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毎日不幸とかウケる。ウズベキスタン珍道中【第2話】~ホテルが取れていない私たちに鳩の糞がダイブ~

※本作品は全10話の連載エッセイです。
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来たぞサマルカンド!

旅2日目の朝。
サマルカンド駅に到着した私たちは、蒸し風呂のような寝台列車からようやく解放された。身体は汗でベトベトであるが、サマルカンドの朝は実に爽やかだった。

おはようサマルカンド

時刻は朝の6時前。サマルカンド駅で身支度を整え、まずは予約しているホテルへ荷物を預けに行くことにした。ちなみにこの時間でも駅に白タクはいた。

スーツケースを転がしながら、ホテルまでのガタガタ道を歩く。異国の空気は、ただ歩いているだけで旅行者の気持ちを弾ませてくれる。
油断すると見過ごしてしまいそうなその小さな木の扉を開けた瞬間、私の目の前に、まるで異世界に飛んでしまったかのような景色が広がった。

「わぁ素敵!」

思わず声がこぼれる。
その異世界こそが今夜宿泊するホテルなのだ。


ウズベキスタンには、3,000円台と低価格帯でありながら素敵な雰囲気のホテルが多く存在する。そういった宿泊施設を上手に利用して全体の旅行代金を少しでも抑えたいというのは、今回の旅の計画時に私が目指していたことであった。
その観点から言えば、今回予約したこのホテルは1泊15,000円以上と私の基準から大幅に外れていた。しかし、それでもどうしても泊まってみたいと思わせる魅力がそれを上回ったのだ。

「やっぱりこのホテルにして良かったな~」
綺麗に手入れされた中庭に見とれながらフロントの男性に名前を伝えると、まさかの回答が返ってきた。

「そのような予約は無い」と言うのだ。


実はそんな予感はしていた。
このホテルの予約は、いわゆる一般的な予約サイトに検索を掛けてもなかなか出て来なかった。どうしても宿泊したかった私は、今年の2月にホテルのサイトから直接申し込んだのだ。
そして、オーナーと名乗る人物と何度かメールでやり取りをした。予約サイトで申し込んだ時のようなバウチャーが発行されないため、「予約取れてる?大丈夫だよね?」と何日かに渡ってメールをしたが、オーナーは「もちろんさ!」と超短い返事だけを毎回私にくれた。
日本を発つ直前、駄目押しの一手でもう一度「あさって行くけど本当に予約大丈夫なんだよね?」とメールを送ってみたが、オーナーはやっぱり「もちろんだ!」みたいな返事を返してくるのだった。
んで、結局取れていなかったっていうね。

こっちも遥々日本から来て一発目の宿が無いってんじゃ堪らないので、まぁまぁ粘る。
フロントの男性にメールのやり取りを見せながら、ああだこうだと奮闘するが、困ったように「満室で部屋が無いので…」と言われ、終わりを悟る

聞くと、私がやり取りをしていたオーナーは昼前に出勤してくるらしい。
「オーナーが出勤したら事情を聞いてみて連絡するよ」と言われ、情けで荷物だけ預かってもらうことに。
最後にもう一度「空いてる部屋、無いんだよね?」と確認すると、「無い。残念ながら、今日は全部予約で埋まっている。ただ一部屋だけ、来るか来ないかわからないトリプルルームのお客さんがいて、それは14時になったらはっきりするよ」

ちょま?それがウチらなんじゃない?

と、心の中でそっと思いつつも、もうやり取りにも疲れたし、とりあえず荷物を置いて観光に出ることにした。


これは当然の流れかと思うが、そこから20分くらい、同行者の豚山とほんのり揉めた
問題の原因を追究する豚山と、どうにか解決策を考えようとする私。話せば話すほどすれ違っていく。
ワチャワチャやり合いつつも、当日予約でもホテルはなんとかなりそうだとか調べながらタクシーでバザールへ移動。

このバザールが楽しすぎて、ホテルとかもうどうでもよくなる

広い敷地内に雑多に並べられた異国感満載の品々を見ているだけでワクワクするし、気軽に話しかけてくれる現地の人々とのふれあいも幸福感が高い。
目に映るものすべてが魅力的に見え、ここで食器やピンバッジ、アクセサリートレイや現地のノートなど、あれやこれやと買い込んだ。
気分が高揚しすぎて、ウズベキスタンと全く関係の無いエジプトの置物まで手に入れる始末。この”EGYPT”と彫られた置物に魅力を感じる程度には、私のテンションはしっかり浮かれきっていた。

EGYPT

ふと、まだ朝食をとっていなかったことに気付き、近くにあったシャシリクのお店へ入ってみることにした。
シャシリクとはウズベキスタンの代表料理で、大胆にカットされた肉の塊を金属の串に刺し、炭火で香ばしく焼いたものである。中央アジアらしいスパイスを使った味付けが美味しいらしく、今回の旅で楽しみにしていた料理のひとつだ。

人生初シャシリク。これが、むちゃくちゃ美味しかった!
暑さと空腹が作用したのもあると思うが、頬張った瞬間に口いっぱいに広がるスパイスの風味と炭火の香ばしさ、そしてなにより肉のジューシーさが半端ではなかった。
このあと続く旅でシャシリクは何度も食べたが、この店のシャシリクが一番美味しかった。忘れられない。

うますぎた

そんなこんなしている間に、そろそろオーナーが出勤しているはずの時間だ。連絡は…もちろん来ていない
気を取り直し、こちらからショートメッセージを送ってみる。

「オーナーは来たか?」

数分後、返信アリ。
「来たYO!」

こちらもすぐに返信。
「部屋の件どうなった?」

返事は途絶えた
いつだって肝心のところを教えてくれない。
私たちの宿はどうなるのか!?もう誰も知らない。


大興奮のバザールを後にし、次なる目的地に行くべくYandexタクシーを呼ぶ。
呼んだポイントが悪かったのか、近くまで来ているはずのタクシーとなかなか会えず…。
するとドライバーから私のスマホに着信。もちろん相手はウズベク語だ。一瞬ひるむが、パッションでやり取りし、なんとか会えた。会えた時ちょっと感動までしたよね。

そのままタクシーで、サマルカンドの人気観光地のひとつ『グーリ・アミール廟』へ。
なんだかようやく観光らしい観光が始まった気がする。ATMもあったので、ついでにキャッシングも済ませてしまおう。ざっと見積もってこの旅行中に必要そうな金額、2,800,000スム(=38,000円弱)をキャッシングした。

入場料を支払い、中へ入る。
もう既にとんでもない暑さになっていたが、そんなことを吹っ飛ばすほどの光景が目の前に飛び込んできた。
「なんだこの美しすぎる建物!これがお墓ってマジ?」
そう、このグーリ・アミール廟はその”廟”という文字の通り、墓なのだ。ティムール帝国を築いた偉い人が眠っている。

建物の気合いも相当なものだ。
優美なフォルムから放たれる圧倒的な佇まい。そしてそれを構成するタイル細工の美しいことよ。
爽やかな青を基調とした建物の中に足を踏み入れると一転、しんとした黄金の世界が広がる。建物上方の小さな窓から入る光が黄金色のドーム内を照らし、この世のものとは思えぬほどの麗しさである。

「ヤッバ…」

あまりの興奮でカメラのシャッターを押す手が止まらない。最初からこんな調子となると、これから一体どうなってしまうのか。
どうやら私はとんでもない国に来てしまったようである。


興奮の勢いそのままに、今度は道路を挟んで向かいにある『ルハバット廟』へ。
こちらは先ほど見学したグーリ・アミール廟に比べシンプルな建物だ。入場料も無く、公園のような敷地内の一角に立っている。

売店があったので、飲み物を買って木陰のベンチで休憩することにした。暑さでカラカラに乾いた喉を、飲み慣れない異国風味の水分が潤してゆく。
「なにこれ変な味!」
そう言って笑い合う。旅行あるあるの平和すぎる時間だ。
売店には土産物も並んでいた。しばらく眺めたのち、サマルカンドナンを模した陶器製のマグネットをひとつ選び購入した。ツヤツヤしていて可愛い、お気に入りの一品だ。

ちなみにここの中庭には、観光地におなじみの”顔はめパネル”があった。ウズベキスタンは全部で4都市を回ったが、こういったパネルが置かれていたのはここだけだった。
念のため顔はめツーショットも撮影してみたが、豚山と私、いかにも呑気な日本人がそこに写っていただけであった。

めでたい

そろそろ時刻は14時だ。連絡の途絶えたホテルに戻ってみることにしよう。ダメならダメで、別のホテルを探すしかない。
距離感がまだよく掴めていなかったこともあり、ホテルへはそこから歩いて向かうことにした。結果論になるが、これは大いに誤った判断だった。

ジリジリと照り付ける太陽…
消耗していく体力…

心身ともに余裕が無くなってきた頃、再びほんのりとした喧嘩が勃発。
”そもそもなんで予約が取れていないのか”の魔議題がリピートされる。もうやめてくれ。
そしてそんな喧嘩の最中に突如登場する、サマルカンド最高峰の観光スポット『レギスタン広場』。
こんな荒んだ精神であなたを迎えたくなかった

今じゃない

そしてオーナーとの対決

ホテルへ戻ると、フロントにはオーナーが立っていた。
こちらが事情を尋ねるやいなや、もの凄い勢いで捲し立てるオーナー。圧がスゴい。そんでもってどうやら「部屋はある」そうだ。
日本だとこういったシチュエーションの時、オーナーが申し訳なさそうに状況を説明して…みたいな対応を想像しがちだが、清々しいまでにそういったものは一切無く、あぁここは外国なんだなぁと実感した。とりあえず今夜泊まれるところがあって良かった。

ちなみに【ツイン1泊$95】で申し込んでいたはずだが、チェックイン時の会計では【トリプルルーム1泊$90】になっていた。
…ねぇやっぱりさ、来るか来ないか14時にならないとわからない客ってウチラだったんじゃないの?
そんなことを思いながらふとオーナーに目をやると、ホテルの敷地内で写真撮影に盛り上がっていた観光客に向かって「寝てる人いるから静かにしろ!」と怒鳴っている最中であった。可愛らしいホテルに似つかわぬ、威勢の良いオーナーである。


ルームキーに書かれた部屋番号のドアを開けると、異国情緒溢れる世界が飛び込んできた。
まず、トリプルルームなのでめちゃくちゃに広い。確実に持て余すであろうその広い部屋には、ウズベキスタンらしい民族調模様のタペストリーやラグなどがセンス良く飾られていた。
水回りには青を基調としたタイルが腰の高さまで貼られており、可愛らしくも上品な雰囲気だ。もちろん清潔感も申し分ない。
外観のデザインも素敵だし、インテリアも可愛すぎる。なんていうか…良すぎる

今回の旅ではこの先いくつかのホテルに宿泊することになるのだが、その中でもこのホテルがぶっちぎりで一番快適であった。
またサマルカンドを来訪することがあれば泊まりたいと思うほどに。


豚山の悲劇

部屋に荷物を置き、再び散策へ。
まずは有名な『ビビハニム・モスク』から回ってみることにしよう。

このモスクを一言で表すならば”デカい”であろう。カメラの画角に入りきらないほどの巨大さに、誰しもがひたすら圧倒される。
「中庭にあるコーラン台の周りを3周すると願いごとが叶うらしいよ」と伝えた次の瞬間にはもう豚山が小走りで周り始めていた。私の見た限り、中庭にたくさんいた観光客の中でせっせと周っていたのは彼だけである。

近くにあるカフェで一旦休憩し、次の目的地へ向かうべくタクシーを呼ぶことに。車が停車しやすいよう、広い道路まで出てからYandexの呼び出しボタンを押した。今回のタクシーは来るまで少し待ち時間があるようだ。
Yandex Goアプリでは、呼び出したタクシーの現在地がリアルタイムで表示される。2人でスマホの画面を覗き込みながら「あ~なんでそっちの道行っちゃうの~!?」とかなんとか、割と暇つぶし的に楽しめたりする。

と、そこへ、上空を飛んでいた鳩からの”落とし物”が私たちにダイブ!!
私は帽子の上、豚山はあろうことか素肌に直である。さっきまでの朗らかな笑顔は一変、悲しげな豚山。いやマジでかわいそうなのだが
ビビハニム・モスクの願いごと、叶うといいね…

右手前のデカいのがコーラン台

「今日はついてねぇな」とこぼしながらタクシーで向かったのは、市街地の少し外れにある『ホジャ・アブディダルン廟』である。
ここは特に期待していなかったのだが、予想に反してなかなか良い場所だった。
私は本業が建築士ということもあり建築見学は比較的好きなほうなのだが、美しいタイル細工やファサードのバランス、オリエンタルな天井装飾や中庭の池に面したテラスの木造柱など、要素のひとつひとつに見応えを感じた。
夢中になって見ていたら、施設のおじいさん職員が登場し即席のガイドを始めてくれたのも良かった。おじいさんは私たちに丁寧に説明しながら奥の部屋まで見せてくれた。途中から別の若手職員が「なんで観光客にそんな部屋まで見せてるんだ!」と怒って乱入し、おじいさんとガチの言い合いを始めてたのも良かった。なんていうか、全部良かった

そんなハートウォーミングな気持ちでホジャ・アブディダルン廟を後にし、道路を挟んで向かいにある『イシュラトハナ廟』へ。
ここは先ほどと打って変わって”朽ち果て系”である。そんなカテゴリーがあるのかは知らないが、とにかくもう今にも崩れ落ちそう。日本の歴史だと室町時代の建物にあたり、それからただの一度も大規模な修復がされていないのだと、ベンチで蟻まみれになりながら豚山が調べてくれた。
サマルカンドには豪華絢爛たる建築物が多くあるので、このような姿のまま残っているこの建物は逆に胸を打つものがある。

崩れそう

いろいろあったが平和な夜

時刻は19時前。ここからレギスタン広場に向かえば、夕暮れとライトアップを見るのにちょうどいい時間だ。

そんなレギスタン広場のすぐ近くに、ジェラート屋が一軒ある。可愛らしい店構えの正面にカラフルなジェラートをズラリと並べた、いかにも観光客好みの店だ。安くて美味しいので常に大混雑している。なぜ知っているのかというと、実は昼に喧嘩しながらここを通った時にも1回食べているからだ。美味しかったのでもちろんリピである。

ライトアップを見るためのべスポジをキープしながらアホみたいな顔でジェラートを食べていたら、この平たい顔が物珍しいのか、現地の子供たちがめちゃくちゃ見てくる。この国の子供は本当に人懐っこくて可愛らしい。
すると一人の男の子が、私たちに”側転”をして見せてくれた。
「凄いね~」という反応を私がすると、照れくさそうにもう一回やって見せてくれた。それを何セットかやった

そんな調子で子供たちと遊んでいるのか遊ばれているのかわからない時間を過ごしていると、いつの間にかライトアップが始まっていた。先ほどまでお喋りに夢中だった人たちも、一様に建物のほうを見つめている。
暗くなったレギスタン広場に浮かび上がるマドラサ群は、その建物の大きさも相まって圧倒的な美しさを放っていた。

20時を過ぎるとパラパラと人が帰り始めたので、私たちも腰を上げた。
帰り道はみんな開放的でパリピ多め。そしてどこからともなく轟く爆音。世界って楽しいよね。ずっとこんな時間が続けばいいのに。
そんなことを思いながらホテルへの帰路についた。

さすがに疲れすぎたのか、この夜は泥のように眠った。
本当はひとつやりたいことがあったのだが、それはまた明日やることにしよう。



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