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心と言葉の日本語文法(25)日本語文の分析(16)報道文の「客観性」について

(↓のつづきです)

問:次の報道文を「認識」「判断・態度」「伝達」の3層に分けてください。

日本銀行は29日から金融システム安定化の一環として、民間銀行の保有する株の買い取りを始めた。


【解答・解説】
認識(命題):
日本銀行が29日から金融システム安定化の一環として民間銀行の保有する株の買い取りを始めた(こと)

対事的モダリティ(判断・態度):
「日本銀行は」(トピック提示)、「~始めた」(断定)

対人的モダリティ(伝達):
なし、あるいは「人間的な伝達はせずに認識・判断だけを伝える」という意図の伝達
 
報道文や学術文の最大の特徴は「客観性」だとされている。

たとえば、文末の「です・ます」という言語表現は読み手に対する「ていねいさ」の伝達(対人的モダリティ)の表現であるので報道文や学術文では基本的には使えない。

この文でいえば、
「日本銀行は29日から金融システム安定化の一環として、民間銀行の保有する株の買い取りを始めました。」
とは報道文では書けない。

この考え方からいえば、この問においての回答は「伝達(対人的モダリティ)はなし」ということになる。

しかし、それとは別の考え方も、じつは可能である。

ここまで見てきたように、日本語の世界では対事的な認識・表現から対人的な認識・表現に向かおうとする力がつねに強く働いていると考えられる。

そうした世界では、対人的な認識や表現が何もなされないという言語表現は、自然なものではない。

そしてそうした「特殊な表現」には、何らかの意図を感じ取るのが普通である。

ということは、
この文では伝達(対人的モダリティ)表現を敢えてなくすことで「対人的な態度を何も表明しない」=「客観的である」という意思を読み手側に伝えていると考えることも可能である。

すなわち、なにもつけないという「ゼロの表現」には、「人間的な伝達はせずに認識・判断だけを伝える」という伝達(対人的モダリティ)が存在する、と考えるわけだ。

ここからは、この日本語文を英語にしてみる。

すでに説明したように、この日本語文には伝達(対人的モダリティ)は表現されていないので、その思考・表現内容をほぼそのまま英語として表現することができる。

たとえば、次のようなものが考えられる。

On (month) 29, the Bank of Japan began to purchase shares that are held by Japanese private banks as part of a measure to stabilize the financial system.

このように報道文や学術文では、日本語表現の中の伝達(対人的モダリティ)部分を見つけ出して(削除など)処理する必要がない。

その意味では、報道文や学術文は、日英翻訳が容易な領域だといってよいだろう。

(つづきは↓)

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