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すすきので、一人焼肉をする夜

ひつじやのことを思い出しながら、夜のすすきのを歩く。
昔この界隈で店を探し、誰かと飲み、食べ、また別の店へ流れていった夜の記憶は、街を歩くだけで不意によみがえることがある。

今夜向かうのは、食べログで予約していた焼肉GINGAだ。
この店は、いまの名前になる前、「ホルモン銀牙」として知られていた。雪まつりの時期ともなると簡単には入れない店で、一月ぐらい前になると、有志を募って予約ができるかチャレンジしてみる、という位置づけの店だった。そんな記憶を持つ店が、名前も場所も変えて、いまは一人で通う店になっている。昔のことを思い出しながら、今夜もそのカウンターへ向かう。

すすきのにある現在の店舗。名前も場所も変わったが、この扉の向こうに今の時間がある。



1 雪まつり前になると、予約に挑む店だった

有志を募って「今年は取れるか」と試す

ひつじやのことを思い出しながら、夜のすすきのを歩く。
この街には、店そのものの記憶だけではなく、そこへ向かうまでの流れも残っている。誰かが「あそこ、また行きたいな」と言い出し、では今年も予約を試してみるか、という話になる。そんなふうに、行く前から少し特別な空気をまとっていた店がいくつかある。

そのひとつが、今夜向かっているこの店だ。
十年ほど前、この店は「ホルモン銀牙」として知る人ぞ知る名店だった。店は小さく、雪まつりの時期ともなると、思い立ってふらりと行けるような店ではない。一月ぐらい前になると、有志を募って予約ができるかチャレンジしてみる。人数の目星をつけ、日程を探り、電話を入れる。その段階からすでに、その年の行事のひとつのようになっていた。

だから、この店は「空いていたら行こう」という店ではなかった。
予約が取れたら、その夜は当たり。そういう位置づけの店だったのである。毎年のように名前は挙がるのに、実際に行けた回数はそう多くない。だからこそ、行けた夜の記憶は濃い。焼き台の熱、肉の匂い、卓の近さ、店の密度。あの頃の銀牙には、うまい店にしかない凝縮感があった。

当時は食べログの焼肉百名店にも選ばれていた店で、その評判の高さもまた、予約の取りにくさに拍車をかけていたのだと思う。

ホルモンの強さと、締めの記憶

当時の看板は、やはりホルモンだった。
臭みがなく、しっかり味がついていて、タレに頼らなくてもきちんとうまい。ホルモンというと好みが分かれる食べ物のように見えるが、この店のそれはむしろ逆で、「ホルモンってこんなに食べやすいのか」と思わせる力があった。

そして締めには、白醤油の卵かけご飯。
焼肉のあとに食べるには静かな一杯なのに、不思議とよく覚えている。肉の余韻を壊さず、それでいて店の時間をきちんと締めてくれる。ホルモンの印象が強い店なのに、最後のその一杯まで含めて、店の記憶になっているのが面白い。

締めの定番だった白醤油の卵かけご飯。店の記憶は、こういう一杯と一緒に残る。



2 名前も場所も変わったが、今の通い方ができた

すすきので一人焼肉をするための席がある

店は時を経て移転し、名前も焼肉GINGAへと変わった。
昔の少し隠れ家めいた空気とは立地も表情も違う。けれど、昔を知っているからといって、今の店を「別物になった」とだけ書くのは少し違う気がしている。いま営業している店として、ちゃんと通う理由があるからだ。

その一番大きな変化は、一人焼肉のカウンターを予約できるようになったことかもしれない。
昔は誰かと行く店だった。人数を集めて、予約が取れたら皆で向かう。そんな店だったはずなのに、今の自分にとってはいちばんしっくりくるのがカウンター席である。最大三組ほどが座れるその場所が、いまの自分の指定席になっている。

いまの自分の指定席は、このカウンターだ。ひとりで焼肉を組み立てるには、ちょうどいい距離感がある。


ここでは、注文もだいたい決まっている。
肉が来る前には、まず旨塩(うましお)キャベツ。特製のゴマ塩だれがおいしい、やみつきキャベツである。網が落ち着くまでのあいだ、これをつまみながら最初の皿を待つ。


まずは旨塩キャベツ。網が落ち着くまでのあいだ、これをつまみながら最初の皿を待つ。


そのあとで頼むのが、「GINGA 9種盛り」だ。

GINGA 9種盛り 2,420円
各種1切れ程度で9種類を盛り合わせた、お一人で楽しむお得な盛り合わせ。
内容は、ホルモン、赤身、希少部位、ジビエなど、当日入荷の中からおすすめを9種類。
一口ずつ多種多様なお肉を楽しめる、1人前。

食べログ「焼肉GINGA」より

9種盛りは、1切れ程度で種類を提供するメニュー。独特の風味が強いジビエ・ホルモンでも試してみようという気にさせてくれる。しかもこの皿の面白さは、内容がその日ごとに変わることにある。決まった盛り合わせではなく、その日の入荷の中から組まれる日替わりの一皿だから、その日の店の顔ぶれを最初に見せてくれる。

だから自分にとって9種盛りは、ただのお得な盛り合わせではない。
その日の「当たり」を探すための皿でもある。ひと通り食べてみて、その日とくに良かったものを見つけ、そこから追加していく。この作業がいい。


その日の入荷で顔ぶれが変わる9種盛り。まずはこの一皿で、その日の“当たり”を探していく。



3 “いつもの”を頼みながら、その日の当たりを探す

一人だからこそできる、今のこの店の楽しみ方

追加で頼むものにも、自分なりのいつもの流れがある。
ミノ、レバー、コリコリは欠かせない。普通の赤身肉は一皿頼むかどうかというくらいで、この店ではむしろホルモンや希少部位、ジビエのほうへ手が伸びる。なかでもレバーは9種盛りには含まれないので、これは必ず別に追加する。


レバーは9種盛りに入らないので、これは別に頼む。自分の“いつもの”に欠かせない一皿だ。


9種盛りでその日の顔ぶれを見て、
その中から特に良かったものを選んで、あらためて一人前で追加する。気に入ったものはさらに一人前追加することもあるし、9種には入っていなかった別の部位にチャレンジすることもある。決まった正解があるわけではなく、その日の皿を起点にして、自分でコースを組み立てていく感じに近い。

この食べ方が楽しいのは、一人焼肉のカウンターを予約できるようになった今の店だからこそだと思う。
誰かと相談して無難なところへ落ち着くのではなく、自分のペースで、その日の当たりを探しながら組み立てていける。旨塩キャベツから始めて、9種盛りで全体を見て、ミノ、レバー、コリコリを足し、さらに気に入ったものを追加する。それが今の自分の「いつもの」になっている。


気に入ったものを追加しながら、自分の順番で食べていく。一人焼肉の楽しさはそこにある。

ジビエが入る日もある。
ヒグマが出てくることもあり、さすがに臭みも強い。食べやすいとは言いにくいが、それでも話の種にはなる。ニュースで、家畜を襲うヒグマがそれとは知られず駆除され、食肉として下ろされたという話を聞いたとき、ふとここで食べた熊肉のことを思い出した。日常ではそうそう口にしないものが、この店では皿の上に出てきて、食べることそのものが記憶になる。

昔のホルモン銀牙の記憶は、もちろん消えない。
けれど、いまこの店に通う理由は懐かしさだけではない。焼肉GINGAが、現在進行形で面白い店だからだ。昔は予約を取れた夜に皆で向かう店だった。今はカウンターに座って、自分のための順番で肉を選んでいく店になった。

店の名前は変わった。
場所も変わった。
それでも、すすきのでこの店へ向かう夜には、昔の記憶と今の楽しみ方がちゃんとひとつにつながっている。今夜もまた、その指定席で一人焼肉をする。9種盛りでその日の顔ぶれを確かめ、気に入ったものを追加していく。その時間ごと、この店のいまを味わっているのだと思う。



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