連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 1話「何か物足りない」(5)
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1話 「何か物足りない」(5)
ツマルタからウキの街までは、南に馬で3日の距離だ。とはいえ幌馬車のペースに合わせて進むため、4~5日かかることも想定している。土路が踏み固められた街道が整っているため、馬車移動もスムーズにいけるのがありがたい。
幌馬車の中で寝具に身を包んで、ゴナンは熟睡している。リカルドの財布とタイキ一家の技術をふんだんに使ったこの馬車、想像以上に揺れが少なく快適だ。脇の椅子に座っているミリアとエレーネもウトウトとしてしまうほど。いや、ミリアはエレーネに寄りかかって爆睡してしまっている。御者台から時折、その様子を覗くリカルドは、自慢の馬車の仕上がりにご満悦の笑みを浮かべている。
と、3時間ほど馬を進めた頃。
「リカルド! 馬車、止めて」
馬で馬車に併走していたナイフが何かに気づき、リカルドに声を掛けた。
「どうしたの? ナイフちゃん」
「……お決まりの人たちが出てきたわよ」
「……?」
前方から、6人程度の騎馬の集団が現れた。見るからに荒くれ者。その内のリーダー風の男が馬上で抜剣し、リカルドへと迫ってきた。
「…その幌馬車の中の荷物を置いていきな」
「…中には大した荷物は乗っていないよ。人を運んでいるんだ」
「ウソをつけ。このタイプの幌馬車は、高価な工芸品や貴重な機械を運ぶときに使うものだ」
「……ああ、そういうことか」
ツマルタの街では、タイキの商品のように価値の高い作品や機械が多く作られ、各地へと出荷されている。それを狙う窃盗団、といった所だろうか。この疾風のシーランス号(仮名)は、もとは貴重品を運ぶ幌馬車を改造しているので、馬車を見る目は確かなようだ。
「…でも、困ったなあ。あなた達のお眼鏡にかなうような、差し上げられらるものがあればいいんだけど、本当に人しか乗ってないんだよ」
薄く冷たい微笑みを浮かべながら、窃盗団にそう説明するリカルド。その舐めてかかった態度に窃盗リーダーは苛つく。
「奪えばわかるさ」
そういって窃盗リーダーがじり、と馬を寄せようとしたとき、馬車の後ろから付いてきていたディルムッドが馬を進めてきた。ナイフも馬で窃盗団ににじり寄る。明らかに強そうな二人のオーラに少しひるみつつも、一団は一斉に幌馬車に襲いかか……。
「ディル」
「任せろ」
ナイフの呼びかけに応じて、ディルムッドは馬に携えていた槍を構え、一団を次々になぎ払った。全員、馬から落とされる。そこには、下馬していたナイフが待ち構えていた。一人に飛びつき締め落とし、みぞおちへの蹴りで倒し、と一瞬で窃盗団が倒れていく。ディルムッドも馬を下り、そのまま槍の柄で残りの男達を打ち払う。
また、あっという間である。とても息の合った連係プレーだ。
「いやあ、成敗だね。すごいね」
馬車の御者台から一歩も動かなかったリカルドが、悠然とした笑顔で拍手する。その様子をいらだたしげに見ているナイフ。
「…まあ、どちらのお殿様かしら。せめて剣を抜く素振りくらい見せなさいよ」
「僕なんかが出張ったって、二人の邪魔になるに決まってるじゃないか。僕は馬車をちゃんと守ってるから」
「だからって、その嫌な笑顔で窃盗団を煽るんじゃないわよ…。余計な戦闘が増えるじゃない」

ディルムッドは気を失っている男達の服を脱がせて裂き、ひとまず後ろ手と足を拘束して転がす。さて、どうするか…、と考えていると、運良く一台の馬車が現れた。ツマルタへ向かっているようだ。ディルムッドはその馬車を止め、ツマルタの警察か軍へ、窃盗団をこの場に拘束している旨を伝えてもらえるよう依頼している。
「どうしたの? 何があったの?」
周りのざわめきにようやく目を覚ましたミリアが、覗き窓越しに御者台のリカルドへと尋ねる。
「ああ、ミリア。危ないから出てはダメだよ。ちょっと窃盗団が現れてね。でも、ディルとナイフちゃんがあっという間に倒しちゃったから」
「えっ……? ゴホッ、ゴホッ……」
ゴナンも目を覚ましたようだ。体を起こし、窓越しに外の様子を窺う。
「……倒しちゃった…?」
「うん、あっという間にね」
「……ゴホッ…。俺も見たかったな……、二人の戦うところ……、ゴホッ……」
急に体を起こしたからか、ゴナンの息がまたゼイゼイといいはじめ、苦しそうになる。「大丈夫?」と、エレーネがゴナンの背中をさするが、ゴナンはバッと寝台の方に身をはねのけた。
「……?」
「…あの…、大丈夫……。です…」
「……」
ゴナンはまだまだエレーネに対して緊張モードだ。もういい加減、馴染んでもいい頃なのに、とリカルドはくすりと笑った。
そうこうしているうちに、ツマルタ行きの馬車が連絡などを請け負ってくれることになり、あっさりと後始末も付いてしまった。なかなか凄い護衛が揃ったもんだと感心していたリカルドは、馬車内で暗い表情になっているミリアに気がつく。
「…ミリア?」
「……ごめんなさい。やっぱり、わたくしがいると、旅もスムーズには進まないわね」
「……」
窃盗団の存在も、自身の『不運の星』のせいだと思っているようだ。リカルドはまた、ふうと息をついてミリアに話しかける。
「…ミリア…。本当に不運だったら、きっと今頃、幌馬車を奪われて僕らは放り出されているか、もしくは命を奪われているよ。全員が何事もなく無事で、その上、面倒くさい後処理も任せられる人たちが現れたんだよ。これはむしろ幸運の域だよ」
「……」
ミリアは、そう優しく語りかけるリカルドに、不思議そうに尋ねる。
「…前も尋ねたけれど、あなたは巨大鳥や卵のことは信じているようなのに、わたくしの『不運の星』のことは絶対に否定するわね。なぜなの?」
「なぜ……?」
そう尋ねられて、リカルドは首をひねる。そう言われても、何か確とした理由があるわけではない。ただ、目の前の小さな少女を励ましたいだけではあるのだが…。
「……なぜと言われても難しいな。勘、というか……、何となく、だよ。でも、君のお兄さんと同じような理由だと思うよ」
「……」
リカルドの言を聞き、ミリアは少しハッとした表情になる。悲運の最期を遂げた王子の名を出すのはよくなかったかな、とリカルドは少し心配したが、ミリアは「……ありがとう」と小さく応えて、少し優しい表情になった。
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