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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  3話「子ども達」(4)


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第四章の登場人物



3話 「子ども達」(4)



 生け垣に囲まれたクラウスマン邸。その敷地はとても広く、庭も歩き回れるほど広大だった。奥にはマリアーナのものらしい薬草園も見える。美しく手入れされた木々花々を愛でながら歩いていると、ドン、ボコッ、という音が聞こえてきた。何事かとそちらの方に行って見るゴナンとリカルド。

 そこでは、ナイフとディルムッドが戦っている…。激しい突きと蹴りの応酬。二人とも、本気の表情だ。

「…えっ? どうしたの? ケンカは止めてよ!」

「あ、ゴナン! これは…」

リカルドの制止も聞かず、ゴナンが慌てて、ものすごい勢いで二人の間に割って入った。

「きゃっ!」

突然、現れたゴナンに、ナイフは蹴りを完全には止められず、ゴナンの胸のあたりに当たってしまう。ドサッと地面に倒されるゴナン。

「ゴナン! 大丈夫? 危ないじゃない!」

「うん…」

なんとかギリギリで力を制した蹴りだったため、そこまでダメージはなさそうだ。ゴナンは体を起こして、心配そうに二人を問い詰めた。

「何があったの…? 二人で争うなんて…。ケンカ?」

「え?」




ナイフとディルムッドはキョトンとして、顔を見合わせ、フッと笑う。

「ゴナン、別に争っていたわけではないぞ。ナイフに手合わせをお願いしていたのだ」

「そうよ、食後の運動を兼ねて、鍛錬よ。このレベルの相手と組手ができる機会は貴重だから、私もつい熱が入っちゃって」

「鍛錬…」

ゴナンはそう聞き、心底ホッとした表情を見せる。よく見れば、ナイフはいつもの装いではなく、動きやすいパンツスタイルに着替えている。

「そっか、よかった…。俺、てっきり…。だって、二人とも凄い勢いだったから…」

二人とも相当な熟練の戦士。鍛錬とはいえ、ゴナンがこれまでに目にしてきたどの戦闘よりも激しい技の応酬だったため、「本気のケンカ」と捉えてしまったのだ。ディルムッドは腕を組んで感心したようにゴナンに声をかけた。

「…そうだとして、よく躊躇いもせずに我々の間に飛び込んで来れたものだな。ゴナンが目が良いというのもあるのだろうが、なかなか常人には難しいことだぞ」

「確かに…。もし本当に二人がケンカをしていたとしても、僕は怖くて到底、割って入れる気がしないよ。離れた場所からやめろと叫ぶだけだね」

「それか、遠くからただ面白がって眺めるだけでしょう?」

ナイフの言葉にリカルドは微笑みつつ、ふと思い出した。

(……そういえば、ストネでミリアを見つけたときも、躊躇なく飛び込んでいたな…。多分、ツマルタで帝国人からミリアを守るときも、勇敢に立ち向かったからこそあれだけ傷を受けてしまったのだろうし…)

先ほど、一瞬の躊躇いもなく突っ込んでいったゴナンの姿を反芻し、リカルドはゴナンの頭を無言で撫でる。

「?」

(多分、いざという時の度胸がとてもあるんだな…。でも、その分、危険に身を置く機会が増えそうで、僕は心配だよ…)

++++++++++++++++++++++

 その時、屋敷正面の庭の方から、何やら賑やかしい声が聞こえてきた。大勢の子どもの声のようだ。

「…?」

「ああ、始まるね。ゴナン、見に行く?」

何の声か分からないゴナンを、リカルドがそう誘う。ディルムッドとナイフも鍛錬を切り上げ、2人に着いてきた。そこには、幼児からゴナンと同じくらいの年齢の子まで、20名近くの子ども達が集まっていた。ジョージがガタゴトと屋敷から黒板を運んできているのを、ディルムッドが即座に手伝う。

「おお、力持ちがいると助かるな。ありがとう、ディルさん」

「いえ、お安いご用です。これは何事ですか?」

マリアーナもたくさんの本や紙を持って、屋敷から出てきた。

「この街には学校がないからな。週に2、3日、天気のいい日に青空教室で、ちょっと私塾みたいなことをやっているんだよ。学校代わりだ。まあ、隠居じじいの道楽だよ」

「学校…」

ゴナンは目を輝かせる。子ども達は芝生の思い思いの場所に腰掛けて、持参した自分のノートを出している。年長の子達は、マリアーナから本を受け取っているようだ。

「…私たちは子どもが大好きなんだけど、残念ながら子宝には恵まれなかったの。その代わりと言ってはなんだけど、ね」

 そう言って微笑むマリアーナを、ジョージは優しい笑みで包み込む。

「まあ、代わりだなんて…。教育の機会を創り上げているなんて、そうそうできることではないわ。この子達も、望んでここに来ているんでしょう?」

 感激するナイフに、ジョージは照れくさそうに笑う。

「ほとんどは親に言われてイヤイヤ来てると思うがな。親世代には文字が読めない人も多いんだよ。この子達のほとんどは、一生この街を出ることなく農業に従事することになるだろうが、作物を売ったり商売するには、やっぱり読み書き計算くらいはできたほうが良いからな。もちろん、強制しているわけではないから、やる気のある子だけ来る感じだが」

「へえ…」

ゴナンが、少しソワソワした目で、集まる子ども達を見ている。




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