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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  1話「何か物足りない」(6)


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第四章の登場人物



1話 「何か物足りない」(6)



 その日の夕方。

街道から少し外れた場所に見つけた池の近くに陣取り、野営の準備を進めている。ゴナンも幌馬車の中で一人寝っぱなしだと寂しいからと、焚き火のそばに寝袋を出して横になっていた。

「……」

 さあ、夕食の準備が整った。だが、ディルムッド以外の皆は、少し微妙な表情をしている。保存食である乾燥野菜を水で戻して煮た料理に、ツマルタから持ってきたパン。そして、ディルムッドがゴナンの弓矢で射った鳥の焼肉があるが、なにぶん1羽なので量は少ない。それでも腹を満たすには十分だ。飲み物は池の水をろ過して沸かしたもの。きちんと水分はとれる。

「……なんだろう…、なんというか………」

リカルドが、もぐもぐと食事をしながら、ぼそりと呟く。

「……僕らは野営食に関して、随分とゴナンに甘やかされていたようだ」

「確かに…。いえ、これが当たり前なんだけど……」

「…そうね…。なんだか、ねえ…。何か物足りないわね…」

ため息をつくエレーネとナイフに、ディルムッドが首を傾げる。

「どうしたんだ? 野営の食事なのだ、こんなものだろう。むしろ豪華な方だと思うが」

「…いや、そうなんだけどね…」

苦笑いするリカルド。ミリアが背筋をピッと伸ばし、瞳を輝かせてディルムッドに説明する。

「何もない場所でも、ゴナンは魔法のようにお肉や食べられる草をたくさん見つけてきて、いつも、なんだかとっても豪華な夕食になるのよ。すごいのよ」

「ああ…、なるほど……」

ディルムッドは、あの荒野の中の鉱山ですら、ゴナンが薬草やチビーの肉を調達してきたことを思い出した。寝袋の中にいるゴナンが、申し訳なさそうにしている。

「……ごめん…。俺が狩りに出ればよかったな…。せめて、野草探しくらいは……、ゴホッ……」

「ゴナン。熱も咳も全然治まっていないのに、無理をしてはだめだよ。ちょっと動くだけでも息がゼイゼイなっているじゃないか。これでも十分な食事なんだよ」

リカルドが、隣で横になるゴナンに優しく声をかける。ディルムッドが少し悔しそうに呟いた。

「いや、せめて私が鳥をもう数羽、仕留められればよかった。せっかく、質の良い弓矢であるのに」

「あ、やっぱりわかる? そうなんだよ、とても良い弓矢なんだよ。武器職人の名工が作っていてね。流石、ショーン騎士だなあ」

リカルドがなぜか嬉しそうだ。ナイフはそんなリカルドの反応をスルーし、ディルムッドをからかうように尋ねる。

「その流石のショーン騎士様は、弓は不得手なのかしら?」

「いや、弓も人並みには扱えるが、鳥や動物を射るのはあまり得意ではないのだ」

「……ゴホッ。…じゃあ、何を射るのが得意なの?」

ゴナンが興味深げにそう尋ねてきたが、ディルムッドはその答えに一瞬、窮した。リカルドとナイフも、少し気まずそうな表情になる。

「…?」

「……敵、……いや、『人』だよ、ゴナン」

「……あ…」

王子の護衛となる前は、戦乱があった時期からずっと国境の最前線で戦ってきたディルムッドだ。歴戦の軍人でもある。

「ゴホッ……、ゴホッ。……ごめん…」

「何を謝るんだ、ゴナン。私はそういう人間だ。ギャングの親玉ではないが、人を多く殺してきたという点では、まあ、似たようなものなのだよ」

「……そんなこと、ないよ…。ゴホッ…」

 ゴナンと出会った鉱山では、その得体の知れなさに「ギャングの親玉では」と噂されていたディルムッド。ゴナンを安心させるように錆色の瞳を細めてふふっ、と笑う。体格の威圧感のわりに、笑顔はいつも優しい。

「人間はどう動くかの予測を付けやすいが、獣に関してはそのあたりが私はいまいち勘が鈍いんだ。きっとゴナンの方が、弓矢での狩りは上手くいくだろうな」

「……」

「体が治ったら、力をつけて感覚を磨いて、弓を引けるようにならなければな。あの弓はそこそこ剛弓だから」

「……うん…」




少し複雑そうな表情を浮かべながらゴナンは頷き、そしてリカルドの方を見た。リカルドも安心させるように微笑んでいる。

「ゴナン。言っただろう? 道具はどう使うか、だよ」

「うん……」

またゴナンの咳がひどくなってきている。食欲もないままで、乾燥野菜のスープを少しだけ口にしてから薬を飲むゴナン。

「ほら、日も暮れてきたから、冷えが毒になるよ。もう幌馬車の寝台で横になろう。僕も後から行くから」

「…うん」

「……ていうか、リカルド。あなた、自分のテントを立ててないと思っていたけど、幌馬車で一緒に寝る気?」

ナイフがいつもの呆れ顔でリカルドに尋ねる。

「えっ、もちろんそうだよ。ちゃんと添い寝できるように、椅子を組立可動式にしたんだから。流石に僕は寝袋だけどね」

「…もちろん、……添い寝…」

ナイフは心配そうにゴナンを見る。ツマルタでの夜中の家出事件(家出というわけではなかったが)から、リカルドはゴナンの腕を握って眠るようになった。夜にまた出ていきそうで心配らしいが…。

(ゴナンへの偏愛が、ますます悪化している…)

「ゴナン。一人で眠りたいのではない? 無理はしないのよ」

「…ゴホッ…。そんなことないよ。俺はどっちでも大丈夫……。ゴホッ…」

「そう? それならいいけど…」

相変わらずあっさりしているゴナン。他の面々も、リカルドのそんな様子を目の当たりにしたところで、誰も何も特に気にしていない。リカルドのこんな様子には、もうすっかり慣れてしまっているのだ。

あれこれとゴナンの世話を焼くリカルドの姿を見て、ナイフはぼそりと呟く。

「添い寝してもらっているのは、どちらのほうかしら」




↓次の話↓




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