連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 12話「心を放つ」(4)
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12話 「心を放つ」(4)
翌日も巨大鳥の探索だ。
昨日、ゴナン・リカルドの持ち場に現れたことを鑑みて、そのエリア周辺を重点的に回ることにした。が、なかなか誰も遭遇できない。
「私たちが狼煙を上げているのを感づかれて、避けられているということはないかしら」
お昼休憩。リカルドが楽しげに作ったピクニックゾーンに一旦、集まり、屋敷から持ってきたサンドイッチなどを食べている。エレーネがリカルドにそう、尋ねた。
「そうだね…。ただ、この前の様子を見ていると、あの少女はそこまで自在に巨大鳥を操っている感じには見えなかった。基本的には、鳥が飲みたがっている水場に一緒に行き、鳥の気が済むまで水を飲むのを待ち、どうしようもない危険が迫ったときだけコントロールする、そんな動きに見えたな」
だからこそ、ゴナンが眠っているのに気付いても、すぐにその場を離れることはなかったのだろう。
「…それにしても、あのときはゴナンにとても興味を持っている表情だったな。ふふ…」
そう思い出し笑いをするリカルドの言葉にロマンチックな気配を感じ、ミリアがきらりと大きな瞳を輝かせる。
「まあ、一目惚れかしら!」
「ミリア…。多少、思考が『あなユラ』に毒されすぎではない?」
ナイフが苦笑いする。当のゴナンはしかし、少し憮然とした表情だ。故郷のことを思うと、どうしても少女のことを良い風には捉えられない。リカルドは、そんなゴナンの心情を慮って、複雑な表情を浮かべる。
「…ゴナン…。君のその怒りの原因はわかるけど、そうなると君はミリアのことも恨まないといけなくなるよ」
「…!」
言われてゴナンはハッと気付いた。確かに、2度目に鳥を見た時、その背に乗っていたのはあの少女ではなくミリアだったのだ。その後、村が完全に乾いてしまった。
「……俺、ミリアを恨む…?」
「いやいや、恨めって言っているんじゃなくてね。印象だけで思考を進めてしまうのはよくないって、そういうことだよ。ゲオルクの時と同じだよ」
リカルドが慌ててフォローする。当のミリアは首を傾げている。
「わたくし、ゴナンに恨まれているの? …気付かなかったわ、ごめんなさい…」
「…えっ。違うよ。俺、最初に見た時から悪い印象は持ってないよ。なんかミィに似てるし。村の人は魔女だとか呼んでいたけど…」
「魔女…? わたくしが…」
ミリアが表情を暗くする。リカルドはさらに慌てた。
「ゴナン! その話をし始めると、何かがややこしくなりそうだ。とにかく、ミリアへの印象は最初から、今も昔も、良いままだってことだよ、ね」
「うん」
ゴナンは頷き、ミリアは少し納得のいかない表情ながら「そう?」と応えた。
と、ディルムッドがゴナンの手元にある弓に気付いた。
「ゴナン。弓の練習をしているのか? 食後の腹ごなしがてら、少し教えようか。街中で実際に射つのは、差し障りがあるからな」
「…うん…!」
ゴナンの表情がワクワク顔にガラリと変わる。ディルムッドはニコリと笑って、そしてリカルドに目配せをした。ごまかしてくれたようだ。
(まあでも、ミリアのことはともかく、あの巨大鳥と少女があの干ばつの原因である可能性は、ないわけではないんだ…)
でも、不幸を振りまく目的で飛び回っているようには見えない。もし巨大鳥が原因だとしても、恨むべきは何なのか、リカルドは答えを出せずにいる。
* * *
少し離れた場所で、弓の練習を始めたゴナンとディルムッド。
「そう、腕の力で引くのではない。ここでも『丹田』だ。体の中心を意識して、真っすぐに安定させる気持ちで。そして、体で引くイメージだ。グッと体を開いて、ためて、射つときは余計な力は加えず、パ、と離すだけだ。力むと矢筋が曲がるぞ」
「……」
ゴナンがディルムッドの指導を受け、何度か弓を引くポーズを練習した後に、実際に矢をつがえる。放つと、的にした木にずしゃっと刺さる矢。
「…! 真っすぐ飛んだ」
「おお、上出来だな。この繰り返しだ。体に覚え込ませていくんだ。一射一射、しっかり考えながら射つんだぞ。狙いの定め方もな」
「うん…!」
ゴナンは淡い琥珀色の瞳を輝かせながら、また矢をつがえ、射つ。上手く飛ぶときもあれば、思い切り外れてしまうときもある。それでも、色白の肌を紅潮させ、ゴナンは集中して何度も矢を放っていた。
ミリアはその姿を、少しうらやましそうに見ている。

「わたくしも弓矢を覚えたいわ。遠くから狙うのだったら、危ない現場に遭遇しても、遠くから皆を手助けできるわ」
「えっ」
その言に慌てる一同。ナイフが慌ててごまかす。
「…ミリア。簡単そうに見えるけど、弓は剣術に負けず劣らず難しくて、そして危険よ。味方を射ってしまったらどうするの?」
「そうだよ。ゴナンは戦いに使うのではなく、狩りのために弓を覚えようとしているんだからね。ミリアはそんなことは考えなくてもいいんだよ」
「…そう…? そうね…」
2人の説得に、ミリアは少し納得したような返事をする。この引きの悪い少女に弓矢なんぞを持たせてしまったら、不測の流血事件が起こりかねないのは目に見えている。エレーネは、そんな3人の様子を見てクスクスと笑っていた。
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