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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  2話「ウキの街での一騒動」(2)


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第四章の登場人物



2話 「ウキの街での一騒動」(2)



 「……ゴナンを泊められないって、どういうことかな?」

リカルドは冷たい微笑みを浮かべながら、宿屋の主人にそう尋ねていた。主人はその迫力にたじろぎながらも、説明する。

「その子は何か病にかかっているようじゃないか。うつされたら困るから、泊められないと言っているんだ」

ディルムッドに体を支えられ、ゼイゼイと息をして激しく咳き込むゴナンを指す主人。

「この子のは流行病はやりやまいなどではないわ。ずっと一緒にいる私たちは、誰も体調を崩していないんだから」

「だからといって本当に流行病じゃないかどうかは、分からないだろう。あんた方は見た感じ、体も強そうだし……。病気を持ち込まれると困るんだよ」

「しかし、この子にはベッドが必要なのだ。療養させないと…」

ナイフとディルムッドも食らいつく。筋骨隆々とした二人に迫られて主人は気圧けおされるが、しかし受け入れない。リカルドはさらに怜悧な光を瞳に宿す。

「ゴナンを病気の毒の源のような扱いにされるのは、いささか気分が悪いな」

そう言って微笑みを消し、ジロリと宿の主人を睨むリカルド。主人は怯えて黙りこくってしまい、ナイフが「リカルド」と横から小突いた。ゴナンが後ろから、リカルドに声をかける。

「…リカルド…。いいよ。街の外れに幌馬車を動かしてよ。俺はそこで寝るから。皆は部屋に入ってよ」

「ゴナン、ダメだよ。きちんとした寝床で寝なければ。中々、治らないんだから…」

「幌馬車も、北の村の家に比べたら、俺にとっては立派な部屋だよ…。俺は大丈夫……。ゴホッ、ゴホッ…」

遠慮するゴナンをリカルドはなだめて、ゴナンの激しい咳に眉をひそめている宿の主人へ向いた。やはりいつもの微笑みはない。

「どうすれば泊めてもらえますか? お金ならいくらでも払いますよ? ああ、宿を全室、貸し切りましょうか、いっそこの宿を買おうか、そうすれば僕がここの主になる。それとも……」

「いや、そういう問題ではない…!」

強硬になるリカルドに、宿の主人もさらに態度をかたくなにし始めた。無言のにらみ合いが、少しの時間続く…。


 と、その時。

「おい、こおりっ子。交渉ごとをするのに、感情を露わにするのは悪手だぞ。それにご主人がビビっちゃってるじゃないか。それくらいにしておきなさい」

宿の受付横にある食堂から、声を掛けてきた人物がいた。



(氷っ子……?)

聞きなじみのない言葉に、首を傾げるゴナン。食事中らしきその白髪の老人はニヤリと微笑むと、席を立ってリカルドの方にやって来てポンポン、と肩を叩く。

「それにしても、お前さんが誰かと旅をしているなんて、どういう風のふきまわしだ? 氷っ子」

「…クラウスマン教授……」

 その人物は、この街で会うために来たジョージ・クラウスマンその人だった。エレーネと同じくらいの身長で、痩せた体躯にキレイに整えられた白髪。ピシャリとしたシャツをピンとした背筋で纏い、皺だらけの顔が愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべている。

「私はもう教授ではないよ、退任しているんだからね。田舎に引っ込んだ隠居じじいだよ」

「ご無沙汰しています。ジョージ先生、あなたに会うために、この街にやって来たんです」

「なんだ、そうかい。だったら手紙でもよこしてくれれば良かったのに。お前さん達、何人だ?」

「ええと、全部で6人、ですが……」

答えるリカルドに、ジョージは一行の顔ぶれをきょろりと見回す。

「……なんとも…、変わったご一行だな。お前さん、具合が悪いんだな?」

ジョージはゴナンに声をかける。ゴナンは咳き込みながら答えた。

「……ゴホッ、俺は、大丈夫です……」

「ふふっ、そうかい。それは失礼したね。まあ、うちには使っていない部屋がそこそこあるから、6人なら大丈夫だろう」

「……え?」

ジョージは宿の主人に声をかける。

「宿の稼ぎがなくなってしまうが、病気が心配ならうちで全員引き取るよ。ご存じの通りうちは外れの丘の上にあるから、万が一流行病でも迷惑をかけることはないと思うがね」

「…あ、ああ…。先生がそうおっしゃるなら……」

宿の主人もジョージを「先生」と呼んでいる。リカルドはしかし、心配げにジョージに尋ねた。

「お世話になっていいのでしょうか? この人数だし、僕らは長期で滞在する可能性もあるんですが…」

「なに、構わないよ。お前さんは来たことあるだろう。つい棲家すみかにと見栄張って大きな屋敷を建てたんだが、妻と二人で暮らすにはかなり持て余しているんだ。人気ひとけがあったほうが助かるよ」

そう言ってニッコリ笑う。人を安心させてくれるような笑顔だ。ジョージはゴナンにまた、優しく声を掛けた。

「ほら、見栄っ張りの坊主も、いつまでも立っていてはきついだろう。さっさと家に来て、すぐ横になるといい。場所は分かるな? 氷っ子」

「はい…」

「『こおりっ子』…?」

どうやらリカルドのことをそう、呼んでいるらしい。ゴナンがジョージに尋ねる。ふふっ、とジョージは笑った。

「王都の学校の小等部に来たばかりの頃は、笑いも泣きもしねえ、勉強しかしねえ氷のような子どもだって、教師陣の間で話題になってたんだ。それで『氷っ子』だよ。そのうち、薄っぺらい妙な笑顔を覚えたようだけどね」

「……へえ…」

「先生…。子どもの頃の話ですよ、それは……」

「なあに。私にとってはお前さんは、何歳になっても氷っ子だよ」

少し照れくさそうに言うリカルドに、ジョージはまたふふ、と笑う。リカルドが子どものような表情をしているのが、ゴナンには少し面白かった。





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