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連載小説「オボステルラ」 【第三章】13話「1年前、そして」(5)


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第三章の登場人物



13話 「1年前、そして」(5)


 悪漢のうち4名はその場で斬り、2名は捕縛した。しかし…。

「王太子殿下を撃った男を取り逃してしまいました。騎士団の総力を尽くし、捜索しています」

そう報告してきた護衛は、フィンレイ王と騎士団長に、一つの武器を差し出す。軍の大将ともなる騎士団長はショーン侯爵、つまり、ディルムッド達兄弟の父である。

「これが、殿下の命を奪った武器です。犯人が逃げる際に落としていきました。討たれた者の体内や周辺に小さな金属の玉が残っていました。詳しい仕組みはこれから調べますが、火薬の匂いがしていたとの話もあるため、この中で火薬を爆発させて金属の玉を発射させ、人の体を撃ち抜いたようです…」

「…なんと…。このような小さな武器なのか…。この中で火薬を爆発させるだと?」

ショーン侯爵は銃を持ち上げ、まじまじとその仕組みを探ろうと見る。片手で持てるほどの大きさの、折れ曲がった円柱状の武器。仕掛けがある機械のようにも見える。ミリアはその姿をじっと凝視し、しかと目に焼き付けた。

(何て忌々しい姿…。あれが、お兄様の、キールの命を奪った…)

 王都の往来での襲撃だったが、人の目につかない場所だったため市中に知られなかったこともあり、王太子の死に関する情報は、王の命で即座に箝口令が敷かれた。それに付随するキールや兵達の死も同じだ。アーロンの亡骸は城内の奥地に隠されそこを仮の墓地とし、キールや兵達も事情を知るごく身内のみで弔った。

 侯爵家の三男、そして王太子を守るために体を張って殉職した騎士としては、あまりにもささやかな弔い。その名誉は語られず、階級の特進すらない。ディルムッドは弔いの場で、ただただ、力なく立ち尽くす。しかし、その目には極炎を宿している。

「おい、ディルムッド」

声をかけて来たのは、世に名を轟かせる『ショーン兄弟』の兄である、長兄のレイナルトだ。普段は国王の護衛についている。

「気持ちはわかるが、心を静めろ。お前は情に厚すぎる。王国騎士という己の立場を忘れるなよ」

「……はい、兄上…」

「ときにはそれが、命取りとなるぞ…。キールのように」

「いえ、兄上。キールは…、キールは誠に心の強い男でした。なのに、それなのに…」





 その2日後であった。

「ディルムッドが、辞表を提出して騎士団を去っただと…?」

部下の報告に、長兄レイナルトは椅子を蹴り激高する。

「あの馬鹿が! 何をやっているんだ……!」

「…昨晩、捕縛した悪漢等を独断で尋問、いえ、…拷問をしていたようです…。その後、姿を消され、この辞表が…」

「……!」

バン、と両手で机を叩くレイナルト。すぐに部下に命じる。

「…ディルムッドを探し出し、すぐに止めろ…。あいつは恐らく、自分の手で報復しようとしている。だから騎士団を抜けたのだ。ディルムッドよりも先に、犯人を捕らえろ」

「……はっ!」

部下はすぐに部屋を出て行く。レイナルトは大きなため息をつき、頭を抱える。

「……ディルムッド…。早まるなよ…」

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 そのとき、ディルムッドの姿はすでに城下にあった。

抜き身の剣を手に歩くその顔は、まさに仁王の面。拷問によって聞き出した情報に沿って、王都の郊外にあるくたびれた小屋を見つける。扉に手をかけるが、鍵が閉まっている。ディルムッドは構わず、扉を蹴破った。

「…ひぃっ……!」

中からか細い悲鳴が聞こえた。姿は見えない。ぎろりと気配を探ると、デスクの下の隙間で震える布の塊が見える。

「おい」

ディルムッドはそう声をかけ、布を引っ張り出す。中から一人の男性が転がり出てきた。ディルムッドの鬼の形相に畏れおののき、男は彼が蹴破った扉から外に逃げ出す。ディルムッドは、わざと彼を逃がした。追って追って、命を奪われる恐怖を十分に感じさせるためだ。

(あのような…、立ち向かうこともなく、情けなく逃げ惑う男に、殿下は、キールは…)

 今回、王太子を襲った一団は、警戒していたダークウッド侯の手の者でもなければ、国家転覆を狙うような派閥の者でもなかった。現在の自分たちの暮らしに漠然とした不満を抱いてそのはけ口を探しているだけの、漠然とした活動家。確固とした主義主張も信念もなく、世の中を否定し貴族階級への不満を大きな声で発信し続けることで承認欲求を得る、そんな者達だったのだ。

もちろんブラックリストに入ってはいたが、ランクは下の下で、警戒もしていなかった。そんな彼らが惰性で会合を開いていたところに、偶然、身なりの良さそうな貴族の一団が現れた。子どもじみた冒険心から、活動家としての名を挙げようと襲った。ただ、それだけだったのだ。驚くべき事に、あの悪漢達は、自らが手に掛けた人物が、この国の王太子であることに気付いていなかった。

(あのような取るに足らない者共でも、鍛錬も信念も不要な武器一つがあるだけで、体勢をひっくり返すほどの力を持ってしまう。あれは、あの武器は、何なのだ)

 牢に捕らえている2人は、仲間があっさりと斬り殺されたこと、そして自らが起こしたことの重大さに震えていた。拷問ともいえないほどの軽微な攻めで、すぐにあらゆる情報を吐き出した。本来は命まで奪うつもりはなかったという。

ただ、あの『銃』を手に入れた男だけは無性に武器を使いたがり、そして躊躇なく撃ち続けたという。分不相応な武器を手に入れた弱い者が、その強さに魅入られてしまった。しかし、今はただ、逃げ惑っている。

 ディルムッドはものすごいスピードで男を追い続ける。徐々に路地の方へと追い込み、そしてついに、袋小路へと追い詰めた。男は失禁し、腰も立たなくなっている。

(……このような、情けない男の、子どもじみた承認欲求によって、奪われた……! 殿下の命は、キールの名誉は…)

 せめて信念や異国との戦いの中であれば、まだ報われた。しかしこれでは、あまりにも…。

ディルムッドは剣を投げ捨てた。そのまま、その華奢な男に殴りかかる。自らが騎士であることも、ショーン家の名を負っていることも、脳裏の片隅にすらない。ただ激情のまま、その細身の男を殴り続ける。自らのこの拳で、罰を与えたかった。

(だめだ、これ以上やっては、ダメだ…)

しかし、体は止まらない。体格差も力の差も歴然だ。しかし、手加減ができない。

(こいつさえいなければ…、今も、殿下は、キールは……!)

両目からは涙が溢れている。自分が今、どんな表情をしているのか分からない。誰か、誰か止めてくれ、でも誰も居ない。それはそうだ。自身が陥れて、誰も辿り着かないようなこの路地の奥へ、こいつを導いたのだから。

(こいつを、消してしまえれば、きっと、全て、終わる…)

ディルムッドの拳は、一層力をためて、足元の男へと向けられた…。




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