連載小説「オボステルラ」 【第三章】13話「1年前、そして」(3)
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13話 「1年前、そして」(3)
「はあ、流石に試食しすぎて胃がたぷたぷだ。でも、どれも美味しかったなあ」
馬車への帰路、両手に果物の袋を抱えるアーロンは、満足げな表情だった。果物を護衛の兵士が持とうとしたものの、「ミリアの分は自分で持っていきたい」と手放さなかったのだ。
「…結局、なんだかんだで時間を食ってしまいました」
「…申し訳なかったよ、キール。城の中では食べられないと思うとつい、ね。しかし、あの果物店はよかったね。この立地であれだけの品ぞろえを保つとは、並の努力ではできないだろう。次の城下での公務の折には、正式にルートに入れておくよう通達しておいてくれ」
「は…」
人がひしめき合う市場の中の屋台への正式な訪問となると、どのように護衛を配置すべきかと頭を悩ませるディルムッドの姿が思い浮かんだが、それは兄の役目なので、キールは気にしない。
「…ん?」
と、キールと護衛数名がふと、視線を上げた。
「どうした」
「いえ、今、何か音がしたようです。破裂したような…」
周りを見回すが、不審な気配はない。念のため護衛兵の2人が抜剣し先導しながら、停車場へと進む。
「市場の近くなんだ、多少賑やかしいものだろう。気のせいではないのか?」
「気のせいならば、気のせいだったで済むだけです。念のため、ご用心を」
キールも剣を抜き、警戒しながら進む。
やがて、停車場に駐めてある馬車と騎馬が見えてきた。特に異変はないように見える。護衛兵が先に馬車の中を改めるも、誰も居ない。そのままアーロンを馬車へ導こうとしたが、アーロンがキールに呟いた。
「馬車を守っていた兵はどこに行った?」
「!」
護衛は一斉にアーロンを守る陣を組んだ。同時に、物陰から男達が飛び出してくる。普通の市民の服装をし、剣を手にした男が6名、護衛兵に斬りかかる。
「殿下、お下がりを!」
「キール!」
護衛兵に後ろへと引かれ、アーロンが抱えていた果物が落ちてばらっと散らばる。キールと他の兵達は、悪漢達と斬り結んだ。一気に乱戦の模様になった。
「殿下を馬車へ! 騎馬でも良い、早く城へ!」
キールはアーロンを守る護衛兵にそう命じ、自身は悪漢達に向かった。応じられないほどではないが、敵はそこそこの腕前だ。帝国人? …いや…。
(これは、我が国の剣技…)
歴とした兵士や騎士が身に付ける王国剣技だ。『内側』の敵か。キールは1人で2人の敵を相手にしながら、チラリとアーロンの方を見遣る。アーロンが護衛に守られながら、無事馬車に乗り込もうとしていることを確認した。敵の手はまだ届いていない。
(よし、ひとまずアーロンをこの場から遠ざけられる)
と、そのとき、ドン!という音がした。
途端に、キールのすぐ横で戦っていた護衛兵が倒れる。
「?」
時間差で火薬の匂い。倒れた護衛と戦っていた悪漢が、そのままキールに向けて剣を振りかぶる…。剣で防ごうとしたそのとき、足元に転がっていた果物に足を取られ、バランスを崩すキール。
(……しまっ……)
が、キールに剣が届く寸前、敵の胸にズシャと剣が突き立てられ相手は倒れた。見ると、その剣の主はアーロンだ。キールが斬られそうになるのを見て、馬車から飛び出してきたのだ。
「キール、無事か!」
「馬鹿! なぜ来た!」
キールはそう叫び、アーロンを後ろに押し隠す。他の悪漢は護衛達が斬り伏せた。思ったよりは手応えがなかったようだ。あとは目の前にいるこの2人。他の護衛も助けに来ようと動いたが…。
そのとき、少しだけ離れた場所に、7人目の男がいるのが見えた。他の6人と違い華奢で武力もなさそうな男だ。しかし、何かをこちらに向けている。
「!」
何かを感じゾッと鳥肌を立てたキールは、そのままアーロンの前に立ち塞がった。目の前の敵に斬られるが、構わずアーロンをかばい続ける。
「キール!何を」
「アーロン!動くな! 何か来る!」
キールがそう叫んだとき、再びドン!ドン!という音が、その華奢な男の方から響いた。同時に、キールは胸に衝撃を受ける。
(…なんだ……、あれは、機械? 武器か……?)
男の手元から煙が上がっている。それが『銃』という、この国ではまだ誰も目にしたことがない武器であることは、キールには知るすべはなかった。
そのまま、キールは倒れゆく。遠のく意識の中で、それはとてもゆっくりした時間に感じられた。何の攻撃を受けたのかわからないが、一瞬で致命傷を負ってしまったことだけは、理解できていた。
(…兄上、申し訳、ない……。俺は、甘すぎた…。つい、アーロンの夢を叶えたいと、思ってしまった……)
他の護衛が残りの悪漢達を斬り伏せている。銃を撃った者の元へも兵が向かっている。きっと彼らが兄と共に、この犯人達の素性を調べてくれるだろう。
(せめて、我が身を盾として、アーロンを守ることができて良かった……)
そう思いながら、どさり、と仰向けに地面に倒れるキール。
次第にぼやけて何も見えなくなっていく視界の中に、しかし、地面に倒れ血を流すアーロンの姿が入ってきた。
(……な……!)
目を見開くキール。彼の胸に打ち込まれた2発の金属の玉は体と鎖帷子を貫通し、非情にもすぐ後ろでかばっていたアーロンの体をも貫いてしまった。
(……なぜだ、何が起こった…? 守れなかった…のか…。アーロン)
「く……そ、……無、念……」
キールはそう呟き目を見開いたまま、血だまりの中に伏すアーロンの姿を見つめながら、絶命した。

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