連載小説「オボステルラ」 【第三章】13話「1年前、そして」(1)
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13話 「1年前、そして」(1)
今日の公務である王都の孤児院の慰問は、つつがなく終わった。
優しげで華のあるアーロン王子は、王都の民、特に女性に人気が高い。今日も孤児院に王子が来るという噂を聞きつけていた市民が大挙していた。アーロンもまた、往来で積極的に民と触れ合うものだから、護衛は大変だ。
一通り市民との交流を終え、馬車に乗り込んだ王子と護衛達。アーロンは皆に尋ねる。
「じゃあ、帰りに市場だね。ミリアに果物を買って帰るんだ」
「市場ですか?」
キールの隣にいる護衛が、驚いたように答える。
「市場に寄るとなると、予定の帰路から外れてしまうことになりますが…」
「あれ? …ああ、そうか…。昨日、ディルムッドには伝えていたのだが…」
「情報の共有ができておらず、申し訳ございません」
「いや、僕もキールに話したつもりになっていたよ」
キールが頭を下げる。アーロンは懐から、ミリアにもらった刺繍の小袋を取り出した。中には市場で使えるよう小銭をギッシリ入れてある。
「参ったな、どうしてもミリアに果物を選んであげたいんだよなあ。約束してしまったし」
「…市場の方への迂回なら、特に問題はないのではないだろうか?」
「しかし、市場付近には馬車を駐められないから、少し遠くにつけて歩かなければならなくなる…」
「普通の店舗と違い屋台となると、護衛の陣がまた変わってくるが…」
キールは横の護衛と話し合い、外へ出て地図を見ながら、騎馬兵達とも打ち合わせをする。

「…目的地は果物店ですね。一旦、馬車を停車場へ駐めて徒歩で向かう必要があるので、その道中の安全を確認次第、殿下には向かっていただきます。あまり長時間の滞在にならないようお願いできれば」
「無理を言って申し訳ないね。頼むよ」
「では」
馬車を中心にした一団は、市場の方へと向かう。やがて停車場へ着き、キール以外の護衛は徒歩路の安全確認のために馬車を降りた。しばし車内は、アーロンとキールの2人だけになる。
「ルチカには楽しんで来いなんて言われたけど、まあ、そうそう身軽に動けるわけでもないね」
「それはそうだよ、殿下。立場というものがあるんだから」
アーロンのグチをキールが咎める。
「自由に市場を歩いて果物を買ったり、ふらっと町の食堂に立ち寄って食事をしたり、工房に立ち寄って職人に機械の話を聞いて衝動買いしたり、草原で思うがままに馬を駆ったり…。そういうことに憧れるんだけどね」
「……かなり綿密な護衛計画を立てねばならないけど、まあ、不可能ではないかと…」
「いや、そういう事じゃないんだよ。お忍びっていうのかな。変装して、普通の市民として、ふふ」
「……」
「まあ、夢物語だよ。忘れてくれ。今日だって皆のおかげで、十分楽しい買い物をさせてもらえるのだからね」
困った表情を浮かべていたキールに、アーロンはニコリと笑った。
「いつもディルムッドにも同じようなことを言って、同じような表情をさせてしまうんだ。君ら兄弟は、本当によく似ているね」
「そうかな? 見た目はかなり違うけど……」
「ふふっ…」
とちょうど外から「経路の確認が完了しました」との声がかかる。
「さ、果物を買いにいく冒険だ。キール、楽しもう」
「ええ…」
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