連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 12話「心を放つ」(6)
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12話 「心を放つ」(6)
その日はそれ以降、巨大鳥の姿を見ることはなかった。矢のダメージがあったのかは定かではないが、あの体の大きさにこの矢では、例え当たっていたとしても、足止めにはなっていないのかもしれない。
「…そういえば、あの遺跡の入口の石が外されていた。中の様子は変化なかったようだが…」
夕方、集合場所に集まって帰り支度をしているとき、ディルムッドが持ち場の様子を報告する。『遺跡』の話題が聞こえたからか、リカルドはまたすっと馬の世話へと行ってしまった。ナイフはその姿を横目に見ながら、ディルムッドに答えた。
「…多分、ルチカじゃないかしら。遺跡についての資料をジョージ先生のデスクから盗み出したみたいだから」
「そうか…。まあ、あそこを見られたからと言って何か我らの害になることはないだろうが…」
「でも、あの子は私たちが思いも付かない発想をするから、油断ならない気もするわね」
エレーネが付け加える。とはいえ、ルチカが何をどう読み解くかは、こちらからは予想のしようもない。
「それにしても、あの大石も動かせるなんて、本当にスペックが高すぎる子ね、ルチカは」
「…俺、あいつに、体の使い方とか習いたいな。おんなじくらいの体格だから」
ゴナンがそう呟く。もう、先ほどのことは引きずっていないようだ。
「しかし、背は同じくらいでも骨格や筋肉はゴナンの方が大きい。良くも悪くも、同じような戦い方はできないと思うぞ」
「そうなんだ?」
「ああ、あいつは基本的に、柔軟性と素早さと正確さで戦っている。あとは急所を躊躇なく狙える度胸というか…」
「度胸…」
「普通の人間にとって、人に攻撃する、というのは意外に難しいことなのだ。どうしても相手の痛みや苦しみを想像してしまうからな。だから兵士は、『相手を痛めつけることができる心』を育てる訓練をする。しかしルチカは、そういう躊躇が一切ない人種のように思える。たまにそういう人間もいるものだ。戦場では重宝されるが…」
「へえ…」
「それが、ルチカの強さの秘訣だな。ただ、ゴナンは真似する必要がない、というか真似できないし、兵士になるわけでもないから、そこにこだわらなくてもよいはずだ」
「うん…」
先ほどはディルムッドに対して怒りの感情を持っていた様子だったが、もういつものように目を輝かせて話を聞いている。その様子を少し遠くから見守っているリカルドに、ナイフが話しかけてきた。
「…ゴナンがエドくんとケンカした、って聞いたときから、ちょっと思ってたんだけど」
「…ん? 何を?」
「…ゴナンも、だいぶ『我』が出てきたように思わない。何せ今日なんか、あのディルに対して怒るくらいだったんだから」
「……!」
そのナイフの言に、リカルドもハッとする。少しずつ感じているゴナンの変化。いや、成長というべきかもしれない。
「…それは、ゴナンにとって、とてもよい傾向だね」
「ええ、そうね」
リカルドはそう口にして、ディルムッドと楽しそうに話すゴナンの表情を、またじっと見ていた。

* * *
夜。また、ゴナンの姿が部屋にも書斎にもない。
リカルドはすぐに庭の方を見た。大木に寄りかかって座る少年の影が見える。雲のない夜天。今日は月も明るいが、ゴナンは彼方星を見上げている。
「ゴナン、冷えるよ」
そう言って、ブランケットを手にゴナンに声をかけるリカルド。
「隣、いい?」
「うん」
なぜかわざわざ了承を取ってくるリカルドに、少し不思議そうにするゴナン。リカルドは横に腰掛け、そして今日は最初から、2人で一緒にブランケットを被った。
そのまま、何を話すでもなく、彼方星を見上げる2人。赤い光がことさらに強く見え、2人の瞳を刺してくるかのようだ。しばし時間が流れる。と、スッと流れ星が流れた。
「あ、流れ星。なんだったっけ、ゴナンの村での伝承は…」
「流れ星が流れると、幸せが届く」
「ふふ、今、届いたかな…。僕は願い事をしよう。と、もう消えてしまったか…」
そう言って少し笑ったリカルド。そして、ゴナンを方をじっと見た。
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