連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 12話「心を放つ」(5)
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12話 「心を放つ」(5)
…が、ふと真顔になるエレーネ。
「…エレーネ?」
「リカルド、鳥…!」
エレーネの目線の先には、近くの水場から飛び上がったらしい巨大鳥の姿があった。その視線の方を振り返るリカルド。
「しまった…。すぐそばにいたのか…。この付近は湧水の水たまりが多いから」
リカルドは後を追おうとするが、馬は木にしっかりと繋いでいる。ほどくまでに暇が必要だ。
と、飛び行く巨大鳥を見上げたディルムッドが、ゴナンに声を掛けた。
「ゴナン、弓矢を借りるぞ」
「…えっ?」
ディルムッドはゴナンの手にあった弓を取り、そして矢をつがえた。空を飛び行く巨大鳥をぐっと狙う。
(……獣の動きを読むのは苦手だが、人が操る鳥ならば…)
ぐぐ…、と弓弦を引き、ため、そしてビュンと矢を放った。うなりをあげて矢が、弧を描きながら巨大鳥へと向かっていく。巨大鳥の所まで飛び、しゅっ、と音がしたようだった。
「…すごい…」
ナイフが感嘆の声を上げる。この距離を、上に向けて、そして狙いを定めて射つことの難しさを、ナイフはよく分かっている。
「当たったのではない? どうかしら」
「でも、鳥は飛び続けているようだよ…」
リカルドが巨大鳥の姿をじっと目で追っている。鳥は変わらず羽ばたきを続け、そして視界の奥へと消えていった。
「行ってしまったかな…。ゴナン、君の目には見えた? 当たったかな?」
リカルドはゴナンの方へと駆け寄る。ゴナンは、巨大鳥が飛んで行った方向を、少し呆然とした表情で見ていた。
「…ゴナン?」
声を掛けられゴナンは、リカルドを見て、そして何か言いたげにディルムッドを見る。
「…?」
しかし、言葉を発するのを少し逡巡するかのように、口ごもり、そしてディルムッドを見上げながら苦しそうな表情をする。ディルムッドが尋ねた。
「…ゴナン? どうしたのだ?」
「…と、鳥に当たった、と思う…」
ゴナンは目が良い。ディルムッドが放った矢が、巨大鳥の左羽の辺りに当たるのがはっきり見えた。
「あの距離で当たるなんて、すごいわね」
「ああ、ダメ元ではあったが…」
ナイフの称賛にディルムッドが素直に応じる。しかし、ゴナンはそのまま、煮え切らない表情でディルムッドを見ている。そして、彼の腕を両手で握った。弓を持っている方の腕だ。
「ゴナン?」
「……」
ディルムッドは、ゴナンの表情が、エドワードとケンカしたときの様子と似ていることに気付いた。ゴナンはじっと弓を見て、そしてまた物言いたげにディルムッドを見る。少し哀しそうな表情をしている。

「…う、射つなんて…」
「…!」
その一言を聞いて、ゴナンの心情を理解したディルムッド。しかし、ふう、と息をつき、錆色の瞳でゴナンの瞳をじっと見る。
「…ゴナン…。ゆっくりでいいから、今、お前が何に怒っているのかを、言葉にして教えてくれ」
(怒ってる?)
思いもしなかった言葉に、リカルドはじっとゴナンの様子を見る。ゴナンは少し唇を震わせて、そして少し間を置いて、ディルムッドへと言葉を発した。
「…巨大鳥には、人も乗ってるのに、矢を射つなんて…」
「……ああ、そうだな。すまない。せめて、お前の弓矢を使うべきではなかった。『敵』と思ってしまい、つい射ってしまった。軍人の野蛮な習性だ」
「…いや、でも、俺も、巨大鳥や女の子を、よくは思ってないけど、でも…」
少しずつ言葉を重ねるゴナンに、ディルムッドは弓を返し、頭を下げた。
「でも、それとこれとは別だな。申し訳なかった」
「いや…」
「ゴナン、ごめんね。私も、矢が当たったと無邪気に喜んでしまっていたわ」
ナイフも続ける。ゴナンはどうして良いのか分からない気持ちだ。決してディルムッドやナイフに頭を下げさせたかったわけではないのだ。そんな様子のゴナンに、ディルムッドはゴナンの髪をかき混ぜるようになでる。
「…ゴナン。お前が申し訳なく思う必要はない。こういうときは我慢せず口にするべきだ。私達はつい、お前の気持ちを表情などから先読みしようとしてしまうが、それでは伝わらないことだってあるのだから」
「…うん…」
「私が、人に向けて矢を射ったことが、とても嫌だったんだな?」
「うん…」
ゴナンは唇を噛みしめて頷いた。それで、少しゴナンの気持ちは落ち着いてきたようだ。そしてその様子を見ながら、リカルドは少し物考えな表情になった。
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