連載小説「オボステルラ」 【第三章】17話「盃」(1)
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17話 「盃」(1)
さらに数日が経ち、ゴナンの熱はすっかり下がった。咳も治まり、顔の腫れも引き、腕の傷の糸もとれて、ケガもだいぶ良くなってきている。
「もう明日から剣の鍛錬していいかな? ディルが、元気になったら剣術をいろいろ教えてくれるっていってたから」
拠点のリビング。ゴナンは張り切った顔でリカルドに尋ねた。
「うーん。どうだろうな…。お医者さんに聞いてみた方がよくないかな?」
「…ゴナン。そんなこといって、もうコッソリ体作りの鍛錬を始めているの、気付いてるからね」
リカルドの横では、ナイフが朝ご飯の準備をしている。様子見ついでに、ゴナンのために(ついでにリカルドの分も)、朝食を買ってきてくれたのだ。
「……だって…。せっかくナイフちゃんに鍛錬の方法を習って、鉱山ではディルに教えてもらった方法で頑張っていたのに、結局その後ずっと寝ちゃってたから…。もう戻っちゃったよ」
「だから、慌てちゃダメだって。あなたは成長期なんだから、しっかり鍛錬を始めればすぐに体に表れるから。今無理すると痛みやケガがクセになって、いつまで経っても治らなくなるわよ」
ナイフの言葉にシュンとするゴナン。まだ体調は万全ではないはずなのに、相変わらず自分を追い込もうとしてしまっている。
「リカルドもちゃんとゴナンを見ててよ」
「わかったよ。……ところで、ディルはちゃんとベッドで寝るようになった?」
ナイフに咎められるのを厭って、リカルドは無理矢理、話題を変えた。そのことに気付いてナイフはジロリと彼を睨むが、はあ、とまたため息をつく。
「なんとかね。本当に、常識人かと思っていたけど、やっぱりお貴族様はよくわからないわ…」
「……」
ディルムッドが警察署の牢を引き上げて宿に合流したのはいいものの、まず、自身は部屋に泊まらずにミリアとエレーネの部屋の前で直立不動のまま夜を超そうとした。
流石に『護衛が過ぎる』からとそれを止めようとすると、「では、ドアの前で眠らせていただく」と、その場に座り込む。
「あなたが市井の宿でその振る舞いをすると、逆にミリアが王女だとバレる確率が高くなってしまう」とナイフが説得し、ようやくナイフが泊まっている部屋に入った。ミリア達の部屋の隣室だ。すると今度は、ミリア達の部屋側の壁に体を沿わせ、耳を澄ませている。
「…ミリアは、常に周りに人が居る環境は当たり前だったでしょうからまだ良いけど、さすがにエレーネがかわいそうだから、なんとかそれも止めるように説得したのよ。渋々、受け入れてくれたけど、折に触れ壁越しに気配を探っているわね…」
「……騎士ってすごいなあ…。気を休める暇はあるんだろうか?」
「騎士、っていうより、ディルが突き抜けているだけのような気もするけどね」
腕を組んでそう話すナイフに、ゴナンがキラキラとした目を向けてくる。
「…ディルって、本当にすごい人だね。早く剣術教えて欲しいな」
「……」
ナイフはその横で、少し複雑そうな顔をしているリカルドに気づき、ニヤリと笑った。
「…あら、大きなお坊ちゃま。ジェラシーかしら?」
「え?」
リカルドはそんな表情を自身がしていることに気付いていなかったようだ。ナイフに指摘され、困ったような笑顔で頭をかいた。
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さて、今日はまた、一行は工房街へと足を運んでいる。街からの出発に備えて、ディルムッドの装いを選ぶためだ。手持ちの金が全くないディルムッドだったが、ミリアがアステール金貨1枚を渡した。家に自らの蓄えは留めているようで、「それまで、ありがたくお借りします」と遠慮なく受け取っている。
「といっても、この街は服屋も実用性重視だから、あまりオシャレな装いは選べないんだよなあ…」
リカルドが少し不満げに呟くが、ディルムッドは首を横に振った。
「見栄えは気にしなくて結構だ。むしろ機能性が高い服のほうが望ましい。それよりも私は防具を身につけたい。いつ何時もミリア様の盾となりお守りできるよう、できれば金属製の装備で、盾も持ちたく…」
「……ちょっと…。だから、『護衛が過ぎる』って言ったの、忘れたの?」
ナイフが呆れたように、口を出した。
「私達は普通の旅人なのよ。あまりにも仰々しい装備で護衛なんかしたら、悪目立ちして逆に良からぬ輩に狙われてしまうわよ」
「…ねえ、でもさ、ナイフちゃん…」
2人のやり取りを聞いていたリカルドは立ち止まり、ミリアの傍にディルムッドを立たせて、少し遠くから眺めてみる。
「防具なんかつけていなくても、この二人が並び立つと…」
「……ちょっと、華がありすぎるわね……」
二人とも町人の素朴な装いをしているはずなのに、王女と王国騎士の品格がどうしてもにじみ出てしまう。うーん、と腕を組む二人。
「そうだ、エレーネが横に立っていれば、家族みたいに見えないかしら? エレーネ、ディルの横に行って」
「え? ええ…」
ナイフは思い立ち、エレーネをディルムッドの横に立たせてみるが…。
「……ダメだ、より一層、華が出てしまった…。これは人の目を引くなあ…」

「貴族の令嬢姉妹と護衛騎士感が溢れ出ているわね…。この横に私まで立つと、もう訳が分からない感じでとにかく目立ってしまうわね…」
「え、それ自分で言っちゃう? 思っていても口にしなかったのに…」
「あら、私はこの美しい体で目立ちたくてこの装いをしてるのだけど?」
そう言って、自慢気に胸板を張ってポーズをとるナイフ。
つまり、すでにこの一行は目立っている。リカルドとナイフがあれこれ策を巡らすが、なかなか、どうしようもなさそうだ。ナイフはもう考えるのが面倒くさくなり、ディルムッドに言った。
「…とにかく、防具は最低限のもので大丈夫でしょ。服の中に着込める程度のものでよいのではない? あなたは防具に頼らなくたって十分に強いのだから」
「……」
ディルムッドが渋々、といった表情になる。
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