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連載小説「オボステルラ」 第六章「彼方に見る」  1話「冬のシャールメールにて」(3)


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1話「冬のシャールメールにて」(3)


 ゴナンが入院する病院は、アパルトマンから徒歩で20分ほどの距離にある。

「ゴナン、お見舞いに来たわ」

 そう声をかけながら、静かに部屋に入るミリア。3人もそれに続く。もう夕方の頃合い。ゴナンはちょうど、果物の擦ったものを食べようとしているところだった。といっても、例によってリカルドが食べさせようとしているのだが。

「あら、お食事中だったのね、ごめんなさい」

「ゴホッ……、大丈夫だよ。おかえり、ゴホッ…」

「ゴナン、わたくしが食べさせてあげるわ」

「えっ」

 ミリアは荷物を降ろすなり即座にそう宣言して、ものすごい勢いでリカルドから果物の器を奪い取る。思わぬ行動に呆気にとられたリカルドは、なんとなく圧される形でベッドサイドの席を譲ってしまう。笑いをこらえるナイフ。 




「ミリア……? ゴホッ……」

「ゴナン。こうした方がきっと食が進むわ。わたくしもそうだったもの」

 ミリアはスッと背筋を伸ばして、スプーンで果物をすくってゴナンに差し出す。ストネでも見た光景だ。そしてゴナンも、あのときと同じようにじっとスプーンを見て、そしてミリアから器とスプーンを奪い取る。顔が赤いのは熱のせいなのかどうなのか。

「自分で食べられるから。……ゴホッ、ゴホッ……」

 咳とゼイゼイ息が激しく出た衝撃で、スプーンに乗せていた果物がベッドの上に落ちてしまった。「まあ、大変」と言ってミリアはすぐに、脇にあった雑紙で拭き取ろうとするが、どういうわけか布団の上に果物を伸ばし広げる結果になってしまう。

「……あら? どうして拭き取れないのかしら?」

「ミリア、私がするから。そこに座っていて大丈夫よ」

 たまらずエレーネが手を出してくる。少し不満げなミリア。そして、エレーネがぐっと自分の近くに体を寄せて布団を拭き始めたことで、ゴナンは今度はあからさまに顔を真っ赤にして咳き込み、体を思い切りベッドの端に飛び退かせて、咳がまたひどくなる。ちょっと果物を食べるだけで大騒動である。ナイフは笑いをこらえるのに必死だ。

「…どうだった? やっぱり、鳥の姿は見えなかった? 任せっぱなしで申し訳ないけど」

 ミリアに押し退けられたままのリカルドが、ベッドの騒動はさておいてナイフとディルムッドに尋ねた。

「ああ、今日も全く、気配もなしだな。見つかる感じがしない」

「そうか…。もう寒くて飛び回れないのかなあ……」

「鳥が冬ごもりするとしたら、どういう場所かしら?」

 ナイフも腕を組んでリカルドに尋ねる。うーん……、と考え込むリカルド。

「普通の鳥だったら、冬でも葉を落とさない常緑林の中とか、草が生い茂る中で寒さをしのぐような気はするけどね…。ただ、あの大きさだし、同じように考えていいのかどうか…」

「それに、もし卵を産むのだとしたら、どこかに隠れるようにしたりとか、巣を作ってその中で産んだりするんじゃないかしら?」

 エレーネも付け加える。これも、あくまで普通の鳥なら、の話だが。

「リカルド。明日、シャールメールの近くにある知り合いのところへ行ってくるわ。そこではミラニアの戦士を囲っていて、人員がいれば、こういう探索ごとを任せられると思うの」

「そう? もし人件費が必要そうだったら、その分は負担するから言ってね。僕も何人か情報屋に依頼はしているんだけど、彼らは自然の中の探索向きではないからね」

 そう、ナイフに微笑むリカルド。何人もの情報屋、というところに、ディルムッドは少し引っかかる。

「リカルド、情報屋というのは、その……、まっとうな素性の人間達なのだろうか?」

「ああ……」

 そう聞いて、ミリアの方を見るリカルド。

「……まあ、蛇の道は蛇だから、時には何か公にできないような方法を取っている可能性もあるとは思うけど……。彼らもプロだし、秘密を守るっていう点においては、そこまで心配はないと思うけどね。それに、依頼しているのは『大きな鳥をさがしてください』という、至極、牧歌的な依頼だし」

「そうか……」

「ゴナンの村に巨大鳥が来たっていう情報を届けてくれたのも、その情報屋の1人だったんだよ。すごいよね。どうやってあんな辺境の情報を仕入れたんだろうなあ」

 そう、ゴナンの方に向いて教えるリカルド。情報屋という仕事がよくわからないゴナンは一瞬、首を傾げるが、「そうなんだ……」と少ししみじみとした表情になる。 

「じゃあ、その人の情報がなかったら、俺がリカルドと会うこともなかったし、俺、村で死んでたのかもしれないな……。ゴホッ、ゴホッ……」

「……」

 リカルドはクシャッとゴナンの頭を撫でる。あまり食は進んでいないようだ。「もう、食べられないかな?」と尋ねたら頷くゴナン。ほとんど中身が残っている器を受け取り、ゴナンを休ませようとベッドに寝せる。


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