札幌に行くと必ずジンギスカンを食べていた― すすきのの小さな店の思いで
1.名寄から札幌へ、そして夜のすすきの
食べる街、札幌
名寄から札幌に戻ってきた夜、ホテルに荷物を置いてから、さて何を食べようかと考える。札幌は食べるものに困らない街だ。海鮮、ラーメン、スープカレー、寿司、そしてジンギスカン。観光で来る人にとって、札幌は「食べるために来る街」と言ってもいいのかもしれない。
すすきのを歩くと、相変わらず人が多い。海鮮居酒屋の看板にはウニやホタテの写真が並び、ラーメン屋の前には行列ができ、そしてジンギスカンの店の前にも人が並んでいる。ビール園、だるま、ひげのうし。週末の夜は、どこも混んでいる。
札幌に来ると、やはり一度はジンギスカンを食べたくなる。本州でも最近はジンギスカンの店を見かけるようになったが、意外と値段は安くない。焼肉と変わらない値段になることもある。だから北海道で食べるジンギスカンには、味だけではなく、土地で食べる納得感のようなものがある。
予約をする店、予約のない店
今回、夜に行く店はもう決めてあった。前日のうちに食べログから一人用の席を予約してある。時間になれば席に案内され、肉を焼いて食べる。それだけのことなのだが、ふと考えると、昔通っていた店とはずいぶん違うものだと思う。
昔通っていた店には、予約というものがなかった。店に行って、席が空いていれば入れるし、満席なら外で待つ。それだけだった。電話で予約をすることもなかったし、そもそも予約という発想があまりなかったように思う。
すすきのの夜の空気を歩きながら、昔よく通っていたジンギスカンの店のことを思い出した。
2.mixi日記に残っていた店
mixiに書いていたあの店
2007年9月1日のmixi日記に、その店のことをこんなふうに書いていた。
北海道に行くとサッポロビール園なんかで食べるんでしょうが、自分がすすきのに来たとき、行く店は決まってます。
「ひつじや」

すすきのに古くからあるジンギスカンの店だそうで、
観光客向きのこぎれいな感じの店ではなくて、居酒屋っぽいです。
店は無口なおじさんとおばさんの二人で切り盛りしてて少し無愛想。
カウンターにつくと、目の前の七輪にジンギスカン鍋をのせて準備をしてくれます。
野菜(タマネギ&もやし)とセットでジンギスカン一人前600円。
大体、二人前とご飯+ビールの組み合わせで頼んでます(笑)
ビール一杯と、ご飯、2人前食べても2000円ぐらいで済んでしまいますね。
今読み返すと、ずいぶん安い話を書いている。2007年だから、もう20年近く前の話になる。当時のすすきのには、まだこういう値段で食べられる店が普通に残っていたのだと思う。

七輪と煙の店
その店は、観光客向けの有名店とはまったく違う雰囲気だった。店は広くなく、カウンターとテーブルが少し。排煙が十分ではないので、上着や鞄を入れるビニール袋を渡される。店に入ると羊の脂と煙の匂いが混ざった空気が漂っていて、それだけで「ああ、ここに来たな」と思うような店だった。
メニューはほとんど選ぶものがない。ジンギスカンのセットが基本で、あとは肉を追加するか、野菜を追加するか、それくらいだった。ビールは瓶ビールのみ。とてもシンプルな店だったが、不思議と居心地は悪くなかった。
無口な大将と女将さんが店を切り盛りしていて、特別な会話があるわけでもない。注文をすると黙って七輪に火を入れ、鍋をのせ、肉と野菜を出してくれる。こちらも黙って肉を焼いて、ビールを飲んで、ご飯を食べる。それだけの時間だった。
観光客向けの店のように、焼き方を説明してくれるわけでもない。おすすめの食べ方を教えてくれるわけでもない。ただ肉を焼いて食べるだけなのに、なぜかまた行きたくなる店だった。
3.店がなくなっても、札幌に行くと肉を食べる
店と時間
そのうち、店に行くと女将さんの姿を見なくなり、大将一人で店に立つようになった。それでも店は変わらず続いていたが、コロナ禍のあと、気がつくと店は閉まっていた。張り紙もなく、ただシャッターが下りているだけだった。
長く続いていた店だから、いずれそういう日が来るのだろうとは思っていたが、実際に閉まっている店の前に立つと、少し不思議な気持ちになった。もうあの七輪の前に座ることはないのかもしれないと思った。
最近になって、どうやら店のオーナーが変わり、店自体は再開しているらしいと聞いた。同じ場所に同じ名前の店は残っている。ただ、あの頃の店の空気まで残っているのかどうかは、まだわからない。
旅先に通う店
2007年の頃、自分は高知に住んでいて、札幌は遠い旅先だった。それでも札幌に行けば必ず寄る店があった。旅行先に「通う店」があるというのは、今思うと少し不思議なことだ。
店はなくなってしまっても、街の記憶は残る。
そして札幌に行くと、やはり肉を食べる。理由は自分でもよくわからない。
ただ、札幌に行くと肉を食べる。
それだけは、昔から変わらない。
