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連載小説「オボステルラ」 第六章「彼方に見る」  1話「冬のシャールメールにて」(4)


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1話「冬のシャールメールにて」(4)


  と、エレーネがふと気付いて、なぜか床にうずくまっているミリアに尋ねた。

「ミリア? あなた、何をしているの?」

「え? 準備よ」

 そう答え、バサッと寝袋を広げて敷き始めるミリア。妙に大荷物だと思ったら、まさか寝袋を持ってきていたとは。

「一体、何の準備?」

「リカルド、あなたはとても疲れて見えるわ。今日はわたくしがここに泊まって、ゴナンの看病をしようと思うの」

「えっ?」

「でも、わたくしはどうしても、リカルドのように椅子に座ったまま寝るという技術がないから、仮眠がとれるよう寝袋を持ってきたの。あと、パジャマとお着替えと身だしなみのセットとおやつとハブラシと……」

「技術って……」

 エレーネは呆れたように呟く。そういえば昨晩、アパルトマンのダイニングで椅子に座ったり立ったりと何かをしているようだった。妙な遊びを思いついたのかと放置していたが、椅子に座ったまま寝る練習をしていたのかもしれない。

 リカルドは慌ててミリアを止める。

「ミリア。僕は大丈夫だよ。そんなことをする必要はないから」

「では、わたくしと交代で、ここで眠ってはいかが? それだけでも、あなたもいくらか元気になれるのではないかしら?」




 またミリアが頑固モードに入っている。頭を抱えるリカルド。と、そこでディルムッドが口を挟む。

「ミリア様がここに泊まられるのなら、私も今夜はここで警護をせねばならないか」

「待って。病室とはいえ、流石に男性ばかりの個室にミリアを寝せるわけにはいかないわ。だったら、私もここに……」

 エレーネも続ける。ナイフが呆れながらも場をまとめた。

「……で、みーんなこの病室に泊まって、私1人だけあのただっ広いアパルトマンの4階に帰るの? ……って、ちょっと、なんだかおかしいでしょ! 皆、落ち着いて」

「……!」

 ハッと気付く一同。ナイフはため息を挟んで、ミリアを説得する。

「ミリア。このお部屋は病院で一番、上等なお部屋なの。個室で広いからっていうのもあるけど、専属の看護師さんがついてくれるから上等なのよ。看病に誰かがいる必要はないの。本当はリカルドさえ要らないんだから」

「……でも……」

 心配そうにゴナンを見るミリア。ゴナンは周りの騒動の中でも、高熱で苦しそうに眠ってしまっている。ナイフはその様子を見て苦笑いした。

(……なんというか、『ダダ漏れ』ね……)

 湖畔の街・ローゼンフォードの夜、宿のバルコニーで「まだよく分からないから、ゴナンへの想いは隠すべき」と話していたミリア。とはいえ、もともと、とても率直で素直な気性の持ち主である。想いを言葉にして自覚してしまったせいもあるのだろう。隠すどころか、むしろ以前よりもあからさまになってきているのだ。

 ちょっと皆で歩くときも、いつの間にか無意識でゴナンの近くに寄っており、そしてゴナンにはリカルドがいつも寄り添っているので、なんだかいつも2人でゴナンを取り合うような構図になってしまう(さらに言えば、ミリアの背後には常にディルムッドが付き従っているので、3人のすぐ後ろを大男がドンと歩いている構図になり、なんともいえない光景になる)。

 当人達は全くその自覚はないし、ミリアはこれでも上手に隠せていると思っているようだが……。

 と、見ると、エレーネも同じような苦笑いを浮かべていた。男共はニブチン共なのでなんとも感じていないようだが、流石にエレーネは気付いている様子だ。

 ナイフはミリアに向き合う。

「ね、ミリア。あなたがここにいると、逆に病院の邪魔になって、ゴナンの治療に差し障るかもしれないわ。心配なのはわかるけど、大丈夫よ」

「……ええ、そうね……。わたくしは、いるだけでは何もできないから……」

 ようやく納得して、今広げた寝袋を片付け始めるミリアに、ナイフはほっと息をつく。ミリアを応援したい気持ちはとてもあるのだが、どうにも彼女は空回りしがちだし、ゴナンの気持ちだってある。彼はミリアに対して全くそういう気配はなさそうなのだ。そして、男性陣2人に負けず劣らずのニブチンのような気もする。

「さ、ゴナンがゆっくり寝られるように、私達は引き上げましょ。顔をみられて安心したでしょ?」

「ええ、そうね」

 ミリアも頷き、ディルムッドはミリアの大荷物をひょいと担いだ。そして、ゴナンを起こさないようそおっと部屋を出る。が、部屋の外でリカルドがナイフを呼び止めた。

「ナイフちゃん…、ちょっと、相談が…」

「……?」

 深刻そうな、ナイフにとっては少し面倒くさそうな表情だ。ナイフは他の3人に先に帰るように告げると、病棟の談話室へと足を運んだ。




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