連載小説「オボステルラ」 【第三章】13話「1年前、そして」(2)
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13話 「1年前、そして」(2)
買い物に行く果物店以外には王太子の来訪であることは周知していないが、物々しく兵士に護衛された青年が道を歩いてる様に、市場にいる人々はざわついている。写真を写した精彩な肖像が出回っているため、中央で守られている青年の正体に気づいているものもいるようだ。
「殿下、ここでは民とのふれあいはご遠慮ください。予定外の行動ですので、警備に十分に気が払えません」
「ああ、分かってるよ。窮屈だなあ」
グチじみた言葉を口にしながらも、アーロン本人も十分に周辺に警戒を飛ばしている。自身が置かれている立場は、よくわかっているのだ。
「こちらです。この市場で一番大きな果物店の屋台だそうです」
「わあ、すごいね」
アーロンの瞳は輝いた。屋台には一面、色とりどりの果物が並んでいる。
「見たことのない果物もあるなあ。国外から取り寄せているものもあるの?」
「はい、この辺りはコビナ衆国の南部地域の果物です」
そう言って、店主は特に極彩色の果物のゾーンを示す。安全のため、友好国からの贈答品を除けば、城内に国外の食材が届くことはほとんど無い。キールはその果物の見た目に驚く。
「この色は…、美味しそうと言うより、毒々しくも見えますね…」
「本当だね、どのような味なんだろう?」
「ご試食されますか?」
「ああ!」
店主の提案にアーロンは嬉しそうに頷くが、キールが横で首を振り、止める。
「殿下」
「……ああ、そうか……」
少し残念そうな顔になるアーロン。毒味を経ない食べ物を口にできないのだ。キールはそんな王子の様子を見て、腰に備えるナイフを渡しつつ店主に要望した。
「……ご主人、試食用の果物は、我々の目の前で切っていただけるか? 果物を切る刃物も我々のものを使ってくれ。そして、同じ場所から切り出したものを3切れ用意していただきたい」
「キール…!」
その友人の気遣いに、アーロンは瞳を輝かせた。
「ディルムッドなら、問答無用で『なりません』だったな」
「そちらの方が正しい判断なのかもしれませんが…。いや、兄上も、押せば意外に折れてくれるものです」
「ああ、そうだね。そういうところがあるね、彼は」
ふふっと笑うアーロンに、ふう、とため息をつくキール。すぐに一行の目の前で、試食用の果物が用意される。3切れのうち、キールともう1人の兵士がまず、口にする。毒味である。
「ひとまず…。10分経ったら、殿下も口にされてください」
「果物が干からびてしまうよ。どう、美味しい? どんな味?」
キールにワクワクした顔で尋ねてくるアーロン。キールは少し呆れ顔で見る。
「…私は毒味ですよ? それに、先に感想を言ってしまっていいんですか?」
「はは、そうだね。長い10分だ」
そう言いながら、待つ時間も楽しそうだ。その間に、他の果物について尋ねたり、また別の試食用の切り出しを依頼したりしている。
「よし、君らは息災のようだね。いただくよ」
そう言ってパクリと、極彩色の果物を口にする。
「うわあ、なんとものっぺりした舌触りだろう。甘みも強いね。でも、鼻に抜ける香りが独特だな。これは初めて食べる味だ」
「少し臭くはないですか?」
「『独特の香り』だよ。これがクセになりそうじゃないか。でも、病身のミリアには刺激が強そうだなあ」
そう言って、嬉しそうにモグモグと食べるアーロン。キールも護衛として真面目な表情を装いつつ、アーロンとのやり取りを少し楽しんでしまっている。結局4個、5個と試食を重ね、その全てを購入してしまった。

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