くリカルド。しかし、できれば現場を見てみたいとジョージが言っていたことを思いだした。

「そうか……。ジョージ先生は年齢もあるから、あそこに行くのは大変そうだけどなあ……。でも、それで何か分かるといいね」

「うん、それで…。なんでか、エドもそれに着いていくって……。ゴホッ」

「ええっ? なんで?」

 さらに驚くリカルド。ゴナンも首を傾げている。

「手紙には、『俺もやるぜ!ゴナン!』てしか書いてないから、わかんない……」

「……」

 エドワードらしいといえば、エドワードらしいが…。しかし、彼の両親やクラウスマン夫妻がよく承諾したものだ。ゴナンは続ける。

「……それで、『ミィちゃんのお墓参りもしてくるぜ』って、書いてる……」

 咳き込みながらも、少し遠い目で手紙を見つめるゴナン。リカルドは微笑んで、ゴナンの頭をくしゃっと撫でた。

「さ、そろそろ横になろう。手紙は枕元に置いておく?」

「うん……」

「新しく薬も作ってもらえたし、きっとよくなるよ」

 そのリカルドの言葉に、ゴナンは熱で浮かされた瞳でこくりと頷いた。

*  *  *

 一方、ミリアとエレーネ、ナイフ、ディルムッドの姿は、シャールメール近郊の草原の中にあった。草原といっても、すっかり冬の景色のため緑は少なく、荒々とした野が広がっている。

「うーっ。流石に馬だと寒いわね……」

 ナイフがそう、馬上で体を震わせ、自分の前に座るミリアの体を包むように手綱を握った。いつもならディルムッドと同乗するミリアだが、この寒さである。ミリアを寒さから守るため、とはいえディルムッドが王女に対して長時間体を密着させるのは、あまりよろしくないと判断したため、ナイフに託したのだった。

「ミリア、寒くない?」

「ええ、大丈夫、ありがとう。ナイフちゃんの筋肉が、とっても温かいわ」

「私もよ、湯たんぽ抱えてるみたい。王女様を湯たんぽ扱いだなんて、随分罰当たりだけど」

 そう笑い合う2人。エレーネとディルムッドも馬頭を寄せて話し合う。



「全く、鳥の気配もないわね」

「ああ、それにこの寒さだ。すでに鳥は『動けない』状態にあるのではないだろうか?」

 入院したゴナンと看病のリカルドを街に残し、4人はこの数日、いつものように水場の探索を行っている。シャールメール自体がとても大きな街なので、人気ひとけがない水場は街からもかなり離れている。そして、これまで探索地域では巨大鳥が飛翔する姿を見かけることができていたのに、この地域では全く姿を見ることもないのだ。

 ディルムッドのその問いに、エレーネも考える。

「そうね…。鳥が冬ごもりをできそうな場所が、この近辺にあるかしら…。ゴナンが聞き取った情報だと、『シャールメールの方』であることは間違いなさそうだし」

「ちょっと、違う切り口で探さないといけないかもしれないわね」

 ナイフがそう分析する。今までなんとかたぐり寄せてきた糸がすんでのところで切れそうな、そんな危機感を感じている。

「……こういう探索仕事を依頼できそうな知り合いが、この近くにいるから、明日にでも顔を出してこようかしら」

 王妃のお見舞いの時にエイリスに紹介していた、ミラニアの戦士の派遣業を行う人物のことのようだ。

「頼む。このままだと、本当に手がかりがなくなってしまいそうだ」

 そう頭を下げるディルムッドにウィンクを返すナイフ。そしてふう、と息をつく。

「じゃあ、今日はひとまず、街に戻りましょっか」

「そうね。街まで結構、距離があるから、暗くなってしまうわね。日も短くなっているし」

 そう答えたエレーネに、ミリアがスッと背筋を伸ばして提案した。

「それならば、お部屋に戻った後、ゴナンのお見舞いに病院へ行きましょう」

「ええ、そうね。でも、それなら、部屋に戻る前に直行してもよいのではない?」

「いいえ、準備がるから、一度戻りたいわ」

「…?」

 お見舞いに何の準備を?と、ナイフはエレーネと顔を見合わせた。

*  *  *

 シャールメールでは長期滞在になる可能性も見越して、4人は宿屋ではなく、リカルドが借りているアパルトマンに部屋を取った。ちょうどリカルドの部屋と同フロアにファミリールームの空室があったのだ。広くて家具も良いものが入っており、なかなか快適な住居だ。

(…にしても、リカルドはこの部屋には年に1〜2度、帰って来れば良い方だと思うんだけど…)

 いくらユー村の財産を自由に使える身だと行っても、わざわざ拠点をつくりまくる意味が分からない。ナイフは以前そのことを尋ねたが、リカルドはあの嫌な笑顔を浮かべて、「必要ないと言えばないけどね、こうやってお金を使うのも、僕なりの『運命への仕返し』なんだよ」とただ一言、述べた。

「お待たせ、さあ、行きましょう」

 と、ミリアが個室から出てくる。ここまではエレーネと一緒の部屋だったが、ここは個室が4部屋あるので、ミリアもストネ以来の独り寝である。そんなミリアは、何やら大荷物を抱えていた。

「…ミリア? 準備って、いったい…」

「さあ、行きましょう」

 ナイフの問いに答えず、歩みを進めるミリア。その行いに、また少し嫌な予感がする大人3人である。



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