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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  16話「祭の夜」(2)


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16話「祭の夜」(2)


 やがて、『火飛ばし』の刻がきた。

 花輪を頭に飾り、妖精のような服装に身を包んだ少女達がたいまつを持って回り、皆のランタンに火を灯していく。台の上で街の長が、今年も豊作であったことの報告と自然への感謝の祝詞を朗々と読み上げ、そして両手を天に掲げた。その瞬間、皆がランタンから手を離す。

 紙風船が柔らかく広げる灯火が、あちこちからフワリ、フワリとゆっくり浮かび上がる。やがて、見上げる視界いっぱいをランタンが占めた。夜空の星々は見えなくなり、代わりに浮かび上がる円い灯火達。こんなにもたくさんの火が浮かんでいることが、ゴナンにはとても不思議だ。星々の光よりもずっと温かくて、その一つ一つに人間の手を感じて、そして思いが、魂が乗っていく気がする。

「…キレイだな…」

「そうだね」

 思わずそう口にしたゴナンに、リカルドも応じた。

「僕も実は、この『火飛ばし』を見るのは初めてなんだ」

「え、そうなの?」

「うん…。あんまり、美しい思い出を作りたくなかったから」

 そう、暗く口にするリカルドに、ゴナンはハッと顔を見る。

「リカルド…」

「…でも、今日は、ゴナンとの思い出が作れて、とてもよかったと思ってるよ。彼方星へのいいお土産になったな」

「……」

 微笑みながらそう呟くリカルドに、ゴナンは少し泣きそうな表情だ。リカルドはゴナンの頭をクシャッとなでた。

「ああ、ごめんね。こんな話をしたいわけじゃなかったんだ。ほら、ミリアもはしゃいでるよ」

 リカルドはニッコリと笑って、キャッキャとはしゃいでいるミリアの方を指す。

「ゴナン、見て、とてもキレイよ。すごいわね」

「うん、すごい、きれい」

「ゴナン、あっちの台から、もっとよく景色を見られそうだわ。ランタンが全部飛んで行ってしまう前に、急ぎましょう!」

 そう言ってゴナンの腕を引くミリア。ゴナンは「ミリア、足元が暗いから気をつけて」と言いながら、ミリアに引かれるままに台の方へと行く。この火の景色が楽しめるように設置されている観望台のようだ。

「ミリア、俺が先に乗って引っ張るから」

 そう言って、ミリアを引き上げ、一緒に台に乗る。

「うわあ…」

 ゴナンはまた、感嘆の声を上げた。夜空に浮かぶ無数の灯火と、それを見上げるたくさんの人々が見える。会場内のかがり火に照らされた人々の表情が、大人も子どもも、男性も女性も、誰も彼もキラキラと輝いて見える。

「すごいね」

「ええ、素敵。お祭って、ほんとうに素敵だわ」

「うん」

「わたくし、どうして人々にお祭が必要なのか、今日、よくわかった気がするわ」

「…?」

 ミリアのその言葉の意味は、ゴナンにはよく分からなかった。少し首を傾げ、そしてまた、上へ上へと舞い上がる火の景色を見上げるゴナン。あのランタン達はどこまで上るのだろうか。その行く先を見たくて、ゴナンは思いっきりのけぞってしまう。

「……」

 ミリアは、浮かび行く灯火を見上げて見送る人々の表情を眺めている。しかし、ふと顔を上げ、そして、遠くのかがり火がかすかに照らすゴナンの横顔をじっと見た。



「……何?」

 ミリアの視線に気付くゴナン。

「いえ…。ゴナン、背が伸びたのではないかと思って」

「えっ、そう?」

 そう言われてゴナンは少し嬉しそうにする。

「ご飯をいっぱい食べてるから、前よりは太れてはいるとは思うんだけど。背も、伸びたかな…?」

「ええ、そうね。少し逞しくなった気もするわ」

「そう?」

 そう、また嬉しそうにするゴナン。ミリアはクスッと笑う。と、「おーい!ゴナン!」とエドワードが呼ぶ声が聞こえてきた。

「あ、エド! 俺、行ってくるよ。ミリアは皆の所に戻る?」

「ええ、戻るわ」

 そう言ってゴナンに支えてもらいながら台を降りるミリア。ディルムッドの元へ戻ったのを見届けて、ゴナンはエドワード達の所へ行った。もう、ランタンは上空に飛んでしまっており、灯りは見えなくなっている。

「どうだった? ゴナン」

「うん、すごくキレイだった。すごいね」

「そうか、よかったぜ! 俺たちは毎年見てるけど、やっぱりちょっと感動するもんな。初めて見たなら、なおさらだよな」

「うん、見れてよかった」

 そう、少し微笑んだ様子のゴナン。その笑顔が嬉しくて、エドワードはがっとゴナンと肩を組む。

「また、来年も収穫祭の時期に来いよ! ずっと旅してるんだったらさ」

 そう言うエドワードに、ゴナンは少し戸惑う。エドワードには巨大鳥を追っている話はしていないし、1年後、自分がどこで何をしているのか、想像もつかない。

 しかし、ゴナンは頷いた。

「うん…。祭の日に来れるかはわかんないけど、また、きっとウキに来るよ」

「よし! まだ屋台が出てるから、最後に食べ納め、行こうぜ」

 そう言ってエドワードは、またゴナンの腕を引いた。


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