見出し画像

連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  2話「ウキの街での一騒動」(3)


<<第四章 2話(2)  || 話一覧 ||  第四章 2話(4)>>

第一章 1話から読む

第四章の登場人物



2話 「ウキの街での一騒動」(3)


 ジョージ・クラウスマン元教授の家は、宿があった街の中心地から馬車で20分程走った場所にあった。少し坂を上った丘の上に、邸宅が見えてくる。

「……大きい…。『お屋敷』より、大きい……」

幌馬車から降りたゴナンは、思わずそう呟いた。門扉の向こうに平屋の邸宅が広がっている。木造のようだが、石やレンガで細かく意匠も施されており、施主のこだわりが感じ取れる『雰囲気のいい』家だ。庭も広く、気持ちの良さそうな芝生に、大きな木が数本立っている。

「ああ、そうだね。北の村の『お屋敷』も大きなお家だったけど、あれより大きな家はいくらだってあるよ。貴族の屋敷だったり、王都や第二の都市のシャールメールなんかには、もっともっと大きなお屋敷もあるから。2階建てとか3階建てのね」

「3階建てのお屋敷…。どうやって建てるんだろう……」

北の村で住んでいた、家とも言いがたい木の柱と囲みの空間を思い出す。あれでも作るのは大変なのに、と疑問を口にしながら、また息がゼイゼイとなってくるゴナン。出迎えてくれたジョージの妻・マリアーナが、ゴナンの背中を優しくさすってくれた。60代のジョージよりは若く見える、50代前半の年頃だろうか。真っ黒な髪を背中まで伸ばした、ふんわりと優しげな女性だ。

「あらあら、具合が悪いのね。熱も出ているのね。しかもちょっと高いわね。すぐに部屋を用意しなきゃ」

「……ゴホッ……。大丈夫です…。ありがとう、ございます…」

「…このゼイゼイ息は、トーマスさんの下の子の発作に似ているわねえ…」

マリアーナがゴナンの様子を見て、そう口にする。ジョージも頷いた。

「…そうなんだよ、私もそう思っていた。あの子に飲ませている薬草を、この子にあげてみるといいかもしれないね」

「ええ、すぐに準備するわね。さあ皆さん、お疲れでしょう。どうぞ中へ」

そう朗らかに一行を迎え入れるマリアーナ。ミリアは丁寧にお辞儀をした。

「お世話になるわ。ありがとう、奥様」

「あらあら、なんて素敵なレディ。ご貴族の方? どこかのお家のご令嬢かしら?」

「……!」




 町娘の服装なのに、やはりお辞儀一つするだけでミリアの『位の高さ』がバレてしまう。ミリアが素直に答えて、もしくは影武者云々の不要な嘘でボロが出ないかと一同は少し慌てたが、ディルムッドが即座に答えた。

「…ミリア様は異国から参られた方です。こちらの国の王女殿下と同じ名のよしみで、社会勉強のためにお忍びで旅をしておられます。家名はご容赦を」

「まあ、そうなのね。ご立派だわ。あなたとそちらの女性は、その護衛ということなのね」

きちんと『設定』を考えていてくれたらしい。エレーネのプロフィールを少し借用しているようだ。さすがはディルムッド、と一行は安心しつつ、屋敷の中へと足を運んだ。

「客間は3つある。ベッドを2台ずつ入れてあるから、ちょうどよかったな」

ジョージは屋敷の中を案内しながら、改めて一行の面子をきょろりと見た。

「部屋はどう分けるかい?」

「僕はゴナンと一緒で。ミリアはエレーネとだね。あとは……」

そう言ってナイフとディルムッドを見遣るリカルド。ジョージがふふっと笑う。

「この厳つい2人が同室かい。うちの部屋では狭苦しそうだな…。特にこの大きな御仁は、ベッドからはみ出しちまうかもしれない」

しかし、ディルムッドはすっと手を上げた。

「いや、私に部屋は不要だ。ミリア様の部屋のドアの前で休ませていただ…」

「ディル」

ディルムッドがまた『過ぎた護衛』をしようとするのを、ナイフが諫めた。

「……まあ、私と同室だと何かと気まずいかもしれないけど。それが気にかかるなら、私だけ宿に泊まっても大丈夫よ」

「気まずい…? いや、そういうわけではないが。そもそも、ツマルタでも同室だったではないか」

ナイフの気遣いに、ディルムッドは首を傾げつつ答える。その辺りは、あまり気にしないようだ。

「だったら、ドアの前に貼り付くのはおやめなさい。部屋を隣にしてもらえばいいでしょ?」

「あ、ああ……」

「なんだい、こちらの護衛さんは。でかい図体をしていても、このお嬢さんには頭が上がらない様子だな」

ジョージが楽しそうに、ディルムッドの体をバンバンと叩いた。苦笑いするディルムッド。

「あら、お嬢さんだなんて嬉しいわ、先生。私のことはナイフちゃんと呼んでね」

「ナイフちゃんだな。なかなかイカした旅の連ればかりじゃないか、氷っ子」

不思議と人好きのする大らかな人物だ。宿ではどうなることかと思ったが、クラウスマン夫妻の包容力に包まれて、一行はホッとした心地を得て、それぞれの個室へと入っていった。




↓次の話↓




#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に


いいなと思ったら応援しよう!