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「稼ぐ力」強化戦略×経営OS(11日目) ── 中小企業の現実。社長の目はまだ届く。だからこそ、社長一人に依存し、すべてが社長の頭の中で決まる

0.はじめに
9日目と10日目は、中堅企業を見てきました。社長の目が届かなくなり、OSの衝突が部門間に潜り、統合OSの階層化が要る世界です。今日からは、中小企業に入ります。同じ経営OSの話でも、規模が変われば、効かせ方も課題もまるで変わります。今日は、中小企業の現実と課題を、中堅企業との対比を通じて見ていきます。

本シリーズでは中小企業をおおむね売上1億円から10億円、従業員でいえば数人から数十人の規模の会社として捉えます。本シリーズで10億宣言と呼ぶ世界を、明日、扱います。今日はその前提として、中小企業という規模が、どういう現実の中にあるのかを、押さえます。

そして、今日の話は2026年の2月に書いた、グレイナーの成長モデルと経営OSの記事と地続きです。あの時お伝えした、企業の成長は壁の連続であり、壁ごとに経営OSの更新が要る、という見方がここで効いてきます。実務面は姉妹編のブログをご覧ください。

1.国の期待を、壁とOSの言葉に翻訳する

国は、中小企業にも成長を期待しています。10億宣言もその一環です。中小企業がより大きく、より強くなることが、地域の雇用と経済を支える。この期待は、正しいものです。

しかし本シリーズはこの期について、いつものように翻訳します。中小企業の成長とは、ただ売上を伸ばすことではありません。成長の途中に立ちはだかるいくつもの壁を、その都度、経営の仕組みを書き換えながら越えていくことです。2月の記事でお伝えした通り、企業の成長は一直線の右肩上がりではありません。成長と危機が交互に訪れる、節目の連続です。そしてその節目で求められるのは、もっと頑張ることではなく、経営の仕組みそのものを書き換えることなのです。

だから今日は中小企業の現実を、この壁と経営OSの観点から見ていきます。中堅企業とは、何が同じで、何が違うのか。その対比の中に、中小企業ならではの課題が見えてきます。

2.中小企業の世界 ── 社長の目は、まだ届く

①会社全体に社長の目が届くかどうか
中小企業と中堅企業の最も大きな違いは、社長の目が、会社の全体に届くかどうかです。

9日目で、中堅企業の最大の課題は、社長一人の目が会社の全体に届かなくなることだとお伝えしました。従業員が数十人から数百人となって、部門が分かれ階層ができる。社長と現場との間に、何層もの人が入ることで情報が遅れ、ゆがみ、止まる。これが中堅企業でした。

中小企業は、その手前にあります。すなわち従業員が数人から数十人の規模であれば、社長はまだ、会社のほとんどを自分の目で見ることができます。誰が何をしているか、どの取引がどうなっているか、お金がどう動いているのか。社長一人の頭の中で、会社の全体がおおむね把握できる。これが中小企業の世界です。

②中小企業では社長の目が全体に届く
そして、これは、弱みである前に、強みです。社長の目が全体に届くとは、意思決定が速いということです。
中堅企業のように現場の情報が階層を一つずつ上がるのを、待つ必要はありません。社長がその場で見て、その場でも決められる。市場の変化に素早く対応できる。小回りが利く。一点に資源を集中し、大手が手を出しにくい領域で一点突破ができる。

これらは、規模が小さいからこそ持てる中小企業の、確かな強みです。中小企業を、中堅企業の小さい版や未熟な版として見るのは間違いです。中小には中小の固有の戦い方があります。

③中小企業ならではの戦い方ーニッチと集中(強み)
実際、優れた中小企業は、この速さと集中を武器にしています。
大手が何重もの会議と稟議を経て、ようやく動き出す間に、中小企業の社長はその日のうちに決めて動き出せる。

大手が市場が小さいと手を出さないニッチな領域に、深く入り込める。顧客一人ひとりの顔が見える距離で、きめ細かく応えられる。これらは、規模の大きさでは決して手に入らない強みです。

中小企業の戦略は、決して、中堅や大手の真似をすることではありません。自社の速さと集中を、どこに向けるかを研ぎ澄ますことです。

たとえば、特定の業界向けに、専門特化した製品や、サービスを提供する。大手には、市場が小さすぎて参入の旨みがない。しかし、その狭い市場でも圧倒的な一番になれば、中小企業でも安定して稼げます。

あるいは、地域に密着し、その地域の顧客と深い信頼関係を築く。全国展開する大手には真似のできない距離の近さが、武器になります。

こうした戦い方はどれも資源を一点に集中させ、社長の目が届く範囲できめ細かく動くという中小企業の特性を、最大限に生かしたものです。つまり、規模が小さいことは不利であると同時に、こうした戦い方を可能にする有利でもあるのです。

④中小企業は社長に過度に依存しがち(弱み)
しかし、この強みはそのまま、弱みの裏返しでもあります。
社長の目が全体に届くということは、裏を返せば、会社が社長一人に、深く依存しているということです。すべてが社長を経由し、すべてが社長の判断で決まる。社長が見ているうちは回るが、社長がいなければ、止まる。

中堅企業の課題が、社長の目が届かないことだとすれば、中小企業の課題は社長の目が届きすぎること、社長に依存しすぎることなのです。ちょうど、逆の構造です。

そして、この依存の構造は放っておくとある時、はっきりと牙をむきます。社長一人に依存したまま、会社が一定の規模を超えると、二つのうちのどちらかが起こります。

一つは、社長がボトルネックになり、成長がそこで止まることです。全ての判断が社長を経由するため、社長の処理能力がそのまま会社の上限になる。

もう一つは、もっと深刻です。社長の判断の遅れや、たった一つの誤りが、会社を一気に傾けることです。中小企業にはその誤りを吸収する体力がありません。社長依存は、平時には強みに見えますが、有事には、会社が簡単に詰む構造へと姿を変えます。この危うさは後でゆっくり対処すればよい類いのものではなく、規模が大きくなる前の今のうちに手を打っておくべきものなのです。

3.壁は、経営OSの更新通知である

①中小企業の成長の壁とOSの更新
中小企業が成長する道のりには、いくつもの壁があります。

よく言われるのが、売上の壁です。すなわち、3億円の壁、5億円の壁、7億円の壁、10億円の壁。論者によって、3億円の次は3億円から7億円、その次は7億円から10億円とする見方もあれば、3億円の次はもう10億円までを一つと見る見方もあります。

分け方は、一つではありません。人数で見る壁もあります。10人の壁、30人の壁、50人の壁。これも、業種や事業のかたち、正社員かパートか、外注をどれだけ使うかによって大きく変わります。

大切なのは、壁が、売上いくら従業員何人という数字そのものにあるのではない、ということです。数字は、目安にすぎません。壁の本質は、その規模まで通用していた経営のやり方、つまり経営OSが賞味期限を迎える、という点にあります。

2月の記事でグレイナーの成長モデルを下敷きに、詳しくお伝えしました。創業期は、社長の馬力、つまり情熱と行動力で走る。しかし人が増えると、それだけでは回らなくなり、管理の仕組みが要る。さらに増えると管理だけでは現場が窮屈になり、権限を委ねる仕組みが要る。すなわち、段階毎に、求められる経営OSが変わっていくのです。

②前の段階での成功体験が、次の段階での足かせになる
ここで、最も大切な核心を、もう一度繰り返します。前の段階での成功体験が、次の段階では最大の障害になる。
創業期に会社を伸ばした、社長が全部自分でやるというやり方です。それが人が増えた段階では社長というボトルネックになり、成長を止める。社長を成功させたやり方が、次の段階では、社長の足かせになる。これが、壁の正体です。だから壁は、社長の能力不足のサインではありません。会社がそこまで成長した証であり、経営OSを次の版に更新せよという通知なのです。

中小企業の成長とは、この更新を壁のたびに、繰り返していくことです。
そして中小企業の段階で問われるOSの更新は、おおむね、社長の馬力で回す段階から管理の仕組みへ、そして権限を委ねる仕組みへという移行にあたります。中堅企業で見た統合OSの階層化は、この先のさらに大きな壁で問われるものです。中小企業は、その手前の、壁を越え始める段階にいます。

③成長の壁の前で陥りやすい三つの逃げ道
ここで、多くの社長が、壁を前にして、つい走りがちな道があります。2月の記事でも触れた、三つの逃げ道です。

一つ目は、もっと自分が頑張るという道。睡眠を削り、休日を返上し、自分の稼働を限界まで上げる。しかし、人の体力と時間には上限があります。

二つ目は、とりあえず人を増やすという道。しかし、仕組みが古いままで、人だけ増やせば、社長というボトルネックが太くなるだけです。

三つ目は、補助金や外部資金で設備やシステムを入れて、一時しのぎをする道。しかし、それを運用するOSが古いままでは、高価なツールが、かえって現場の負担を増やします。

いずれも、壁が発している、OSを書き換えよという通知への答えにはなっていません。壁を本当に越えるのは、頑張りの上乗せでも人や設備の追加でもなく、経営の仕組みそのものの更新なのです。

4.中小の課題1 ── OSの衝突が、社長の頭の中で起こる

①OSの衝突は社長の頭の中で起こる
ここから、中小企業ならではの課題を、中堅企業と対比しながら、三つ見ていきます。一つ目は、OS同士の衝突がどこで起こるか、です。

8日目で、7つのOSは互いに衝突するとお伝えしました。価格と取引、人とAI、投資と現金。9日目では、中堅企業ではこの衝突が部門と部門の対立として、組織の中で起こると見ました。製造部門と営業部門、管理部門と事業部門。それぞれが自分の持ち場で最適を追い、ぶつかる。

中小企業では、この衝突が起こる場所が違います。中小企業にはまだ、はっきりと分かれた部門がありません。だから、衝突は組織の中ではなく、社長一人の頭の中で起こります。値上げをすべきか、取引先との関係を守るべきなのか。AIを入れて効率化すべきか、今いる人の不安に配慮すべきか。投資に踏み切るべきか、現金を厚く保つべきか。これらの相反する判断のすべてを、社長が、一人で、頭の中で抱えます。

中堅企業の衝突は、部門という別々の主体の間で起こるため、調整には組織を動かす力が要りました。中小企業の衝突は、社長の頭の中で起こるため、組織を動かす必要はありません。しかし、別の難しさがあります。すべての葛藤が、社長個人に、集中するのです。

誰かと分担することも、調整を委ねることもできません。社長が、価格も人もお金も取引も同時に一人で考え続ける。その負荷は極めて重いものです。中堅企業の社長が組織の複雑さと戦うとすれば、中小企業の社長は、自分の頭の容量と戦っているとも言えます。

具体的な一日を、思い浮かべてみてください。朝、主要な取引先から値下げの要請が入る。受ければ利益が削られ、断れば取引を失うかもしれない。昼、求人を出しても応募が来ないと報告を受け、賃金を上げるべきか悩む。しかし上げれば、ただでさえ薄い利益がさらに減る。午後、取引先から大きな受注の話が舞い込む。受けたいが、対応には設備投資が要り、手元の現金が心もとない。夕方、ベテランの社員から退職したいと相談される。

こうした性質の異なる重い判断が、一人の社長の頭の中に、同じ日に次々と降ってくる。中堅企業なら、これらは営業、人事、財務、現場のそれぞれの責任者がまず受け止めます。中小企業では、そのほとんどを、社長が一人で受け止めるのです。

②社長の判断を検証する仕組みの不在
そして、この、すべてが社長の頭の中で決まる構造には、見えにくい危うさがあります。社長の判断がいつも正しいとは限らないのに、それを検証する仕組みが、社内にないのです。

中堅企業なら部門間の議論を通じて、一つの判断が、別の角度から吟味されます。社長の思い込みに、誰かが異を唱える余地があります。中小企業ではその吟味が、働きにくい。社長が価格を決め、投資を決め、人事を決める。それに対して、対等に意見できる人が社内にいないことが多いのです。

だから、社長の判断の質が、そのまま会社の運命を決めます。社長が冷静で視野が広ければ、会社は伸びます。社長が思い込みや、目先の感情に流されれば、会社はそれを止める術を持ちません。中小企業の経営が、社長次第だと言われるのは、このためです。

そして、この構造の最もやっかいな所は、社長自身が、その危うさに気づきにくい、という点です。すべてが自分の判断で回りそれなりにうまくいっている間は、この一人で抱える構造が強みのように見えるからです。

意思決定が速い、自分が全部分かっている、自分がいれば回る。その手応えが、かえって、依存の深さを、見えなくします。問題が表に出るのは、たいてい社長が倒れた時、判断を誤った時、つまりもう手遅れに近い時です。

うまく回っているうちは気づけず、気づいた時には危機になっている。これが、社長依存という構造の、本当の怖さです。だからこそ、調子が良い今のうちにこそ、この構造に意識して手を入れておく必要があります。

5.中小の課題2 ── 資源が乏しく、一つの失敗が即、存続に関わる

①経営資源が限られる中小企業の体力の限界
二つ目の課題は、資源の乏しさと、失敗の重さです。

9日目で、中堅企業は投資の桁が上がり、一つの失敗が組織を傾けると見ました。中小企業はそもそもの体力が中堅企業よりも、はるかに薄い。手元の資金も人の数も信用の蓄積も、限られています。だから、一つの判断の失敗が、組織を傾けるどころか即、会社の存続に関わります。中堅企業なら一つの事業がつまずいても別の事業で支えられるかもしれません。中小企業にはその余裕がありません。

これは中小企業の経営を、特別にシビアなものにします。中堅企業のようにいくつかの選択肢に資源を分散して張る、ということができないのです。
限られた資源を、どこか一点に集中させるしかない。そしてその一点の選択を誤れば、立て直す体力が残らない。

②中小企業で重要な選択と集中
中堅企業なら、一つの判断のしくじりを、時間や別の事業で取り返せるかもしれません。中小企業には、その猶予がありません。一度の大きな誤りが、そのまま再起不能につながりかねない。だから中小企業の経営では何に集中し、何を捨てるかという選択と集中が、中堅企業以上に決定的な意味を持ちます。

ここに、中小企業の難しさと面白さが、同居しています。資源が乏しいからこそ、あれもこれもと手を広げる余裕がないし、一つに絞らざるを得ない。

しかし、その絞り込みこそが、中小企業を強くします。大手や中堅が、規模ゆえに手を出せない狭く深い領域に、すべての資源を注ぎ込む。そこで、誰にも負けない一点をつくる。これが、中小企業の、最も確かな勝ち筋です。

逆に言えば、資源が乏しいのにあれもこれもと手を広げた中小企業は、どれも中途半端になり力尽きます。中小企業にとって、捨てる勇気は攻めの戦略そのものです。何を捨てるかを決められない経営は限られた資源を薄く広く配ってしまい、どこにも突き抜けた強みをつくれません。

この点で、よく見かけるのがいろいろやっています、という社長です。一つの会社で、複数の事業に手を出している。一見手広くたくましく見えますが、その中身を見ると、資源が乏しいまま複数に分散し、どれも本格的には立ち上がっていないケースが、少なくありません。

②複数事業の目安は売上10億円
ここで、一つの目安をお伝えします。複数の事業をそれぞれが本格的に展開するには、それを支える資源の体力が要ります。そしてその体力が備わってくる目安が、大きく言えば売上10億円の規模です。なお、ここでの売上は、本シリーズや国の概念上のあくまで目安です。業種や事業のかたちによって前後します。それでも、目安として、この規模が一つの線になります。

だから、段階で考えることが大切です。中小企業で売上が3億円や5億円以下の段階であれば、複数に手を出すよりも、まず今の一つの事業を確立しきることが優先です。一点に資源を集中し、その領域で揺るがない強みを作る。これが先決です。

5億円から7億円の段階で10億円を視野に入れるなら、今の事業を土台にしながら、徐々に二つ目の柱を育て始めるのはよいことです。ただしこれもいきなりの本格展開ではなく、一つ目を基盤にした段階的な展開です。そして、10億円を越えてはじめて、複数の事業をそれぞれ本格的に展開することが、現実的な選択肢になってきます。

③10億円は中小企業の一つの到達点であり、中堅企業へのスタート
ここで、明日の話にもつながる、大切な見方を、一つ示しておきます。この10億円という規模は、中小企業にとって一つの確立の到達点であると同時に、その先、中堅企業すなわち100億円を目指す場合の、基礎段階でもあります。10億円で複数の事業を持てる体力を備えることが、10日目で見た、100億円規模で複数の事業が互いを支え合う、あの厚みのある構造の土台になるのです。つまり、売上高10億円はゴールであると同時に、次のスタートでもある。この二重の意味は、明日10億宣言を扱う中で、改めて詳しく解説していきます。

ここで、5日目で見た現金OSが、改めて効いてきます。中小企業にとって、現金は、文字どおりの命綱です。どれだけ良い投資の機会があっても、それで現金が尽きれば終わりです。中小企業の采配では、攻めの判断のすべてに、現金が尽きないかという守りの問いが、影のように付きまといます。
資源が乏しいからこそ、現金OSの規律が中堅企業よりもシビアに問われるのです。

6.中小の課題3 ── 属人化が、社長個人に集中している

①社長に集中する属人化
三つ目の課題は、属人化の在り処です。

6日目では個人への属人化を扱い、9日目では、中堅企業では属人化が部門へ移ると見ました。中小企業では、属人化は、まだ、個人に集中しています。そして、その個人とは多くの場合、社長自身です。

中小企業では、最も重要な判断も、最も大切な顧客との関係も、事業の核心的なノウハウも、社長個人に集中していることがほとんどです。社長が会社の心臓であり、頭脳であり、顔である。実際には、中小企業の売上高数億円どころか、10億円を優に超え中堅企業の規模に近い会社でも、社長が管理職や現場責任者・担当者を兼ねていることも少なくありません。

これは、会社が小さいうちは、強みとして働きます。社長の力がそのまま、会社の力になるからです。しかし、これは、同時に、会社の最大の弱点でもあります。社長が倒れたら、社長が抜けたら、会社が止まる。社長個人に、すべてが集中しているからです。

②社長への属人化は会社の選択肢を狭める
そして、この社長への属人化は、会社の将来の選択肢を、大きく狭めます。
4日目で、事業承継やM&Aを扱いましたが、社長個人に会社が依存している状態では次の世代へ承継しようにも、引き継げるものが社長の頭の中にしかありません。会社を売ろうにも、買い手から見れば、社長がいなくなったら回らない会社は価値が低く見えます。

社長への属人化は、目の前の経営を回す力である一方で、将来、会社を誰かに託したり売ったりする時の足かせになるのです。だから中小企業では社長個人に集中したものを、少しずつでも仕組みや他の人へ移していくことが、将来の選択肢を広げる鍵になります。

これは、すぐにできることではありません。しかし、小さな一歩から、始められます。社長の頭の中にある判断の基準を、言葉にして書き出してみる。特定の顧客との関係を社長一人で抱えずに、若手を顧客にも同行させて引き継ぎ始める。社長にしかできなかった仕事を、一つずつ手順にして、他の人でもできるようにする。

こうした地道な作業の一つひとつが、社長への依存を少しずつ薄めていくのです。完全に属人性をなくす必要は、ありません。しかし、たとえば社長が一週間いなくても会社が止まらないというような状態に、少しでも近づけておくこと。それが、いざという時の備えになり、同時に会社の将来の選択肢を広げていくのです。

7.だから、中小の統合OSは、単層から始まる

①中小企業の統合OSは単層から始まる
ここまで見てきた、中小企業の三つの課題。すなわち、衝突が社長の頭の中で起こること。資源が乏しく、失敗が許されないこと。属人化が社長個人に集中していること。これらすべてに共通するのは、会社が、社長一人に深く依存している、ということです。

そのため、中小企業の統合OSは、中堅企業のような多階層のものにはなりません。社長と少数の幹部で回す、単層の統合OSから始まります。8日目で、統合OSは、7つのOSを束ねる司令塔だとお伝えしました。中小企業では、この司令塔を社長がほぼ一人で担います。部門に采配を分散する段階には、まだありません。

しかし、これは、出発点にすぎません。会社が成長し、壁を越えるたびに、この単層の統合OSも更新を迫られます。すなわち、社長の馬力だけで回していた段階から、管理の仕組みを持つ段階へ移行が必要になります。そして、少しずつ信頼できる幹部に、判断を委ね始める段階へ。2月の記事で見た、社長の馬力、管理、権限委譲という移行はまさにこの統合OSの更新の道のりです。そして、その先に9日目で見た中堅企業の統合OSの階層化が、待っています。中小企業は、その階層化の入口に立っているのです。

②経営はOSの更新である
中小企業の経営とは、つまり社長が自分一人の馬力で回す段階から、仕組みと共有された判断軸で回す段階へと、自らを更新していく道のりです。
社長が会社の心臓であり続けるのではなく、会社が社長なしでも脈打つように、少しずつ仕組みに置き換えていく。これは、社長が自分の存在を薄めることではありません。社長の役割が、自分で全部やる人から、会社が正しく動く仕組みを設計する人へ、進化していくことです。

この更新は、いきなり大きく変えるものではありません。中小企業には中堅企業のような、立派な管理の仕組みを一気に導入する余力は、ありません。そうではなく、できるところから一つずつ、社長の頭の中にあるものを外に出していきます。

たとえば、月に一度、少数の幹部と数字を見ながら話す場を設ける。社長が一人で抱えていた判断の一部を、その場で共有して幹部の意見を聞く。あるいは、社長が大切にしている判断の基準を、一つでも言葉にして幹部に伝えていく。こうした小さな積み重ねが、社長一人の頭の中にあった統合OSを、少しずつ社長と幹部の間で共有されたものに変えていきます。

中小企業の統合OSの構築とは、こうした地道で、現実的な作業の連続です。壮大な仕組みをつくる話ではなく、社長の頭の中を、少しずつ信頼できる人と分かち合っていく話なのです。

8.中小の本質は、資源を集中させる経営である

①中小企業は経営資源の集中が本質
最後に、中堅企業と中小企業の違いを、一言で対比して、まとめます。

中堅企業の経営の本質は、複雑さを束ねることでした。規模が大きく、部門が分かれ、人も取引も多い。その複雑さを、統合OSの階層化によって一つの方向に束ねる。これが、中堅企業の経営でした。

中小企業の経営の本質は、これとは違います。それは資源を集中させることです。社長の目が届く範囲で、限られた資源を、どこか一点に集中させる。何をやり、何をやらないかをはっきり決める。中堅企業が多くの資源をいかに束ねるかの経営だとすれば、中小企業は、乏しい資源をいかに集中させるかの経営です。同じ統合OSでも、効かせ方が逆を向きます。中堅は、広げて束ねる。中小は、絞って集中する。

そして、この集中の判断を社長の目が届いているうちに、勘ではなく、軸として持てるかどうか。これが、中小企業が次の壁を越え、10億という規模に近づけるかどうかの分かれ目になります。社長の馬力には限界があります。その限界が来る前に、判断の軸、つまり統合OSを、自分の中に、そして少数の幹部との間に築けるか。それが問われます。

ここで注意したいのは、集中とは、ただ一つの事業に絞ることではない、ということです。集中とは自社がどの顧客の、どの価値に応えるのかを、明確に定めることです。誰に、何を、どう届けて稼ぐのか。その軸が定まれば、おのずと、やるべきこととやらなくてよいことが分かれます。資源を、その軸に沿って集中できます。逆に、この軸が曖昧なまま、目の前の機会に次々と手を出すと、資源は分散し、強みは育ちません。

②求められる統合OS
中小企業の統合OSとは、突き詰めれば、誰に何を届けて稼ぐのかという軸を、社長がぶれずに持ち続けるための仕組みなのです。
日々の判断が、その軸に沿っているか。社長が、目先の誘惑で、軸を見失っていないか。それを確かめ続けることが、中小企業の采配の中心になります。

ここでも、縦串は変わりません。中小企業における経営OSの整備も、結局は企業価値と選択肢を高めることに、帰着します。社長への属人化を少しずつ仕組みに移し、社長がいなくても回る部分を増やす。それは会社を強くすると同時に、社長自身を日々の重圧から解放します。全てを抱える社長から、要所を押さえる社長へ。そうなって初めて、社長は目の前の作業から離れ、会社の将来を考える時間を持てます。承継も、売却も、さらなる成長もその選択肢が開けてきます。

③伴走型支援の重要性
中小企業の経営は社長一人にあまりに多くが集中しています。だからこそ、その集中をどう解いていくか。何に資源を集中し、何を仕組みに委ねるか。この采配を社長一人で抱え込むのは、簡単ではありません。

そして、ここまで見てきたとおり、この社長依存の構造は、調子が良いうちは見えにくく、規模が大きくなるほど解くのが難しくなります。つまり手を打つべきなのは、危機が表に出てからではなく、まだ社長の目が全体に届く今なのです。

ここで、一つ、正直にお伝えします。社長一人の経験と直感だけでこの采配をずっと最適に保ち続けることは、簡単ではありません。なぜなら、4日目で見たとおり、その判断を社内で検証する仕組みが、中小企業にはもともと乏しいからです。

社長の思い込みに対等に異を唱えられる人が、社内にいない。だからこそ、利害のない外部の視点が、効いてきます。社長の判断を外から見て、その軸がぶれていないか、思い込みに陥っていないかを確かめる。中小企業における伴走とは、社長の代わりに決めることではありません。社長一人では持ちにくい、もう一つの視点を、経営の中に組み込むことです。

本シリーズの個別相談は、原則として設立3年以上・従業員10名以上を目安にしています。ただし現金OS・原価OSが動いている成長志向の小規模事業者については、従業員5人前後から相談をお受けします。伴走型支援を希望される場合には、ぜひ、お問合せフォームよりご相談ください。

社長の頭の中にあるものを、少しずつ外に出し、仕組みに変えていく。その作業を、外部の視点とともに進める意味は、小さくありません。

明日はこの中小企業が10億という規模を目指す時の采配を、見ていきます。本シリーズで10億宣言と呼ぶ、その具体的な中身にも入っていきます。

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