連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 15話「祭」(4)
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15話「祭」(4)
「…俺は今から、お前の仲間の、あのキレイなお姉さん、エレーネさんを、ダンスに誘う…!」
その宣言にゴナンはハッと驚き、リカルドは少しワクワクした表情になった。
「エレーネ、さん、を…? でも、話しかけるのも難しいって言ってたのに…」
「今日、俺は男を上げるぜ…。止めてくれるなよ、ゴナン」
「いや、止めやしないけど…」
そのとき、ちょうどミリアとエレーネ、ディルムッドがやって来た。櫓に人が集まっている様子に呼ばれてきたようだ。
「ゴナン、祭は楽しんでいるか?」
「うん、ディル。もう、俺、すごくお腹いっぱい。楽しい…」
「ふふ、それは何よりだ」
ディルムッドは、そのゴナンの充実した表情に、優しい笑顔を見せる。が、ゴナンの隣で殺気のような何かの強い気を放つエドワードに気付いた。条件反射でさっとミリアとエレーネの前に立ち、エドワードを見下ろし目線で威圧するディルムッド。
「…何か用かな? 少年」
「あ…」
思わぬ巨大な壁が立ちはだかり、エドワードは一瞬、躊躇する。しかし、ぐっと息を吸って思い切り胸を張り、大声で立ち向かった。
「剣士さん! 例えあなたが、どんな鈍も伝説の聖剣にしてしまう凄腕の剣士だとしても、今日の俺は止められねえっ! …止められ、ません」
「ん? 聖剣?」
首を傾げるディルムッド。その脇でナイフはピンと来て、ディルムッドの首根っこを掴み、その場から引き剥がす。
「…ナイフ…?」
「大丈夫よ。これから愉快なことが起こるわよ、きっと」
「……?」
ナイフのサポートを受け、エドワードはぐっと前に進み、ゴナンもこれまで見たことのないほどの凛々しい表情で、エレーネの前に立った。
「?」
「あ、あの…、エレーネさん。こんにゃ…」
噛んでしまうエドワード。
「…?」
「今夜…。どうか俺と、踊ってください…!」
そう叫んで、右手を出し頭を下げる。周りでは少年たちが「やりやがった…!」とざわついた。状況がよくわからず、リカルドに目線を向けるエレーネ。リカルドは小声で教える。
「今から夜にかけてね、男性が女性をエスコートして、この櫓の周りで踊る時間帯なんだ」
「…ああ…。舞踏会のようなものね」
「…まあ、無理に受けなくてもいいと思うよ。君もこういうのを相手しててもキリがないだろうか…」
「いいわよ」
「…!」
「ただし、1曲だけよ」
エレーネはそう、あっさりと答えて、かぶっていた帽子をリカルドに預けるとエドワードの手を取った。驚きのあまり、「えっ!」と顔を真っ赤にして固まるエドワード。周りの少年達が「おい! やったな、エド!」ともてはやしている。
「…エレーネ、いいの?」
「あら、リカルド? 私だってお祭を楽しみたいのよ。でも、こちらの気の効かない男性陣は、どうやら誰もエスコートしてくれなさそうだし」
「……」
顔を見合わせるリカルドとディルムッドにいたずらめいた笑みを残して、エレーネはエドワードに尋ねる。
「…この街ではどんなダンスを踊るのかしら? ステップを教えてくれる?」
「い、いや…。ステップなんて大したものはない…です…。音楽が始まったら、こう、両手をとってクルクル回る感じで…」
と、わあっという歓声と共に、ダンスのための音楽の演奏が始まった。楽しげなリズムの音楽に合わせて、何組ものカップルが踊り始める。
「…みんなの真似をすればいいかしら? さあ、行きましょう」
「…あ、は、はい…!」
カチコチと固まってしまったエドワードの手を引き、エレーネは踊りの輪の中へと入っていく。どちらがエスコートしているのか分からないような状態だ。そして、皆と同じように踊っているのに身のこなしが洗練されている美しいエレーネは、かなり周りの目を引いた。エドワードは何とかついていっているような体裁で、「おい、エド、しっかりしろ!」などと周りがはやし立てる。皆がエレーネに見惚れる雰囲気を感じてか、楽団が演奏を引き延ばし、1曲目がなかなか終わらない。
「すごいなあ。やっぱり、貴族の令嬢だから、ダンスの素養もあるんだね」
そう、楽しそうに見ているリカルド。するとその脇で、ディルムッドにニッコリ微笑みかける、1人の老婆。昨日、祭の設営を手伝う力強い様子に「死んだじいさまを思い出した」と惚れ込んだらしく、ディルムッドとのダンスを所望しにやってきたのだ(後に聞いた老婆の息子の話では、その亡夫はディルムッドとは似ても似つかぬ細身の男性だったらしいが)。
笑顔で引き受けるディルムッド。なんとも微笑ましい光景が繰り広げられている。

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